異世界転移殺人事件 ~推理しない探偵は初めから犯人を知っている

寿 利真

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出発 2

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 確かにラノベでお約束な異世界人特典のチート能力は、中二時代を遥かに過ぎ去った今でも心ときめくものがある。

 軍曹のような魔法も頭脳も神のように万能――というのは特殊中の特殊例。
 チェンジリングの半数以上は、こちらの科学や魔法で十分置き換え可能な程度の能力に過ぎないのが実情だが、国家の役に立つ有益な能力を持つ者も何割かはいるのだ。

 その何割かの方に入っていれば、能力の内容によっては機動城での安全性が高まるかもしれない。

 それを期待して、実はこの半年、自分も何か特殊能力などに覚醒してはいないだろうかと、折に触れ振り返ったり、考察したりはしていたのだ。アルフォンス君に言われるまでもなく。
 中二病罹患者との違いは、ただの妄想ではなく、現実に可能性があるか否か、となるだろうか。
 ただ実際にやっている行為は変わらないので、いい年をして少々恥ずかしいものがあるのが難点だ。

 そしてふと、「まさか、あれだろうか?」と思い当たったものが一つだけあった。 
 だがもしそうだとしたら、それはこれからの僕の人生において、何かの役に立つ日は永遠に来ないと断言できる。
 チェンジリングの異能は大なり小なり個人差があり、種類も千差万別。
 僕の場合は、残念ながらまったくの無力と同義だろう。

 だから、結局「ない」と結論付けた。

 まあそれも仕方がない話だ。
 せっかくの異世界転移なのだから、数多ある物語のように現地人とは隔絶した派手な感じの神様のご褒美など欲しいところだが、これといって神の目に留まるほどの善行を積んだ覚えもないのに図々しい要求というものだ。そもそも歴史に名を残す偉人レベルでも都合のいい奇跡などそうそう起こらないのに、一般人が日常生活でちょっといいことをしたくらいで、神の寵愛やチートをほいほい与えられる方がどうかしている。神とやらもどうせチートを与えるなら、マザーテレサや国境なき医師団のような方達にでも与えればいいものを。大した展望も目的意識もなく漫然と生きていたその辺の名もなき一般人に与えてどうするのだ。無力なうちから行動するのが本物の信念であって、チートな力や便利な道具を手に入れたから何か施してやろうというなら誰だってできる。普段からやっていないのなら、映画版だけいい奴になっても所詮はまやかしだ。結局その場限りのもので、本物の信用とは程遠い。
 その基準で考えれば、僕に与えられるものなど、せいぜい悪魔の悪戯くらいのもので十分おつりが来るというものだ。
 おっと、空想と現実がごちゃまぜになってしまった。

 ともかく現実的に考えて、強いて僕の現在の力らしきものを挙げるなら、せいぜい著作権ビジネスで跳ね上がった資金力くらいだろうか。

 しかしこれから対峙するかもしれない相手は、きっと札束ビンタなど無効だろう。国家予算レベルの遺産を前にしては、はした金というものだ。
 もっともデジタル化された社会で、紙の現金自体が存在しないため、実際にはやりたくてもできないのだが。金貨のような貴金属のコインならあるが、それで殴ったら立派な鈍器だ。レジ袋に入れた数枚の硬貨で車の窓すら割ることができるというから、心を折る前に物理で骨が折れるだろう。

 一応、十五年前の反省を踏まえて、治安の崩壊が懸念される屋敷内において、国の方でも安全対策を取ってはいるそうだ。
 今回は武器の持ち込みが事前に厳重にチェックされる。

 ちなみにアルグランジュでは一般人の武器の個人所有は、失神や麻痺、弛緩など殺傷能力のないものに限られる。
 しかも生体認証付きで持ち主しか扱えないし、所有者が個別登録されているので使用したらすぐに識別され、公的に記録もされるため、不正使用は難しい。完全に自衛のみの目的で所持が許可されるものだ。

 更に言えばSF物でおなじみのサイボーグや身体強化系の肉体改造も、軍事・医療目的以外ではまずないので、超人的な変貌を遂げた一族の誰かに襲われるような心配はとりあえずない。そもそも一般人が戦う必要性のない社会なのだから、そこは法できっちりと制限されている。

 仮に物語のようにマッドなサイエンティストが個人でこっそりやろうとしても、完全監視社会なので、不自然な電力使用量や特殊な物資の購入・搬送など異常な点が確認されれば直ちに自動で分析され、立ち入り調査が入って企みがあっさりと露見してしまうのだ。
 だからこそ、すべての研究が謎に包まれている軍曹の特殊さが際立つわけだが。

 ああ、こんな時だというのに、またうっかり脱線してしまった。アルフォンス君の問いは何だったか。そうそう、僕の異能についてだった。
 一応僕もチェンジリングではあるが、何らかの能力的な変化は、これといって表れた兆しもない。日本でもここでも、誰かと戦えるような力は依然として皆無というのがファイナルアンサーだ。

「残念ながら、絶体絶命のピンチに都合よく眠っていた力に覚醒するようなドラマチック展開は期待できそうにありません。格闘技なども特に経験はありませんし、素手での自衛能力に関しては、普通の女性と大差ないでしょう。まあ、どのような事態に直面しても、比較的冷静に動ける方だとは思いますが」
「いえ、それが一番重要ですから。あなたが落ち着いて行動してくれていれば、俺も守りやすい」
「僕は、初めから君以外の人間は全て信用しませんよ。疑わしい者も、そうでない者も」

 密着しすぎて表情が見えないが、迷いなく宣言する。

 アルフォンス君も頷いた。

「それくらいでちょうどいいです。俺もそうしますから。あなた以外は、全員容疑者と犯罪者予備軍のつもりでいます」

 覚悟の決まった顔つきで、体を離したと思ったら、代わりに僕の手をしっかりと取った。迷いを振り払った強い視線で僕を見下ろす。

 単純な暴力には無力な僕を連れて、アルフォンス君は十五年間待ち焦がれた危険地帯へこれから乗り込もうとしている。
 数秒後、顔を上げて前を向いた。まるで立ち止まりそうな己を奮い立たせるかような表情で。

 今は、僕も黙ってその手に応える。

 遥かな昔、いつも繋いでいた手を思い出す。
 当時の僕の片手にすっぽりと収まってしまう幼い手。
 記憶の中にだけ永遠に変わらずある、二度と成長することのない手のはずだった。

 今は、僕よりはるかに大きな手が、逆に僕の小さな手を包んでいる。
 立派に成長したあの可愛い弟が、自分が家族を守るんだと意気込んでいるように見えた。
 伝わってくる決意に、嬉しさを感じてもいる。

 これはまた、現実逃避だろうか? 倒錯的な錯覚に陥っている?

 いや、違う。
 これは、今の僕自身の決意でもある。

 機動城の中で何が起ころうとも、この手は離さない。何をおいても守る。

 ふと振り返ると、クマくんと目が合ったような気がした。
 もっとも彼のカメラやセンサーは、飾りの目とは違う場所に内蔵されているので、あくまでも気分の問題なのだが。
 そんなはずはないが、なんだか見送ってくれているように見える。

 前に命を落とした時には、それで永遠の別れのはずだった。
 今度は必ず、再び我が家へと戻ってくる。アルフォンス君とともに。

 密かな意志を胸に、家族であり、同士でもある青年を見上げる。

「では、行きましょうか、アルフォンス君」
「はい、コーキさん」

 大きな手を強く握り返して、僕達は玄関から一歩を踏み出した。





  ―――――――― 一章 完 ――――――――
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