異世界転移殺人事件 ~推理しない探偵は初めから犯人を知っている

寿 利真

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集合

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「よお、アル、コーキ。お前らが最後だぜ」

 門前に集まっている十一人の中から、知った顔の青年が歩み寄ってきた。
 墓参りの日、アルフォンス君に会いに来てくれたクロードだ。

 それから僕を見て、少し驚く。

「あれ? 髪染めたのか? それも似合ってるな」

 あの日だけ特別に元に戻したが、今の僕の髪は真っ赤なショートヘアだ。

「ええ、普段はこちらにしてるんですよ。そうしないとマリオンさんと混同されそうなので」
「ああ、ここにも何人かいそうだしな」

 そう言って、クロードが他の十人にちらりと視線を送った。

「ル、ルシアン!?」
「いや、マリオンだろ!」
「違うわよ。チェンジリングになったって、あれだけ騒がれてたじゃない」

 僕を見た一族の皆さんがにわかにざわついた。
 ショートカットでマニッシュな服装の僕は、双子の弟のルシアンと間違われたようだ。確かに髪の色は違うが、言われてみれば似ているかもしれない。

 皆、初見は驚きで思わず言葉を漏らしてしまった様子だったが、その後は進んで接触はしてこない。露骨に、あるいはちらちらと僕の方を見て、何か言いたげにしているだけだ。
 というか、十人以上いるのに、私語自体がほとんどない。
 自主的に口を噤んでいるような雰囲気だ。

 こちらに来てから、クロード以外は初対面になる。一人一人にさっと視線を走らせた。全員記憶通りだ。名前も顔もはっきりと認識できた。
 マリオンの地毛もそうだが、さすがに一族が集まっているだけあって、半数ほどが特徴的な水色の髪をしているのが印象的だ。

 そんな中で、僕を食い入るように睨みつける女性がいた。一族の輪から抜け出て、僕の前まで進み寄ってくる。

「マリオン! よくものこのこと顔を出せたものね! この人殺し!」

 いきなりそう食って掛かってきたのは、マリオンの従姉に当たるアデライドだ。
 ジェラールの長男であるベルトランの娘で、十五年前の事件で弟のラウルを殺されている。
 事実はどうあれ、目の前の僕は、彼女にとって弟の仇となる。

 マリオンがラウルを惨殺した記憶映像も、当然見ているのだろう。
 それだけに、僕としてもあまり反発は感じなかった。
 動きかけたアルフォンス君を、特に問題もないと視線で制する。もし僕も弟を殺した人間を目の前にしたら、殺意が抑えられないに違いないから。

「落ち着け、アデライド。彼女はマリオンじゃない」

 この中で最年長となる父親のベルトランが、暴走し始めた娘の肩に手を置いて押しとどめるが、その表情はどこか複雑そうだ。理性では分かっていても、感情では娘と同様といったところか。

「やめろよ、母さん。チェンジリングなんだから、中の人は別人なんだよ? マリオンはもう罰を受けたんだ。この人に言っても仕方ないよ」

 一人息子のジュリアンも、反対側から引き止めた。こちらには特に深刻さはうかがえない。どちらかというと、多感な高校生だけに、取り乱す母親に対して、困惑と恥ずかしさ半々といった気配だ。
 事件当時の彼は三才。殺された叔父への思い入れはさほどないのだろう。

「ふん! きっとマリオンが死刑から逃れるためにチェンジリングに成りすましてるのよ! 正体を現しなさいよ!」

 一人感情を爆発させるアデライドに、他の皆さんは閉口している様子だった。
 目に見えて攻撃的なのが一人だけで、差し当たり僕もほっとする。

「アデライド、いい加減にしなさい。マスコミに撮られてるわよ」

 ジェラールの長女ベレニスが、抑えた声で姪を𠮟りつける。ベルトランのすぐ下の妹だ。

「あ~あ、また炎上確実だな。よくも怒りがそんなに続くもんだぜ」

 ベレニスの長男のレオンが、皮肉を言う。年の近い従兄妹同士の遠慮のなさというよりは、単純に思いやりと分別のなさだろう。口調が明らかに馬鹿にしている。

「ホント、十五年も昔のことをいつまで引きずってるんだよ、しょーもな」

 この親にしてこの子ありというべきか。レオンの息子のヴィクトールが、半笑いで揶揄した。鼻につく振る舞いが、父親とよく似ている。

 あまりに無神経な言い草に、アルフォンス君も無表情になる。態度には出さないが、やはりかなり癇に障ったようだ。
 ヴィクトールは、アルフォンス君にとっては従兄のレオンの子供に当たるが、年齢は一つしか違わない同世代なのだ。これまでもさぞ反りが合わなかったことだろう。

 クロードが無言で、アルフォンス君の肩を叩いてなだめる。やはり彼は賢い。こういう輩は放っておくに限る。
 アルフォンス君も気を取り直すように長い息を吐いて、不愉快な男から視線を逸らした。

「あんた達は家族を殺されてないからそんなことが言えるのよ!」

 無視できないアデライドは、煽られてカッとした。同情と共感はあるものの、怒りの矛先が僕から逸れたのは素直にありがたい。

 それにしても、気持ちは分かるが、正直本当に面倒くさい。
 これから密室で一緒に過ごさなければならないのに、どうしてわざわざ空気を険悪にする必要があるのだ。まだ五日間の宿は始まってもいないのに。

 これも「遺産」のなせる業なのだろうか。ここにいる人間は、助け合う親戚同士ではなく、足を引っ張り合うライバルの印象の方が強い。

 それにしても、もともと沈黙に支配されていたのは、マスコミ対策だったはずなのだが、すでに数人は失念しているようだ。
 周りは依然として、軍の警護とマスコミや野次馬で取り囲まれているというのに。
 映像も音声も、遠距離からばっちり狙われていても、もはやお構いなしだ。

 事件以降、計十四回ここに集合してきて、軽率な発言で痛い目にあった人物は片手の数では足りない。
 初期の頃は、この待ち時間での親戚同士の何気ないおしゃべりで、マスコミにいいように切り取られた発言が世間で度々大炎上してしまっている。

 実際僕も、過去のニュースを調べていて、まるで女性誌か二時間サスペンスの如き強烈な煽り文句に眉をひそめたものだ。

 うっかり遺産が欲しいなどと正直な軽口を叩けば、金の亡者扱い。マリオンの悪口を感情的に言ってしまえば、傍にいる残された幼子(アルフォンス君)を精神的に追い詰めて虐待する鬼畜扱い。普通にある兄弟らしい口喧嘩ですら、血で血を洗う愛憎劇にされる。

 とにかくマスコミは、遺産をかけた一族のドロドロが大好物らしい。この場での言動に大いに期待をかけ、鵜の目鷹の目で張り込んでいるのだ。

 他意のない言動で、日常生活が大きく脅かされるのは経験済み。
 皆さんそれなりに誹謗中傷を受けて凝りている中で、人目も気にせず騒げる自分本位な者と、放ってもおけずに止めに入る穏健派と、無言で不干渉の態度を貫く事なかれ主義者――一族の中でも、この数分間で人柄が明確に見えてくる。
 僕としても、今後の接し方のいい目安になる。

 まあ、良くも悪くものゴングが鳴らされるのは、おそらく屋敷に入ってからだ。

 遠くに見える野次馬の一角に視線を送れば、不安そうにハラハラと見守る集団が、お祭り騒ぎの雰囲気の中で浮いていた。
 以前クロードが口にしていた、母親への気遣いを思い出す。
 彼らは、何もできずに見送るしかない、置いて行かれる家族だ。

 親や配偶者、親しい友人――ジェラールとは血縁関係にない身内もまた、家族の無事を願いながら、機動城の外で不安な五日間を過ごすことになる。

 ある意味治外法権の機動城。公権力の介入を一切許さない無法地帯。
 ただし生きて外に出た場合、違法行為が発覚すれば、当然罪に問われる。――マリオンのように。
 被害者にも、加害者にもなりえるのだ。
 遺産を目の前にぶら下げられ、ただでさえ争いが起きやすい環境下に置かれる家族への懸念は尽きない。

 まったく軍曹も罪深いことだ。どこまで人を振り回す意図があったのだろう。

「コーキさん。あと三分です」

 すでに騒動の輪から外れた僕に、アルフォンス君が告げる。

 先程から時折、門や鉄柵の上を小さな飛行体が越えようとしては、ばちっと光って落下している。
 機動城を囲む柵から、ドーム状にバリアが張り巡らされているためだ。
 マスコミのカメラやドローンの特攻はやはりことごとく失敗している。まるで電撃殺虫器に飛び込む虫のようだ。

 僕達だけが、この先へと入っていけるのだ。

「時間です」

 政府の職員から、声がかかる。
 言い争っていた声が消え、一瞬にして緊張が走った。

 これまでの十四回は、招待状の指定する時刻になっても、何事も起こらなかったのだ。
 果たして、招待状の数と同じ人数がこの場所に揃った今回は――?

 アルフォンス君が守るように僕の肩を抱いた直後、奇妙な浮遊感に襲われた。
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