異世界転移殺人事件 ~推理しない探偵は初めから犯人を知っている

寿 利真

文字の大きさ
75 / 81

実証実験 1

しおりを挟む
 ではそろそろ、遺産《魔法》の実証実験に取り掛かってみようか。
 今現在、実践にちょうどいい状況が整いかけているところなのだ。

 執事とメイドのクマ君を引き連れて、僕達はまず近い方の僕の部屋へと向かっている。クマ君に聞いたところ、僕の部屋が二階で、アルフォンス君の部屋は一階だと可愛い声で答えてくれた。

 移動の途中から、アルフォンス君の様子が微かに変わった。いつも通りに見えるが、少しピリつき、僕との距離をより詰めてきた。
 異変を悟らせないように振る舞っているが、彼も気が付いているようだ。知らんぷりを決め込んでいるが、実は僕もだ。

 僕達の後を付けている奴がいる。

 「ああ、ここがコーキさんの部屋ですね」
 
 僕の名前のかかった部屋の扉を見付け、アルフォンス君が警戒の中にもわずかな安堵を滲ませる。

 僕の名前――と言っても、プレートの名前はマリオン・ベアトリクスだ。
 招待状からしてそうだったが、この機動城における僕の権利や待遇は、全てマリオンの名の下に整えられている。

 だからこの部屋も僕専用の個室ということになる。
 一見二十世紀の洋風な趣の扉ながら、鍵は生体認証になっている。割り当てられた自分の部屋なら、普通にドアノブを捻るだけで開けられるのだ。
 ただし、僕が開けられる客室は、このマリオンの部屋だけとも言い換えられる。

 念のためアルフォンス君が試していたが、やはりドアノブは微動だにしない。

「しっかりロックされてますよ。コーキさん、開けてもらえますか?」
「はい」

 僕が入れ替われば、何の抵抗もなくドアノブが回った。

「この点だけは安全材料ですよね。自室に入るだけで、完璧なパニックルームとしても機能するわけですから」

 開いた扉にいったん二人で入ると、当然のように二体のクマ君も一緒に入ってきて、部屋の隅で待機状態になった。

 さて、これからひと仕事だ。

 荷物を置いてから、僕だけ扉の前まで戻った。
 ずっと一緒にいるといった前言を、少しの間だけ撤回しよう。僕は嘘つきなのだ。

 室内の安全確認をしているアルフォンス君に、後ろから声をかける。

「アルフォンス君。五分だけ、お留守番をしていてください。ちょっと君のプレゼントの性能を試してきます」
「は? コーキさん!?」

 ぎょっとして振り返ったアルフォンス君に手を振り、素早く身を翻すように僕だけが外に出た。

 飛びつく勢いで駆け寄ったアルフォンス君の目の前で、扉がバタンと閉まる。おそらく彼は今、必死でドアノブに手をかけているだろう。
 しかしドアノブは、こちらから観察している限りピクリとも動かない。声も音も振動すらもない。
 やはりこの辺りの技術は、レトロに見せかけてもさすがの機動城というべきか。

 この扉は内からも外からも、僕にしか開けられないことが確認できた。
 これで現状アルフォンス君の安全は確実なものとなっているが、僕が帰らないと五日間閉じ込められたままになる点は要注意だ。その意味でも、僕は絶対に無傷で可及的速やかに戻らなければならない。

「すみませんね、アルフォンス君」

 聞こえてはいなくとも、扉越しに謝る。ただでさえ心配症の彼を、死ぬほど狼狽えさせてしまうだろう。分かってはいるが、彼がいたら実験ができないから仕方ない。

 早速、怪しい館で一人になるという一番目の犠牲者になりかねない愚行を僕は犯してしまっているわけだが、五日間を乗り切る上で、これはどうしてもやっておかなければならない必要なテストなのだ。護衛騎士に守られるお姫様状態のままでは、きっと降りかかる災厄を乗り切れない。この悪意に満ちた館では。

 後ろ髪は引かれるが、フォローは後で考えようと、一人で歩き出した。今は目の前の検証に集中するのだ。

 気が付くと、僕の後ろを当然のようにクマ君が付いてきていた。僕は一人で素早く出てきたのに。

「ふふ。君の完全防御は先程試させてもらいましたが、転送機能も駆使できるわけですか。君一体に、どれだけの価値があるんでしょうね」

 隣に並んで、頭をなでる。
 同時に、クマ君達の存在は、見張り以外にも理由があるのだと感じた。どうせ屋敷中に監視の目は張り巡らされている。何もここまで執拗にマンツーマンで寄り添う必要性などないのだから。

 まあどんな理由であっても、僕にとっては傍にいてくれるだけで安心感が増す力強い味方だ。そこで僕のやることを見守っていてほしい。

 と、思う間もなく、突然開いたドアから腕を掴まれ、強引にどこかの一室に引っぱり込まれた。 
 プレートはかかっていなかったので、誰でも出入りできる施錠のない空き室だろう。

 いきなりの力尽くか。予測はしていたので、驚きはない。むしろこれを待ち構えていた。そうでなくては実験ができない。

「よう、確か、コーキだったよな。少し、俺の相手をしてくれよ」

 そう言って僕の前に立ちはだかったのは、レオンのバカ息子のヴィクトールだった。
 アルフォンス君と一つしか違わないとは思えないほど、子供じみた言動の目立つ見るからに粗暴そうな青年だ。
 見回したところ、彼一人で、父親の姿はない。

「人に何かを頼む態度ではありませんが、何の用でしょうか、ヴィクトールさん?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...