【中長編BL┊︎完結】銀色に輝く漆黒のセレナータ

三葉秋

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本編

序曲(プロローグ)

 中央棟の地下一階[B-051号室]。
 試験係員が重量級の防音扉を開け俺の名前を呼んだ。とうとう俺の順番がやってきた。
 室内に一歩足を踏み入れると、換気をしているはずなのに、地下室独特の湿気た匂いが鼻孔をくすぐり、目の床、壁、天井、見渡すところ全てが白で造られた空間が広がっていた。
 ただ、一角を除いて。
 この部屋の広さは150平米ほど、普段ならば管弦楽や吹奏楽の練習で使用するための部屋で、人も物も雑多。床や壁がこんなにも白かったのかと今の今実感する。
 広さと白さから、ここは異次元なのかという感覚に陥る。
 部屋の中央から少し外れたところに一際黒く大きな物体がドンと置かれていた。その物体は室内の白色によって浮いて見え、この部屋の中で何よりも存在感を放っていた。
 実にそわそわしてきた。
 少しおぼつかない足取りで、その黒い物体に向かって俺は歩みを進める。横目でチラチラとその物体とは逆側を覗き見る。
 ある者は評価表を事細かに書き込み、またある者は腕組みをしながら俺を目で追っている。厳格な面持ちのその方々は、強面の試験官である教授と講師達である。
 部屋に入るなり、緊張が高まる要素しか今のところ見当たらない俺の足取りは遅く、ようやく黒い物体の近くまでたどり着いた。
 そもそも、この黒く大きな物体とは《ピアノ》である。正式名称はピアノ・フォルテ。なぜフォルテ部分が省略されて呼ばれているのかなどという、うんちく話はさておき、そのピアノの側面、なめらかな曲線に沿って一台の譜面台が置かれている。
 そこが俺のポジションだ。
 今日演奏する曲は全て暗譜済みだが、保険のために譜面台の上に楽譜をセットする。譜面台とピアノの距離感を念入りに確かめ、ベストな位置を探す。
 右斜め後ろからギシッというピアノ椅子に座ると鳴る独特のしなり音が聞こえた。
 あいつも準備ができたのか。
 振り向くと千弥はピアノの譜面台脇から俺の方へ視線を向けていた。
 ー大丈夫だ。いつも通りやれ。お前ならできるだろ。
 アイツの目はそう言っているようだ。
 一つ年下なのに俺より断然しっかりしている。ここ最近、お前の存在は俺の中で一番の安心材料になりつつあるよ。
 さっきまでの不安は千弥の顔を見ただけでぱっと吹っ飛んだ。
 一年次の時には考えられないくらい、今日の俺はびっくりするほど自信に満ちている。それもこれも、全ては千弥のおかげだ。
 よろしく頼むぞ、俺の相棒。
 そう念を送りながら、俺は千弥に微笑む。その笑みに返事をするようにふっと軽く笑った千弥が鍵盤に手を置く。
「学籍番号047ー651トランペット科岩倉楽いわくらがくです。よろしくお願いします」
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