【中長編BL┊︎完結】銀色に輝く漆黒のセレナータ

三葉秋

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番外編

SS┊︎枕元で囁くマッティナータ後編

 なんとなくわかっていた。こういう日は大抵、なにもしない。
 こういう日とは、千弥のピアノへの集中力が長けている日だ。
 学校でも、家でもなんだか弾き足りない様子だったしな……。ただ、俺はと言うと……。
 こういう時に限って邪な感情が、体の中に渦巻いているものなのである。一人で解消はできても、気持ち的には解消されないアレだ。
 横を見れば規則正しい寝息を立てる板垣がいる。寝相が悪い訳ではないが、きっと落ち着くからという理由で、岩倉の腕と足をがっちりホールドしながら寝ている。板倉の邪な感情は、半分くらいこのホールドが原因といっても過言ではない。
 早く寝ないと……。
 そう思いながら頑張って脳内を無の状態にすることに、岩倉は励んだ。

 案の定眠りが浅く、岩倉はカーテンから漏れる薄い太陽の明かりで目が覚めた。
 まだ六時くらいだろうか。
 休日の朝にしては早起きすぎる時間。もう一眠りしたいという願望があるものの、体はそれに反して覚醒の一途を辿っている。
 板垣はというと、寝入った時と変わらずに規則正しい寝息が横から聞こえてくる。
 朝一の眼福。
 スヤスヤと眠る板垣の顔は、とても綺麗だ。
 長いまつ毛に、すっとした鼻筋、無駄のない薄い唇。そして、はだけた首元から覗く白い肌と浮き出る筋はいやに官能的だ。
 千弥は俺の頬をよく触ってくる。ムニムニしていて気持ちいいのだそうだ。
 千弥の頬は!? そういえば、俺からはあまり触ったことがない。冷たいのかな、それともほんのり人肌なのかな。
 岩倉は少しだけ状態を起こし、板垣の頬に手を伸ばした。手の甲でそっと頬を撫でた。千弥の肌は柔らかくて、スベスベだ。
 眠っている時に唯一布団からはみ出ている頬は、少しだけひんやりとしていた。
 唇も一緒だろうか……。
 少しずつ手をずらし、同じく手の甲で唇に触れた。
 温かい……。
 人の体温を感じてしまった岩倉は、気が昂っていた。
 さっきまで手の甲で触れていたはずなのに、気づけば親指の腹で唇を舐め回すように触れていた。そして、もう少しだけ背伸びをして自身の唇をそっと板垣の唇に押し当てた。
 触れるだけのキスなのに、寝込みを襲ってしまったという羞恥に駆られた岩倉は、いてもたってもいられなくなり、元の位置、板垣の腕の中にまたすっぽりとおさまった。
 昨日の夜から燻っている俺の邪な感情が起こした行動だった。
 その時、仰向けに寝ていた板垣がこちら側に寝返りを打った。
 あっ、気づかれた……かも! 咄嗟に、岩倉の鼓動が速くなる。
 寝返りの衝動でさっきまでの軽い抱擁からさらに強く、ギュッと両腕で板垣に抱きしめられた。そして、さっきまでは聞こえてこなかったはずの、千弥の息遣いが耳元で聞こえてきた。
「誘ってるんですか?」
 ピクっ。
「えっ………、起きて……いつ……から……」
「頬を撫でてくれた時くらいからですかね」
 結構序盤じゃねぇか.......。全然、気づかなかった。
「そぅ……、誘っ……てる……かも……?!」
「かも?なんですか?」
「………ってる……っそってる………誘ってるよ!」
 自覚してからの俺は早かった。
「昨日からずっとムラムラしてたんだ。でも、千弥がピアノに夢中なときは絶対触れてこないのわかってたから……いろいろ我慢してたの。寝つきわりーし、眠りは浅いし……。起きて千弥の寝顔見て、気づいたら……触ってたの。あーもう、ぐちゃぐちゃだ!」
 そう言いながら俺は、目の前にある千弥の胸をポコポコと叩いていた。
 岩倉をあやすように背中を撫でながら「楽さん、可愛すぎ」と、クスクス笑いながら板垣はおでこにキスをした。
 そのまま、岩倉に覆い被さるように板垣が組み敷いた。
「じゃあ、誘いに乗りましょう、ねっ」
 言葉と共に降ってきたのは板垣の深いキスだった。歯列を割って入ってくる板垣の舌に上顎を刺激され、鼓動が跳ね、背筋に刺激が走る。
 板垣から浴びせられるキスの嵐に、岩倉はどこで息をしたらいいかわからなくなる。
「っん……う…んっ……んぅっ……」
 いつの間にか舌も絡み取られ、軽く甘噛みされたと思ったらジュルッと音を立てて舌を吸われた。
「んはっ。楽さん、ちゃんと息、してます?」
「ん……はぁ…はぁ……、う……ん……」
「もっと、たくさんキスしても平気ですか?」
「う……ん……」
「うん、じゃなくて。誘ったの楽さんですからね。ちゃんと言って欲しいです」
 深いキスの余韻で息は切れ切れ、目もとろとろ、気持ちも胸もいっぱいいっぱいな状態の岩倉は、上を見上げ、千弥の顔を見つめる。
 俺の言葉を待つ千弥の顔は余裕そうで、なんだか癪に障る……。
「なんか、余裕そうだな……千弥は……」
 少し不貞腐れたような口調になってしまった。
「余裕そうに見えますか」
 そう言って板垣は自身の股間を岩倉の太ももに押し当ててきた。
 うわっ、かたい!
 主張する昂りを目の当たりにした岩倉は、少し恥ずかしくなり顔を背けてしまった。
「わる…かっ…た……」
 俺の声は千弥に聞こえただろうか。そのくらいぼそっとした声になってしまった。
 顔を背けてしまうと向いた方と逆の耳が自然と上を向く。
 その耳に向かって板垣の口元が近づいてきた。
「もう一度聞きます。もっと、キス、してもいいですか?」
 耳元で囁かれた千弥の声が、ダイレクトに鼓膜に響く。
 そんなことされたら、俺の下半身だって……我慢なんか、できなくなる。
「キス……してくれ。キス以外も……いっぱい……いっぱい……して、欲しいです……」
 俺の言葉を聞くやいなや、優しく耳たぶを噛まれた。舌先で耳全体も撫でられ、その度に背筋にピリッと刺激が走る。それは下腹部にも伝染し、岩倉の昂りをもっと張り詰めさせていく。
「あっ…んぅ、はぁ……」
 官能的な痺れに合わせ腰がはね上がる。動きに合わせ、下半身の衣類を一気に剥ぎ取られた。
「楽にいっぱいしてあげるから、次は僕にもしてくれる?」
 最近、セックスの時だけ「さん」付けをしない時がある。ベッドの中では俺と対等にいたいかららしいけれど……。
 千弥の話す吐息が耳にかかりくすぐったい。おまけに、名前で呼ばれることにまだ慣れない俺は、それだけで官能的な刺激になってしまう。
「する……。……せん…や……んっはっ……」
 岩倉の昂りを板垣がいきなり咥え込み、舌先でカリを撫で上げ、裏筋を往復していく。
「楽、気持ちいい?」
 舐めながら器用に話す板垣は、舌を巧みに動かしながら蜜が滴る鈴口を舐め上げ、岩倉の吐精を加速させていく。
「きも……ち…いい……。んっ…はぁ……せん…やっ、だめだ…っん、イクっ……」
 俺の昂りは最高潮に張り詰め、板垣の口の中で吐精した。
 下腹部あたりで嚥下の音がした。
 千弥、また飲んだのか……。
 吐精した心地良い脱力感が岩倉の体を襲っていたが、不意に体が浮いた。板垣が背中に手を回し、上半身を起き上がらせたのだ。
「約束。楽も舐めてくれる? 少しでいいから」
 気を遣ってるのか、俺にはあまりフェラを共有してこない。ノーマルだったせいもあるのかもしれないけれど。
 確かにフェラはあまり得意ではないけれど、それは咥えることが嫌なわけではなかった。千弥を気持ち良くしてあげられていないもどかしから、苦手としているだけだ。
「うまくできなくても……文句言うなよ」
 そう言って板垣の下腹部に顔を埋め裏筋にそって舌を這わせた。先ほど千弥がしてくれたように自分も動かせたら……そう思い上から板垣の剛直を咥え込んだのだが、俺よりも格段に質量のある千弥のソレは鬼頭の部分しか口の中に入りきらなかった。
 千弥に優しく頭を撫でられ、
「ゆっくりでいいから、無理しなくていいですよ。先端のところ、いっぱい舐めて」
「ここか?」
 カリの皮の合わせ目部分から鈴口部分を舌先で往復するように舐め上げた。
「んっ……そこ…気持ちいい」
 俺は千弥が気持ちよくなってくれていることに高揚感を覚えた。
 口が駄目なら手も使えばいい。
 そう思った岩倉は右手を板垣の剛直の付け根部分で握り、親指で裏筋を動かしながら先端を咥え込んだ。
 俺だって千弥を気持ちよくさせたい。
「んっ……はぁ…楽さん、……でる…離して……だめだ」
 板垣の声を聞き、さらに手と舌の動きを加速させていく。
「あっ、……んぅ…イク……」
 俺は初めて千弥を逝かせた。口の中で弾けた千弥の精液。おもむろに嚥下してみた。
 ちょっと苦いけど……。飲み込めた。
「あっ、楽さん! 飲んだの! だめじゃん吐かないと」
「だって、いつも千弥は俺の飲んでんじゃん。だから……」
「僕はいいんです」
「よくない! ちょっと苦かったけど、俺も全然問題なかった」
 千弥は「もう」と言いながらギュッと抱きしめた。
 互いに下半身だけ衣服を身につけていない、少し滑稽な格好でベッドの上で抱き合う。自然とあぐらをかいた千弥の上に岩倉が乗っかる体制になっていた。
 背中を抱く千弥の手が下へ降りていき、後ろの窄まりに触れた。
「こっちもしたくなりました。お風呂行きませんか?」
「俺も、いつ言おうかと思ってたんだ」
 俺は千弥の首に手を回し、思いっきり後ろ側に体重をかけた。
 バランスを崩した俺たちは枕の位置まで倒れ込んだ。すんでのところで千弥は「危ないな」と言いながらもしっかり俺を支えてくれていた。
「へへ、なぁ千弥。俺はお前のピアノが世界一大好きだ。でもそれ以上に、千弥という人そのものが大好きなんだ。俺と出会ってくれて、ありがとな。これからも飽きずに一緒にいてくれな!」
「急に何言いだすかと思ったら、それはこっちのセリフですよ。これからも僕と一緒にいてください」
 どちらからともなく合わさる唇は、先ほどのように激しいわけではないのに、情熱的で甘くまるで愛のうたを奏でているようだった。
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