白冥霜花

紫雲丹

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幻燼夢

第八十七話




第八十七話



 秋霖が処刑場へと連行された直後、舒王は彼から託された書簡を開いた。
 書面には、これまでの経緯と軍備の報告の他に、潘廷傑が北彊と内通していた証拠となる密書が挟まれていた。舒王は皇族として北彊語を解する素養があり、文面に刻まれた封蝋と印章が本物であることを一目で見抜いた。

 その瞬間、顔色を変えて玉座から立ち上がった舒王は、声を張り上げて叫んだ。

「顧秋霖の処刑を止めろ!!!」

 命令を受けた太監が慌てて処刑場へと駆け出す。しかし、戻ってきた彼は深く頭を下げたまま、震える声で告げた。

「陛下……処刑は滞りなく執行されました」
「……!!!」

 舒王は頭を押さえ、そのまま玉座に腰を落とした。かつてない重みが肩にのしかかり、目の前の現実を受け止めきれず、ただ呻くように呟いた。

「何だこれは……」

 国賊の潘廷傑。義に殉じて暴走した凌虎渓。娘の麟和公主は巻き添えで死に、北彊は五十万の兵を擁し、頼みの西軍は潰え、辛うじて残った北軍が薄氷のように燕雲城を支えている。国中の兵をかき集めたところで、果たして対抗できるかどうか分からない。

「何だこれは!!! 一体何の茶番だ!!!」

 舒王は机の上の書簡や文具、玉器を手当たり次第に床へ叩きつけた。秋霖が残した書状も、他の書類と共に散った。侍る臣下たちは目を合わせることもできず、ただ頭を垂れたまま震えていた。

「玉座と引き換えに国を失った、愚かな皇帝として最後に名を残すことになろうとは……!」

 舒王は嗤うような、泣くような声を上げた。虚ろな笑いは、広間に反響して消えた。


 *


 その後、潘廷傑との密約が破られたことを知った北彊は、夏を待たずして寧国へ侵攻を開始した。北彊は開戦の詔書として、以下の声明を掲げた。

『北彊は、天意を受け、このたび義の軍を興す。寧国はすでに堕落し、邪を正とし、民を苦しめている。天子は私利に溺れ、国は乱れ、民の声は届かず、もはや天命を失った。これを見過ごすこと叶わず、新たな天の命により兵を挙げ、中原の乱れを正す。』

 寧国の朝廷は、潘廷傑との密約という外交上の汚点を抱えたまま、対応を誤った。軍中に広がった動揺は士気の低下を招き、戦況は日に日に悪化していった。

 北彊との戦いは一年半に及んだ。

 しかし、燕雲城が陥落すると、抵抗はあっけなく崩れ去った。辺境の諸侯たちは即座に降伏し、太晋城も例外ではなかった。鎮南王の一族は名を変えて亡命し、その姿を消した。
 そして都は三ヶ月の籠城の末に陥落し、残されていた皇族や宮女は北へと連行された。
 ただ一人、舒王のみが見せしめとして処刑された。

 こうして寧国は滅び、新たな王朝である利国が建てられた。
 利の名を冠するその国は、覇道の象徴として君臨し、百年の栄華を誇った。しかし利王朝は後継を巡る内紛で急速に瓦解し、元寧国の遺臣と民が結成した反乱軍により北へと追いやられる。
 反乱軍を率いたのは、極貧の農民出身の男であり、凌虎渓が見逃した潘家の長子の血を引く者であった。
 彼らは新たに現在に続く「澄国ちょうこく」を建国したのである。

 
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