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啓春花
第一話(二)
* * * * *
「師兄、本当にこんなところに剣の手がかりがあるのか?」
荘涛は薄暗い廃屋を見上げながら、眉をひそめた。師兄と呼ばれた沈奕は無言のまま歩を進め、術を使いながら足元の土をすくうようにして答える。
「気配が残ってる。ここで四つ目だ……他の痕跡からもあまり遠くない」
月の光すら届かない瓦礫と塵に埋もれた廃屋は闇市の南西にある。彼らは、霄嶺劍派の門弟であり、失われた祓魔剣の気配を追っている。揃いの青衣を纏い、背には鸞の刺繍が施されていた。荘涛と沈奕はまだ年若い青年であるが、二人の剣才は群を抜いており、なかでも沈奕は、若くして霄嶺劍の技を既に体得していた。
霄嶺劍派は祓魔剣・天霄破邪の持ち主、漣昱君を開祖とする宗派である。失われた祓魔剣の捜索は霄嶺劍派にとっても重大な任であった。
「……やはり、薬幽堂が絡んでるかもな」
沈奕が呟いた。
薬幽堂――かつては仙薬の調薬に優れた一門だったがいつしか魔教に呑まれ、道教や法術に通じる者たちすらその名を口にするのをためらう、闇の組織と化している。
「だったら、また戻って確かめるか?……いっそ本拠地に乗り込めば、何か掴めるかもしれないけどな」
軽口を叩く荘涛の手は、腰の剣へとかかっている。
ふたりが洛璃の都の裏路地を抜け、闇市に近い細い小道へと足を踏み入れた、そのときだった。
駆けてくる無数の足音と、鼻を突くような薬と邪気の臭い。沈奕は即座に荘涛の腕を引き、ふたりは塀の陰に身を潜めた。
砂煙を巻き上げながら、ひとりの男が屋根の上を駆けてくる。白の外衣をまとい、しなやかでありながらも急ぎ足で逃げておりその後ろには、黒装束に奇怪な面をつけた追手が数人、絶え間なく襲いかかっていた。
「……あれは……?」
荘涛が目を凝らす。だが沈奕は、すでにその男が纏う気配に目を見張っていた。
「ただ者じゃない……。だが……なぜ反撃しないんだろう」
動きは熟練の武人だが、男は一度として剣を抜くことなく、ただ身を翻して避け続けている。
沈奕は迷うことなく踏み出した。荘涛もすぐに追う。
剣の軌跡が夜気を裂く。ふたりは白衣の男のもとへ駆け寄り、自然とその背を庇うようにして追手に立ちはだかった。
若くとも修練を積んだふたりの剣技に、仮面の男たちはたじろぐ。だが、奴らは素早く毒煙を撒き、嘲笑うように退いていった。
「くっ……お前たちは薬幽堂の者か! 待て!」
荘涛が追いかけようとするのを、沈奕が制した。
「炯澄、追うな。あの毒は厄介だ…解毒薬がなければ危険だぞ」
剣を納めた沈奕の傍で、荘涛は歯噛みしながら頷く。毒煙に呑み込まれぬよう三人はその場を離れて近くの林の中へ入った。
状況が落ち着いた所で白衣の男――秋霖は胸の前で両手を重ね深々と一礼した。流れるような黒髪が肩に落ちる。
年の頃は二十五、六といったところで背が高く、文士のように色白でありながら、顔立ちはくっきりと彫りが深く凛々しい。
憂いを帯びた眼差しはどこか遠くを見つめているようで、まるでこの世の喧騒とは一線を引いたところに心を置いているようだった。
薄い唇から落ち着いた低音が流れるように響く。
「……ご助力、感謝いたします」
その風貌にはどこか清らかな気配があり、荘涛と沈奕は自然と身構えていた肩の力を抜いた。
「どうかお気になさらず。危険な様子に見えましたので、つい出過ぎた真似をしてしまいました。……何があったのでしょうか?」
問いかけに、秋霖は答えを探すように視線を落としたまま、しばし言葉を失っていた。
その気配を察して、沈奕が一歩進み、礼を取って名乗った。
「失礼しました。我らは霄嶺劍派の門弟、沈奕と申します」
「荘涛です」
「我々は師尊の命により、祓魔剣の捜索を行っておりました」
沈奕が簡潔に言葉を添えると、秋霖は小さく頷いた。
「……顧秋霖です。ただの流れ者ですが、訳あって闇市にいたところ、偶然にも皇帝の祓魔剣に関する噂を耳にしまして。探っているうちに、あの者たちに追われることになりました」
「顧先輩、もしよければその話、もう少し詳しくお聞かせいただけませんか?」
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