白冥霜花

紫雲丹

文字の大きさ
9 / 123
啓春花

第一話(三)



沈奕は一歩前に進みながら、ちらりと秋霖の装いを見やった。着衣に目立つ特徴はなく、どこか世俗から離れた空気を纏っている。

「大したことではありません。ただ、祓魔剣に薬幽堂が関わっていると聞き本堂へ忍び込もうとした……それだけのことです」

 秋霖が飄々と答えると、荘涛が思わず笑った。

「まさしく、俺がやろうとしてたことを先にやってたとは!」
「見たところ、かなりの腕前とお見受けしました。……なぜ先程は反撃されなかったのですか?」

 沈奕が問いかける前に、笑っている荘涛に向かって咳払いをひとつした。秋霖は少しだけ視線を逸らし、苦笑のように口を開く。

「……我が師との誓いにより、人を傷つけることができないのです」
「悪人であっても、ですか?」
「善悪の別なく、です」
「……なるほど!どうりでそんな木剣を帯びておられるわけですね」

 荘涛が秋霖の腰に刺してあった木剣を指差して言うと、沈奕もそれに気づき、無言のまま目を留めた。
それは桃の木でできており、剣身には古風な虎の彫り物が刻まれている。どこか祭具のような趣きで、実戦向きでは到底なかった。

「使えば折れてしまうでしょう。ですから、人には一度も抜いたことはありません」

 秋霖がさらりと告げると、荘涛は愉快そうに笑った。

「わははは、先輩は面白いお人だなあ」

 秋霖も静かに笑みを返す。ほんの束の間、緊張の空気が和らいだ。

「お二方は、命の恩人です。お役に立てるかは分かりませんが……祓魔剣の捜索にぜひ協力させてください。あの剣はもともと霄嶺劍派に縁ある神剣と聞き及んでおりますから」

 秋霖の言葉に、沈奕はすぐに頭を下げた。

「顧先輩、ありがとうございます」
「えっ、本当にいいんですか?」

 荘涛がぱっと顔を上げると、やや無邪気な調子で続けた。

「だって、もし先輩が一人で祓魔剣を見つけたら、きっと皇帝から山ほど褒美がもらえたはずですよ?」
「……口が過ぎるぞ、炯澄」

 沈奕が鋭い視線を向ける。年若い師弟は、実直で思ったことをすぐ口にする癖があった。荘涛は気まずそうに首をすくめたが、秋霖はまったく気にした様子もなく、穏やかに笑みを浮かべた。

「私には褒美など無用です。……流れ者の暮らしが、性に合っています」

 その口ぶりには冗談めいた軽さと、どこか割り切ったような静けさがあった。
 沈奕は少しだけ視線を伏せてから、姿勢を正した。

「……師弟が無礼を。私たちはこれからもう少し調査を続けるつもりですが、先輩も一緒にどうでしょうか」
 
感想 1

あなたにおすすめの小説

上司と俺のSM関係

雫@23日更新予定
BL
タイトルの通りです。読む前に注意!誤字脱字あり。受けが外面は一人称私ですが、砕けると僕になります。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

ヤンキーDKの献身

ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。 ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。 性描写があるものには、タイトルに★をつけています。 行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。