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啓春花
第二話(三)
春分にしては生温い風が吹き、朽ちかけた壁の破れ目から、ひとりの男が現れた。
暗い灰色の外衣に身を包み、顔には獣骨の面。一つに束ねた黒髪をなびかせ、首から下げた骨の装飾がカラカラと音を立てている。
背に纏う気配は、ただの鬼どころではない。その存在そのものが、場の空気を侵し、重たく染め上げてゆく。
「……誰だ!」
幽攘が声を荒げる。秋霖でさえ、突然現れた新たな鬼の気配に気づけなかった。獣骨面の奥から返った声は、低くくぐもりながらも明瞭だった。
「ここの縄張りは、俺のものだぞ。……雑鬼め」
「縄張り、だと?! 勝手なことを! いつから貴様の縄張りになったと言うのだ!」
獣骨面の鬼は肩をすくめて、飄々と答えた。
「今だ。たった今、決めた」
そのまま男が一歩、足を踏み出した瞬間に空気が変わる。それは威圧ではなかった。ただ、そこに“存在する”というだけで、あらゆる気配を制する、異質な支配力。
「ふざけるな! 邪魔をするなら貴様も殺すッ!」
幽攘が叫び、怨鬼の影を操り男に向かって放った――だが次の瞬間。男の姿が掻き消えた。
「なっ……」
気づいた時には、骨刀の切っ先が、幽攘の喉元を捉えていた。ひと息のうちに、鬼の首は刎ね飛び、宙に舞う。同時に、巨体は切り刻まれていた。
沈奕と荘涛は、言葉を失ったまま立ち尽くす。目標を失った怨鬼が狂ったように暴れ出し、その怒りの矛先は秋霖たちへと向かう。
秋霖は前へ出て、二人を庇うように立ちはだかった。汗が首筋を伝う。
――今、目の前にいるのは、幽攘などとは比較にならない力を持った鬼。
天吏としての使命を果たさなければならない。
「沈奕、怨鬼に鎮魂術を使えますか」
「……は、はい」
「荘涛、沈奕を守りなさい」
「で、でも、先輩は――」
荘涛が言いかけた時、灰のような鬼気を纏う獣骨面の鬼が、ゆっくりと秋霖の方へ歩み寄る。
手にした骨刀は下げたまま、しかしその気配は間違いなく殺意を含んでいた。
「人間に用はない。興味があるのは――そこのお前だ」
秋霖は静かに木剣を腰に戻す。
「……鬼よ、ここで戦うには狭すぎる。お前の結界を使えばいい」
その一言に、獣骨面の鬼はくつくつと笑った。
「……後悔するなよ」
鬼は骨刀を持つ手とは逆の手を広げ、そこに淡く揺らぐ灰色の鬼火を灯した。低く、呟くように言葉を吐く。
「――反転」
直後、空気が裂けるような音とともに、廃屋の景色がぐにゃりと歪んだ。
秋霖は薄闇に包まれた結界の中へと引きずり込まれていった。
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