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懐誓月
第九十話
第九十話
赤熹耀の声と共に虎渓の視界が暗転する。そして次の瞬間には、絢爛豪華な紅の宮殿へと連れられていた。赤熹耀の居城、炎のように赤い柱と金の装飾がきらめく玉座の間だ。
赤熹耀は玉座へと進み、無造作に腰を下ろす。
そして虎渓の隣で漆黒の霧がゆらめいたかと思うと、柔らかな黒い羽衣を纏った長身の妖艶な女が現れた。絹のような黒髪を垂らし、高く結い上げた髷には金花の簪が煌いていた。姿も声も凛としながら艶を帯びている。
北の領土を治める黒鬼王、黒琰だ。
「忌狐青は今回も来ないのですね」
黒琰は低く澄んだ声で静かに告げると、ちらりと虎渓の方に視線をよこした。
「あれは天をひっくり返すのに忙しいからな」
赤熹耀が鼻で笑い、皮肉混じりに答える。そして視線を虎渓へ向けた。
「見ろ、西の鬼王がすげ替わった」
「………。」
虎渓は言葉を返さず、二人の鬼王を静かに見つめた。
赤熹耀は他の鬼王達と比べても頭ひとつか、それ以上の力を有している。記憶によれば、地獄を最初に統べた最古の鬼王だ。やがて忌狐青が現れ領土が二分され、その次に北と西の鬼王が生まれた。そして今、東南西北の四王の均衡が保たれている。
沈黙が満ちる中、痺れを切らした赤熹耀が苛立ちを隠さず、虎渓を睨んだ。
「白鬼王白冥、今日からそう名乗ると良い」
異を唱える余地はない。あったとしても、赤熹耀に逆らえる者はいない。それがこの顔合わせの真の意味だ。地獄の領土が等分されているのも、新たな鬼王を迎えるのも、全て彼の度量と気まぐれによって成り立っている。
赤熹耀は、玉座を一度も譲った事はなく、ただ一つの純粋な魂による圧倒的な力で地獄を支配し続けていた。
「……だんまりか。誠につまらんやつだ。前の鬼王は少なくとも吾に媚び諂うくらいはやっていたぞ」
赤熹耀が不機嫌に眉を寄せる。もはや宴が開かれるような空気ではない。黒琰がゆるりと頭を下げた。
「顔合わせが済みましたので、私はこれで」
言い終わると、黒琰は溶けるように黒霧と共に去っていった。虎渓は改めて赤熹耀を見ると、ようやく口を開いた。
「……聞く事など何もない。全て知識として入っている」
鬼王達の間に盟約などはなく、個々の采配で領土を統べる。強いて言うならば、赤熹耀の機嫌を損ねなければ好きにして構わないと言う事だ。
白鬼王になったとて、虎渓の望みはたった一つだけだ。鬼王同士の交わりに、かけらも興味がもてなかった。互いに不干渉を貫けるなら、かえって都合がいい。
虎渓――白冥は、黒琰がそうしたように軽く頭を下げた。そして己の領土への帰還を思念する。すると土地と結びついた魂が共鳴し、灰と共に赤熹耀の宮殿を後にした。
残された赤熹耀は、玉座に肘をついたまま鼻を鳴らす。
「燃え滓め。退屈しのぎにもならん」
*
領土へ戻った白冥は、かつて緑蚓師が築いた城を目にした。岩を削り積み上げたような、粗野な黒城は崩れかけた姿のままなお、主の威厳を誇示するかのように聳えている。
足を踏み入れた瞬間、既に埋もれたはずの緑蚓師の自我が、恨めしそうに呻き声をあげそうな気配がした。白冥は片手を翳し、周囲に鬼気を纏わせると、そのまま城を崩した。なにより、趣味ではなかった。
瓦礫の中に身を沈め、白冥はしばし思索に沈んだ。赤熹耀のように領土を治める気は毛頭なかったが、秋霖を探すためには、白鬼王としての力を手放すのは惜しい。
基本的に、鬼王は領土に留まらなければならず、玉座を空ければ、新たに鬼王の資質を持つ者が現れて、その座を奪いに来る。つまり白冥としては、この場をそう易々と離れるわけにはいかなかった。
緑蚓師が持っていた能力は、魂を意図的に分裂させたり、融合させたりと自由自在に制御する術だ。その力を白冥も継承している。
彼は己の魂を分け、深鬼としての形を成せるほどの強度を持たせた。意識を共有して生まれた鬼は、やがて雑鬼たちの間で百骨盃酒と呼ばれる存在になる。
百骨盃酒は、魂の命ずるままに人界と地獄を彷徨い、永い永い時をかけて秋霖を探し続けていた。虎渓としての記憶は、幾多の魂と混じり、次第に曖昧になっていったが、それでも故郷の在り処だけは覚えていた。
燕雲城には、かつての凌家の屋敷も、顧家の屋敷も、何も残っていなかった。すべてが戦火と歴史の中に消え、虎渓の記憶に触れるものは、もはや城内には何一つない。それでも、裏山にあった家族の墓を思い出す。わずかに残っていた記憶を手繰るようにして山を登りかけた時、ふと足を止めた。
遠くからでも、大きな針葉樹の大木が墓を呑み込むように根を張り、枝を伸ばしているのが見えたからだ。朽ちた墓石は既に形を留めておらず、月日の長さを物語っていた。
この墓を訪れ、手入れをする者はもう、誰もいない。そして、家族の魂は地獄へ堕ちることなく、天へと迎えられ、新たな命として生まれ変わっているのだろう。
きっと自分だけが、鬼となり、過去の想いにしがみついている。だが、それで良かった。自分は復讐を果たしたのだ。
燕雲城の凍てつく真冬の空気だけが、骨の奥に懐かしく沁みていく。百骨盃酒は墓に手を合わせることなく、静かに山を降りた。
街を行き交い、日々を営む人々の姿を眺めながら、百骨盃酒は大海の中から一粒の砂を見つけるかのごとく探した。出会えなくとも構わない。何百年かかろうと構わない。きっと、どこかで、いつか、巡り会える。そう信じることだけが、彼にとっての生への拠り所だった。
そんな日々を過ごす中である時、天霄破邪の剣が宮中から失われ、澄国全土に詔が発せられた。
天霄破邪の剣。天霄子。その響きは、記憶の底に眠っていたものを揺り起こした。
――確か、秋霖と共に、あの剣に憧れた日々があった。
導かれるように都へと向かった百骨盃酒は、祓魔剣に関する噂を辿っていった。そして闇市近くの薬幽堂へと忍び寄る途中、ふと足を止める。
――自分は剣を探しに来たのではない。
秋霖を探しに来たのだ。秋霖が生まれ変わっているのならば、剣の記憶など残っているはずがない。そう思い踵を返そうとしたその時、銀剣を佩帯して揃いの青衣を纏った二人の青年とすれ違った。
「……荘涛、この近くに天霄破邪の残滓を感じる」
「師兄、さっきのとは違う気配か?」
彼らは百骨盃酒の気配に気づかぬまま、通り過ぎていく。師兄と呼ばれたその横顔の一人に、ふと記憶の中にある誰かの姿が重なった。
――鏡石に似ている。
(……はて、鏡石とは誰だったか)
名の輪郭を手繰るように、百骨盃酒は二人の後を追った。辿り着いたのは、廃墟と化した于家の屋敷跡だった。
「師兄、本当にこんなところに剣の手がかりがあるのか?」
「気配が残ってる。ここで四つ目だ……他の痕跡からもあまり遠くない」
離れた位置から彼らの会話を聞きながら、百骨盃酒は顔を上げた。この屋敷には怨鬼が潜んでいる。家族を皆殺しにされた于家の母の魂が、恨みを核として鬼と成っていた。
沈奕と荘涛はしばらく探索したのち屋敷を離れたが、百骨盃酒はその場に留まった。怨鬼が纏う強い恨みに、知らず引き寄せられていた。かつて自分も、同じものを抱いていたのだと、魂が疼いた。
怨念は、復讐でしか祓えない。鬼である自分には、救うことなどできない。ただ力を貸し、憎しみに手を添えることしかできない。
亡鬼や怨鬼は、強い想念に縛られて時間の感覚を失う。たとえ仇が死に絶えたあとでさえ、そのことに気づかず彷徨い続ける。
屋敷に留まっていた百骨盃酒は、ふと近づく人の気配に気づき、入り口の方へと顔を向けた。先程の青年二人が戻ってきのだ。鏡石に似た男が説明を始めた。
「この場所が、痕跡の四箇所目になります。おそらくですが……」
その声の後から現れた三人目の男の姿を見て、百骨盃酒の心が凍りついた。
流れるような黒髪と清らかな白衣。歩くたびに簪についた飾り紐が揺れている。その面影と眼差しに、どれほど焦がれ、求め続けていたことか。
白冥は、虎渓は、息を呑んだ。魂が大きく揺さぶられる。
――秋霖。
それが誰か、確信するのに一瞬もかからなかった。記憶の中と何ひとつ変わらない姿で、穢れのない魂のまま、そこに立っていた。天の加護を受けたその存在は、鬼からすれば眩しく感じるほどだ。
天に仕える天吏という存在が、鬼を祓うという知識はあったが、実際に目にするのはこれが初めてだった。鬼が天吏を識るように、天吏も鬼を見抜く。人間とは明らかに異なるものとして、互いを識別できる。
秋霖と青年達は短くやり取りを交わし、やがて秋霖がゆるやかに周囲を見渡した。
「……ただ、この場所は瘴気の澱みがある。あまり長居すべきではない」
気配を消している百骨盃酒には、まだ気づいていない。その姿に、思わず笑みがこぼれる。
――ほら見たことか、お前は天に愛されている。天は悪を罰し、善を召し上げる。
(それに比べて自分は、天吏に祓われる対象に成り下がった)
秋霖の清らかさに、後ろめたさすら感じさせる。だが次の瞬間には場の空気が変わり、薬幽堂の道士を率いた猛鬼が現れ、秋霖たちを囲んだ。
躊躇っている暇はない。迷っている場合でもない。秋霖と、今ここで縁を繋がなければ、次にいつ見つけられるかもわからない。近づいたところでこの姿であれば、きっと気づかれはしないだろう。
今度こそ、秋霖を守り、何があっても共にいると決めたのだ。
赤熹耀の声と共に虎渓の視界が暗転する。そして次の瞬間には、絢爛豪華な紅の宮殿へと連れられていた。赤熹耀の居城、炎のように赤い柱と金の装飾がきらめく玉座の間だ。
赤熹耀は玉座へと進み、無造作に腰を下ろす。
そして虎渓の隣で漆黒の霧がゆらめいたかと思うと、柔らかな黒い羽衣を纏った長身の妖艶な女が現れた。絹のような黒髪を垂らし、高く結い上げた髷には金花の簪が煌いていた。姿も声も凛としながら艶を帯びている。
北の領土を治める黒鬼王、黒琰だ。
「忌狐青は今回も来ないのですね」
黒琰は低く澄んだ声で静かに告げると、ちらりと虎渓の方に視線をよこした。
「あれは天をひっくり返すのに忙しいからな」
赤熹耀が鼻で笑い、皮肉混じりに答える。そして視線を虎渓へ向けた。
「見ろ、西の鬼王がすげ替わった」
「………。」
虎渓は言葉を返さず、二人の鬼王を静かに見つめた。
赤熹耀は他の鬼王達と比べても頭ひとつか、それ以上の力を有している。記憶によれば、地獄を最初に統べた最古の鬼王だ。やがて忌狐青が現れ領土が二分され、その次に北と西の鬼王が生まれた。そして今、東南西北の四王の均衡が保たれている。
沈黙が満ちる中、痺れを切らした赤熹耀が苛立ちを隠さず、虎渓を睨んだ。
「白鬼王白冥、今日からそう名乗ると良い」
異を唱える余地はない。あったとしても、赤熹耀に逆らえる者はいない。それがこの顔合わせの真の意味だ。地獄の領土が等分されているのも、新たな鬼王を迎えるのも、全て彼の度量と気まぐれによって成り立っている。
赤熹耀は、玉座を一度も譲った事はなく、ただ一つの純粋な魂による圧倒的な力で地獄を支配し続けていた。
「……だんまりか。誠につまらんやつだ。前の鬼王は少なくとも吾に媚び諂うくらいはやっていたぞ」
赤熹耀が不機嫌に眉を寄せる。もはや宴が開かれるような空気ではない。黒琰がゆるりと頭を下げた。
「顔合わせが済みましたので、私はこれで」
言い終わると、黒琰は溶けるように黒霧と共に去っていった。虎渓は改めて赤熹耀を見ると、ようやく口を開いた。
「……聞く事など何もない。全て知識として入っている」
鬼王達の間に盟約などはなく、個々の采配で領土を統べる。強いて言うならば、赤熹耀の機嫌を損ねなければ好きにして構わないと言う事だ。
白鬼王になったとて、虎渓の望みはたった一つだけだ。鬼王同士の交わりに、かけらも興味がもてなかった。互いに不干渉を貫けるなら、かえって都合がいい。
虎渓――白冥は、黒琰がそうしたように軽く頭を下げた。そして己の領土への帰還を思念する。すると土地と結びついた魂が共鳴し、灰と共に赤熹耀の宮殿を後にした。
残された赤熹耀は、玉座に肘をついたまま鼻を鳴らす。
「燃え滓め。退屈しのぎにもならん」
*
領土へ戻った白冥は、かつて緑蚓師が築いた城を目にした。岩を削り積み上げたような、粗野な黒城は崩れかけた姿のままなお、主の威厳を誇示するかのように聳えている。
足を踏み入れた瞬間、既に埋もれたはずの緑蚓師の自我が、恨めしそうに呻き声をあげそうな気配がした。白冥は片手を翳し、周囲に鬼気を纏わせると、そのまま城を崩した。なにより、趣味ではなかった。
瓦礫の中に身を沈め、白冥はしばし思索に沈んだ。赤熹耀のように領土を治める気は毛頭なかったが、秋霖を探すためには、白鬼王としての力を手放すのは惜しい。
基本的に、鬼王は領土に留まらなければならず、玉座を空ければ、新たに鬼王の資質を持つ者が現れて、その座を奪いに来る。つまり白冥としては、この場をそう易々と離れるわけにはいかなかった。
緑蚓師が持っていた能力は、魂を意図的に分裂させたり、融合させたりと自由自在に制御する術だ。その力を白冥も継承している。
彼は己の魂を分け、深鬼としての形を成せるほどの強度を持たせた。意識を共有して生まれた鬼は、やがて雑鬼たちの間で百骨盃酒と呼ばれる存在になる。
百骨盃酒は、魂の命ずるままに人界と地獄を彷徨い、永い永い時をかけて秋霖を探し続けていた。虎渓としての記憶は、幾多の魂と混じり、次第に曖昧になっていったが、それでも故郷の在り処だけは覚えていた。
燕雲城には、かつての凌家の屋敷も、顧家の屋敷も、何も残っていなかった。すべてが戦火と歴史の中に消え、虎渓の記憶に触れるものは、もはや城内には何一つない。それでも、裏山にあった家族の墓を思い出す。わずかに残っていた記憶を手繰るようにして山を登りかけた時、ふと足を止めた。
遠くからでも、大きな針葉樹の大木が墓を呑み込むように根を張り、枝を伸ばしているのが見えたからだ。朽ちた墓石は既に形を留めておらず、月日の長さを物語っていた。
この墓を訪れ、手入れをする者はもう、誰もいない。そして、家族の魂は地獄へ堕ちることなく、天へと迎えられ、新たな命として生まれ変わっているのだろう。
きっと自分だけが、鬼となり、過去の想いにしがみついている。だが、それで良かった。自分は復讐を果たしたのだ。
燕雲城の凍てつく真冬の空気だけが、骨の奥に懐かしく沁みていく。百骨盃酒は墓に手を合わせることなく、静かに山を降りた。
街を行き交い、日々を営む人々の姿を眺めながら、百骨盃酒は大海の中から一粒の砂を見つけるかのごとく探した。出会えなくとも構わない。何百年かかろうと構わない。きっと、どこかで、いつか、巡り会える。そう信じることだけが、彼にとっての生への拠り所だった。
そんな日々を過ごす中である時、天霄破邪の剣が宮中から失われ、澄国全土に詔が発せられた。
天霄破邪の剣。天霄子。その響きは、記憶の底に眠っていたものを揺り起こした。
――確か、秋霖と共に、あの剣に憧れた日々があった。
導かれるように都へと向かった百骨盃酒は、祓魔剣に関する噂を辿っていった。そして闇市近くの薬幽堂へと忍び寄る途中、ふと足を止める。
――自分は剣を探しに来たのではない。
秋霖を探しに来たのだ。秋霖が生まれ変わっているのならば、剣の記憶など残っているはずがない。そう思い踵を返そうとしたその時、銀剣を佩帯して揃いの青衣を纏った二人の青年とすれ違った。
「……荘涛、この近くに天霄破邪の残滓を感じる」
「師兄、さっきのとは違う気配か?」
彼らは百骨盃酒の気配に気づかぬまま、通り過ぎていく。師兄と呼ばれたその横顔の一人に、ふと記憶の中にある誰かの姿が重なった。
――鏡石に似ている。
(……はて、鏡石とは誰だったか)
名の輪郭を手繰るように、百骨盃酒は二人の後を追った。辿り着いたのは、廃墟と化した于家の屋敷跡だった。
「師兄、本当にこんなところに剣の手がかりがあるのか?」
「気配が残ってる。ここで四つ目だ……他の痕跡からもあまり遠くない」
離れた位置から彼らの会話を聞きながら、百骨盃酒は顔を上げた。この屋敷には怨鬼が潜んでいる。家族を皆殺しにされた于家の母の魂が、恨みを核として鬼と成っていた。
沈奕と荘涛はしばらく探索したのち屋敷を離れたが、百骨盃酒はその場に留まった。怨鬼が纏う強い恨みに、知らず引き寄せられていた。かつて自分も、同じものを抱いていたのだと、魂が疼いた。
怨念は、復讐でしか祓えない。鬼である自分には、救うことなどできない。ただ力を貸し、憎しみに手を添えることしかできない。
亡鬼や怨鬼は、強い想念に縛られて時間の感覚を失う。たとえ仇が死に絶えたあとでさえ、そのことに気づかず彷徨い続ける。
屋敷に留まっていた百骨盃酒は、ふと近づく人の気配に気づき、入り口の方へと顔を向けた。先程の青年二人が戻ってきのだ。鏡石に似た男が説明を始めた。
「この場所が、痕跡の四箇所目になります。おそらくですが……」
その声の後から現れた三人目の男の姿を見て、百骨盃酒の心が凍りついた。
流れるような黒髪と清らかな白衣。歩くたびに簪についた飾り紐が揺れている。その面影と眼差しに、どれほど焦がれ、求め続けていたことか。
白冥は、虎渓は、息を呑んだ。魂が大きく揺さぶられる。
――秋霖。
それが誰か、確信するのに一瞬もかからなかった。記憶の中と何ひとつ変わらない姿で、穢れのない魂のまま、そこに立っていた。天の加護を受けたその存在は、鬼からすれば眩しく感じるほどだ。
天に仕える天吏という存在が、鬼を祓うという知識はあったが、実際に目にするのはこれが初めてだった。鬼が天吏を識るように、天吏も鬼を見抜く。人間とは明らかに異なるものとして、互いを識別できる。
秋霖と青年達は短くやり取りを交わし、やがて秋霖がゆるやかに周囲を見渡した。
「……ただ、この場所は瘴気の澱みがある。あまり長居すべきではない」
気配を消している百骨盃酒には、まだ気づいていない。その姿に、思わず笑みがこぼれる。
――ほら見たことか、お前は天に愛されている。天は悪を罰し、善を召し上げる。
(それに比べて自分は、天吏に祓われる対象に成り下がった)
秋霖の清らかさに、後ろめたさすら感じさせる。だが次の瞬間には場の空気が変わり、薬幽堂の道士を率いた猛鬼が現れ、秋霖たちを囲んだ。
躊躇っている暇はない。迷っている場合でもない。秋霖と、今ここで縁を繋がなければ、次にいつ見つけられるかもわからない。近づいたところでこの姿であれば、きっと気づかれはしないだろう。
今度こそ、秋霖を守り、何があっても共にいると決めたのだ。
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