ヤクザ娘の生き方

翠華

文字の大きさ
上 下
3 / 80

家族として

しおりを挟む
「おい、今は組とかそんなもんは関係ねぇ。家族として話そうや」


七代目が言う。


「今からですか?もういいんですか?」


私が少しうずうずしながら言うと、


「飛春さんが良いと仰ってますよ」


「そういう事だ」


翠ちゃんと蓮が言うと、七代目が優しく笑って両手を前に出す。


「おいで」


「いぇーい!父さん!!」


思いっきり抱きつくと、私の体をぎゅっと優しく包み込んでくれる。


「ねぇねぇ!今日さ、早速友達が出来たんだ!」


「一気に子供っぽくなりましたな」


「相変わらずですが、この光景はいいものですの」


「そうかそうか。それは良かったな」


「へへっ」


ウチは父さんに頭を撫でてもらうのが昔から大好きだ。何だか心が落ち着いて安心する。


「全く、飛春さんの親バカも花子の甘え癖も昔から変わらねぇな」


「ふふふ、れーーーんーーー!」


ニヤニヤしながら蓮に近づき、


「お、おいよせ」


「とりゃ!」


ぎゅっと抱きしめる。


心を許した相手には誰にでも抱きついてしまう癖がついてしまった。


「本当は嬉しい癖にー!」


「うるせぇな」


そんな事言いながらも、蓮は優しく抱きしめてくれるのだ。


「照れてるんですよ」


「翠は黙ってろ!」


「知ってるよー!蓮は照れ屋さんだもんねー」


「さすが花子ちゃん。分かってますね」


「当たり前じゃーん!何年一緒にいると思ってんの!」


「てめぇらな!勝手に話を進めんじゃねぇよ」


「いやぁ、でもやっぱ蓮に抱きついてると安心するなぁ…むにゃむにゃ」


「おいこら寝るな」


「えーケチー。じゃあ翠ちゃん!」


今度は翠ちゃんに抱きつく。


「おやおや、ほんとに花子ちゃんは甘え上手ですね」


「だって皆大好きだし!しょうがないよ!」


「そうですね。桜組は全員家族。皆お互いを信頼し合ってますからね。嫌いな訳ありませんよ」


「そうだぞー!あ!そう言えばさ、世(せい)は?」


ウチが言うと、一瞬部屋の空気が固まった気がした。


「ん?どしたの?」


「世はまだ帰ってきてないぞ」


「仕事が忙しいのですな」


「そうですの。今日は遠くまで行っているみたいですからの」


「そうなんだー。早く会いたいな!世は頑張り過ぎちゃうとこあるからねー」


「そうだな。帰って来たらしばらく休むように言っとくか」


「そうしてあげて!その方がウチも安心出来るし!」


「ああ。父さんに任せておけ」


「うん!」


笑顔で返事をしたが、本当は分かってる。父さんも翠ちゃんも蓮もはるちゃん、あきちゃんもウチに隠し事をしてる。桜組の家族内での隠し事は裏切りと同じ事。つまりは死に値する事と同じ。なのに皆ウチに隠し事してるんだ。ウチもそれが分かってるのに聞けない。聞きたいと思うのに言葉が出てこない。ウチ自身、聞きたくないと思ってるんだ。


「じゃあ今日はお腹も空いてないし、風呂入ったら寝るよ!」


「ちょっと待て。こっち来い」


「ん?何?」


近づいて行くと、父さんはウチの頭を大きな手で掴み、おでことおでこをくっつける。


「心配するな。お前には俺がいる。蓮や翠、遥人、彰人もいる。俺達が守ってやるから。ちゃんと頼るんだ。いいな?」


「うん、分かってる。皆信頼してるし、いつも頼りっきりだよ」


「そうか。じゃ、おやすみ」


「うん。おやすみ。皆もおやすみ」


「おやすみなさい」


「おう、おやすみ」


「おやすみなさいな」


「おやすみなさいの」


部屋を出て静かに障子を閉める。


「ふぅ、すっきりした」


風呂からあがって自分の部屋に戻ると、机の上の母さんの写真に目が行く。


「母さん、今日は転校初日だったけど、新しい友達一人出来たんだ。また明日も元気に頑張るよ。それじゃ、おやすみ」


母さんの写真に挨拶してベッドに入る。


目を閉じると、つい名前を呼んでしまう。


「世……」
しおりを挟む

処理中です...