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7話 居候が増えまして
~ パパ 視点 ~
仕事をしていると、不意にインクケースが倒れ、紙を黒く染め上げた。
「 本当に…ロベルタお嬢様を送って良かったのですか?あの鍾乳洞には…最上級ランクのドラゴン種がいるのでは…? 」
血の入ったワイングラスを置いたランスの言葉に、紙を眺めていた視線を、窓の外へ向ける。
「 嗚呼…。存在する…あの土地を得ると、更に金にはなるが。誰一人として…今だにあのドラゴンを倒せて無いんだ 」
「 それなら何故…ロベルタお嬢様も?下手すれば…跡取りを失う事にも成りかねませんよ 」
「 そうなったらそうなったの時だ。彼奴等が三人係りでも倒せなかったドラゴンだと思い…あの土地を諦めるだけさ 」
首席であり、最年少で魔法部門を卒業したヴォルク、試合の最中、剣術で右に出る者が居なかった無敗のレーヴァ。
そして…、幼いながらも上級獣魔に憑依された人間を眷属として契約し、俺の眷属ですら簡単に扱う事ができた…。
未来有望な…魔獣使い。
そんな3人ですら、太刀打ち出来ないなら…
全てを諦める事すら出来る。
「 私は…兄と一緒に、あの鍾乳洞に入った。ちょっとした冒険心だったのだが…あのドラゴンに出会って、一人で逃げるのに精一杯だった…。兄が囮になったんだ……。兄を失い、私が爵位を継ぐことになったが…。今思うと…この地位は、兄のものだっただろう。だから、失おうと…興味は無い 」
「 旦那様…… 」
「 だから答えを求めたんだ。彼奴等なら誰を囮にして逃げるのか…それとも、共倒れか……。さぁ、息子達…どうする?。そのドラゴンは…強いぞ 」
鍾乳洞がある方向を眺めては、今頃出会っていても可笑しくない時間だからこそ、気にはなる。
勝てる見込みがない相手に…。
どうやって立ち向かうのか、それが楽しみだ。
ーーー 鍾乳洞•中部 ーーーー
レーヴァは吸血鬼だから、ある程度の傷は一瞬で回復出来るとしても、他の兵士達はそうは行かない。
「 動ける者から撤退しろ!!ロワ!!直ぐに兵士を安全な場所へ! 」
「 御意……!!? 」
「 ッ……!?ぎゃぁあっ!! 」
「 う"ぁぁっ!!? 」
まるで下は、地獄絵図。
敵の姿は無いのに、何処からともなく攻撃が仕掛けられ、指示を出す為だけに片手を向けたヴォルクの手首は切断され、フェンリルの身体には無数の切り傷が付き、血が吹き出した。
そして、繭から開放された兵士達もまた、その攻撃によって、傷ついていく。
「 ッ!!ロベルタ!! 」
「 …! 」
戸惑って硬直して動けなくなった私に、血の流れる手首を押さえたヴォルクは声を張った。
「 御前は、今すぐ逃げろ!!俺達が出来るだけ時間を稼いでやる!! 」
「 いや、だ…… 」
言葉にならない程の小さな声で首を張ると、ヴォルクは反対の手で辺りの壁に向かって攻撃を仕掛け始めると、反撃するように彼の身体には切り傷が増えていく。
「 ロベルタ…御前を巻き沿いにさせてしまった俺達が悪いんだ。だから、御前だけでも逃げてくれ! 」
「 ゴホッ……そう、だぜ…。ロベルタ……。君が居れば…我が一族の血は絶え無い…だから、行って!! 」
「 ッ…… 」
父が、上級ドラゴンが居ることを話していた。
3人いればなんとかなると…思ったから、
私をここに連れて来たんだ。
「 にげ、ない……」
「 何故だ!? 」
怖くて、泣きそうだけど…。
グっと堪えては、座り込んでいて脚に力を入れ、立ち上がる。
「 お兄ちゃん達と……家に…帰りたいから。一緒に、帰りたいから…絶対に、私一人じゃ…逃げない! 」
「「 ロベルタ…… 」」
考えろ、考えるんだ…。
思考が恐怖心で満たされてしまえば、きっと答えは見つからない。
「 見えない攻撃…切られる程の威力…風圧……っ!!フラッシュ!!! 」
「「 !!?? 」」
この世界に、魔法に呪文は存在しない。
だから、レイルとの強制眷属魔法ですら、
私なりの呪文をつけた。
そうする事で、自分が今なんの魔法を使ってるのか冷静に把握出来るからだ。
両手を前に向け、金色の魔法陣を現せると眩い光が、空洞を包み込む。
自分自身でも目を背ける程の光に、攻撃をしてきたものの正体は、現れた。
「 グルルルッ……グァァアツ!!! 」
「 ドラゴンが、既にいたのか!? 」
「 うそ、だろ…… 」
明かりが消える前に、星の形をした光の玉を上空へと飛ばし、此の空間全体を光らせると、その真下には半透明ながらに黒いドラゴンの姿があった。
「 通りで…ナイトメアが逸早く気付いたわけだ…。闇属性なら…対応は出来る 」
「 ロベルタナイス!! 」
「 はいっ!レイル! 」
「 分かってる!加戦だろ!! 」
兄達に、攻撃対象が分かれば後の攻略は出来るのではないかと思っていると、レイルが下へと下りようとした瞬間、私の背中は何かによって叩き付けられた。
「 っ……!? 」
「 主人…!! 」
違う……
突き刺さったと同時に引き抜かれたんだ。
落下する身体を、レイルは空中で受け止めてくれると、そのまま地面へと着地した。
「 主人!!? 」
「 ご、ほッ……ゴホッ…… 」
背骨から溝内に掛けて、大きな空洞が出来る程に穴が空いた腹部に、レイルは焦りを見せた表情を浮かべ、兄達は私の方へと掛けようとするも、ドラゴンの攻撃によって阻まれる。
「 レイ、ル……お兄様、達に…手を、貸して… 」
「 だ、だが…主人が、こんな傷を背負って…俺が、放置できる訳ねぇだろ!? 」
「 いい、から…行きなさい…!これは、命令よ… 」
「 ッ……!!くっ……直ぐに、戻って来るからな…! 」
レイルの首には、首枷が浮かび上がり、それが彼の喉を密かに締めると、眉を寄せては私をそっと地面へと寝かせるように置き、ドラゴンへと向かって行く。
「 フーッ、ッ……( 流石に…痛いな……。回復、魔法を… )」
寝落ちする寸前に見た魔法だから、上手く出来るか分からないけど、腹部に手を当てて意識を集中させる。
「 くっ、そ……見えたところで攻撃が与えられねぇ!! 」
「 物理攻撃も光属性攻撃も効果無いなら…何が当たるんだ… 」
「 っ、はぁっ……あの風みたいな攻撃、クソ邪魔くせぇ…!! 」
離れた場所では、ドラゴンに攻撃出来ない事に苛立ちと戸惑いを見せる兄達の声が耳に届く。
「( 骨…神経…… )」
身体を構成する物を一つ一つ思い浮かべ、理科の授業で見たマネキンを思い出し、
失った部分の再生に力を注いでいると、ふっと…この攻撃をしたものの存在が無い事に気づいた。
「 はっ……ゴホッ……お兄ちゃん、達…!それは、影だけど…マボロシ!! 」
「 はぁ!?幻!? 」
「 つまり…本体は別に居るって事だな!? 」
「 多分………そう!! 」
流石、ヴォルクお兄様。
レーヴァより理解力が早くて助かった。
俯せになった私は、傷口が塞ぎ始めると、ゆっくりと立ち上がり、幾つもある通路の方に視線を向ける。
「 ロワ…動ける!? 」
「 は、い…… 」
「 背中を貸して! 」
「 御意…… 」
横たわっていたフェンリルは、私の言葉を聞くなり、身体に力を込めて立ち上がりこっちに向かって走って来た。
横に来て、背中に跨り鬣のような毛を掴むと狼は上空に向かって走っていく。
「 グァァァツ!!! 」
「 おっと、影の相手は俺達だぜ!? 」
「 俺以外従わないフェンリルが…言うことを聞いてる? 」
「 ヴォルク!今は、前を集中しろ!ロベルタには、何か策があるんだろ! 」
「 お、おう……! 」
ドラゴンの気が此方に向かないよう、レーヴァ達は攻撃する手を止めることなく、ドラゴンに向かっていく。
その間に、私は通路の全てに片手を向け、ロワに氷の狼を走らせて貰うことをお願いし、
全ての場所へと掛け走る。
「 ロベルタ様…左斜め上の、通路。分身が破壊されました! 」
「 了解! 」
炎の魔法では効果が無さそうだから、光属性魔法を放つと、予想外になんの反応もなかった。
「 次は右です! 」
「 こっち!? 」
「 左下です!! 」
「 もう!!こんなのモグラ叩きじゃん!! 」
ドラゴンは瞬時に場所が移動出来るらしく、私が攻撃しても、避けるか逃げるかのどっちかで、あってる様子はなかった。
キリがない様子に、レーヴァは私を見て笑った。
「 なるほどな……なら、こうすればいいんだろ!? 」
「 おま、まさか! 」
「 雷•轟•電•撃……!!雷獣召喚!!! 」
「( この世界にも…呪文言う人いるんだ… )」
剣を地面に突き刺して、召喚魔法を発動したレーヴァにちょっとだけお仲間気分を味わっていると、金色の魔法陣が現れ、雷鳴と共に地面に無数の亀裂と目に見える雷撃が走る姿は、虎の如く。
その雷獣が、各通路に向かって行くと何かにぶつかった瞬間、けたたましい悲鳴が響く。
「 ヴオ"ォ"ォォオッ!!!! 」
遠くから聞こえる悲鳴は、雷獣が向かう先から逃げてくるように徐々に地鳴りが近づく。
「 グァア"ァァッ!!! 」
「「 来た 」」
ドラゴンと言うから、もっとこの影みたいな…
如何にもドラゴンです!って見た目かと思っていたのだが、地面へと降ってきたのは、トカゲの様な姿。
重い音を立て地面に落下したトカゲは、
黒焦げになった身体を起き上がらせようとするも、力尽きて灰へとなり、消えていく。
「 たお、したの…? 」
「 そうだと思うが……。なら、これは何故…消えないんだ? 」
恐らく、私を攻撃したものは倒したはずだけど…
私達の前々に仁王立ちしてる、影のドラゴンを見上げるなり、それは尾を振り攻撃を始めた。
「 ぬぁ!!? 」
ロワと共に瞬時に避け、其々に攻撃を回避すると、レイルは声を張る。
「 なんか知んねぇけど…コイツと今のトカゲは別もんだからな!! 」
「 嘘!?それを早く言ってくれます!? 」
「 いや、ちょっと俺も変だなとか思ったけど… 」
「 ロベルタの策があるなら、乗るしかないよな? 」
「 お兄様達まで!!! 」
レイルも、気付いていたなら…それを先に言って欲しかったのに…!
お兄様達も、違和感を感じてたならこっちに協力しないで、前に集中して!?
私達は、相変わらず攻撃が全く通用しないドラゴンに苦戦をすることになり、
回復速度が圧倒的に遅くなる程に、力を使い尽くした。
「 はぁっ……ッ… 」
ふらつく脚になんとか倒れない様に踏ん張っていると、ドラゴンは羽を羽ばたかせただけで、無数の攻撃が、身体を斬りつけていく。
「 ッ……! 」
「 ロベ、ルタ……もぅ、諦めろ…… 」
「 は、コイツは……無理だ…… 」
意識が飛びそうな中で、地面に倒れる兄達は言葉を投げかけて来た。
レイルも片膝をついて、動けなくなっている。
「 は、くっ……だが、主人は…諦め、無いのだろ……なら……俺も、諦めねぇよ…! 」
「 レイル…… 」
深く息を吐いたレイルは、片膝に手を付き身体を揺らして、立ち上がった。
「 いつも…腹減ったとか、暇とか…んな、くだらねぇことしか言わねぇ…主人だけど…。それでも、俺の居場所をくれたからな…。だから今度は…俺が、主人の居場所に…帰す番だ…! 」
「 レイル……なに、を…… 」
「 なにって……ドラゴンには、ドラゴン…だろ? 」
当たり前だとばかりに、私の方を向いて笑ったレイルの身体は、黒い靄に覆われ、
其の姿は目の前のドラゴンと類似している黒い鱗に覆われたドラゴンへと変貌すると、人の声では無く獣の様な声を放った。
「 グア"ァァァア"ア"ッ!!! 」
「 グオ"ォォォオッ!!! 」
人の意識を失った様に、只目の前のドラゴンに向かって噛み付こうとしたり尾で叩こうとするも、其れは全て地面や壁を殴り付け、自ら傷つけてるようにしか見えなかった。
それ以上に、影のドラゴンから向けられる攻撃によって、レイルの身体には切り傷が増えていく。
「 レイル……やめ、て……もぅ、いいから…!! 」
「 グア"ァァァッ!! 」
もしこのまま…レイルを失う事になれば、
私は…あの時、逃げなかった事に後悔する。
やっと居場所が出来て…。
やっと少しずつ私や皆との距離感が近付いたのに、こんな場所で…。
こんなにも直ぐに、レイルが死ぬのは見たくない。
「 もう止めてって……言ってるでしょ!!! 」
「「 !!!! 」」
吐き出すように、声を放つと二頭のドラゴンは動きが止まり、レイルの方は姿が消え、その身体は黒猫へと戻った。
「 レイル!! 」
地面へと落下する前に、走って抱き止めると、黒猫は密かに息をしては、銀色の瞳を弱々しく向ける。
「 ニァッ…… 」
まるで、ごめん…勝てなかったわ。
そんな事を言ってそうな黒猫の、か細い鳴き声に首を振って、優しく抱き締めた。
「 もういい……先に、おかえり…レイル 」
黒猫は、私の言った言葉に気付いたのか瞳孔を開くものの瞬時に腕の中から消えた。
「 お兄様達も…兵士さん達も、今ならまだ…私の魔力が残ってるから、帰せる…。だから…帰っていいよ 」
「 ロベルタ…待て…… 」
「 御前を置いて、帰れるわけ…無いだろ……!ロベルタ……!!! 」
父は言っていた。
…俺は負けたって。
でも、帰って来たからには理由がある。
それは、誰かがこうして…
逃したのだろう……。
その場に居た者達が居なくなると、魔力の消失に身体は地面へと倒れた。
「( これ、で……良かった…… )」
「 ……ククッ…愚かだなァ! 」
ドラゴンは負けを認めた私達に向け、洞窟内に響く程の笑い声を上げる。
その声を聞きながら、私の意識は途切れた…。
仕事をしていると、不意にインクケースが倒れ、紙を黒く染め上げた。
「 本当に…ロベルタお嬢様を送って良かったのですか?あの鍾乳洞には…最上級ランクのドラゴン種がいるのでは…? 」
血の入ったワイングラスを置いたランスの言葉に、紙を眺めていた視線を、窓の外へ向ける。
「 嗚呼…。存在する…あの土地を得ると、更に金にはなるが。誰一人として…今だにあのドラゴンを倒せて無いんだ 」
「 それなら何故…ロベルタお嬢様も?下手すれば…跡取りを失う事にも成りかねませんよ 」
「 そうなったらそうなったの時だ。彼奴等が三人係りでも倒せなかったドラゴンだと思い…あの土地を諦めるだけさ 」
首席であり、最年少で魔法部門を卒業したヴォルク、試合の最中、剣術で右に出る者が居なかった無敗のレーヴァ。
そして…、幼いながらも上級獣魔に憑依された人間を眷属として契約し、俺の眷属ですら簡単に扱う事ができた…。
未来有望な…魔獣使い。
そんな3人ですら、太刀打ち出来ないなら…
全てを諦める事すら出来る。
「 私は…兄と一緒に、あの鍾乳洞に入った。ちょっとした冒険心だったのだが…あのドラゴンに出会って、一人で逃げるのに精一杯だった…。兄が囮になったんだ……。兄を失い、私が爵位を継ぐことになったが…。今思うと…この地位は、兄のものだっただろう。だから、失おうと…興味は無い 」
「 旦那様…… 」
「 だから答えを求めたんだ。彼奴等なら誰を囮にして逃げるのか…それとも、共倒れか……。さぁ、息子達…どうする?。そのドラゴンは…強いぞ 」
鍾乳洞がある方向を眺めては、今頃出会っていても可笑しくない時間だからこそ、気にはなる。
勝てる見込みがない相手に…。
どうやって立ち向かうのか、それが楽しみだ。
ーーー 鍾乳洞•中部 ーーーー
レーヴァは吸血鬼だから、ある程度の傷は一瞬で回復出来るとしても、他の兵士達はそうは行かない。
「 動ける者から撤退しろ!!ロワ!!直ぐに兵士を安全な場所へ! 」
「 御意……!!? 」
「 ッ……!?ぎゃぁあっ!! 」
「 う"ぁぁっ!!? 」
まるで下は、地獄絵図。
敵の姿は無いのに、何処からともなく攻撃が仕掛けられ、指示を出す為だけに片手を向けたヴォルクの手首は切断され、フェンリルの身体には無数の切り傷が付き、血が吹き出した。
そして、繭から開放された兵士達もまた、その攻撃によって、傷ついていく。
「 ッ!!ロベルタ!! 」
「 …! 」
戸惑って硬直して動けなくなった私に、血の流れる手首を押さえたヴォルクは声を張った。
「 御前は、今すぐ逃げろ!!俺達が出来るだけ時間を稼いでやる!! 」
「 いや、だ…… 」
言葉にならない程の小さな声で首を張ると、ヴォルクは反対の手で辺りの壁に向かって攻撃を仕掛け始めると、反撃するように彼の身体には切り傷が増えていく。
「 ロベルタ…御前を巻き沿いにさせてしまった俺達が悪いんだ。だから、御前だけでも逃げてくれ! 」
「 ゴホッ……そう、だぜ…。ロベルタ……。君が居れば…我が一族の血は絶え無い…だから、行って!! 」
「 ッ…… 」
父が、上級ドラゴンが居ることを話していた。
3人いればなんとかなると…思ったから、
私をここに連れて来たんだ。
「 にげ、ない……」
「 何故だ!? 」
怖くて、泣きそうだけど…。
グっと堪えては、座り込んでいて脚に力を入れ、立ち上がる。
「 お兄ちゃん達と……家に…帰りたいから。一緒に、帰りたいから…絶対に、私一人じゃ…逃げない! 」
「「 ロベルタ…… 」」
考えろ、考えるんだ…。
思考が恐怖心で満たされてしまえば、きっと答えは見つからない。
「 見えない攻撃…切られる程の威力…風圧……っ!!フラッシュ!!! 」
「「 !!?? 」」
この世界に、魔法に呪文は存在しない。
だから、レイルとの強制眷属魔法ですら、
私なりの呪文をつけた。
そうする事で、自分が今なんの魔法を使ってるのか冷静に把握出来るからだ。
両手を前に向け、金色の魔法陣を現せると眩い光が、空洞を包み込む。
自分自身でも目を背ける程の光に、攻撃をしてきたものの正体は、現れた。
「 グルルルッ……グァァアツ!!! 」
「 ドラゴンが、既にいたのか!? 」
「 うそ、だろ…… 」
明かりが消える前に、星の形をした光の玉を上空へと飛ばし、此の空間全体を光らせると、その真下には半透明ながらに黒いドラゴンの姿があった。
「 通りで…ナイトメアが逸早く気付いたわけだ…。闇属性なら…対応は出来る 」
「 ロベルタナイス!! 」
「 はいっ!レイル! 」
「 分かってる!加戦だろ!! 」
兄達に、攻撃対象が分かれば後の攻略は出来るのではないかと思っていると、レイルが下へと下りようとした瞬間、私の背中は何かによって叩き付けられた。
「 っ……!? 」
「 主人…!! 」
違う……
突き刺さったと同時に引き抜かれたんだ。
落下する身体を、レイルは空中で受け止めてくれると、そのまま地面へと着地した。
「 主人!!? 」
「 ご、ほッ……ゴホッ…… 」
背骨から溝内に掛けて、大きな空洞が出来る程に穴が空いた腹部に、レイルは焦りを見せた表情を浮かべ、兄達は私の方へと掛けようとするも、ドラゴンの攻撃によって阻まれる。
「 レイ、ル……お兄様、達に…手を、貸して… 」
「 だ、だが…主人が、こんな傷を背負って…俺が、放置できる訳ねぇだろ!? 」
「 いい、から…行きなさい…!これは、命令よ… 」
「 ッ……!!くっ……直ぐに、戻って来るからな…! 」
レイルの首には、首枷が浮かび上がり、それが彼の喉を密かに締めると、眉を寄せては私をそっと地面へと寝かせるように置き、ドラゴンへと向かって行く。
「 フーッ、ッ……( 流石に…痛いな……。回復、魔法を… )」
寝落ちする寸前に見た魔法だから、上手く出来るか分からないけど、腹部に手を当てて意識を集中させる。
「 くっ、そ……見えたところで攻撃が与えられねぇ!! 」
「 物理攻撃も光属性攻撃も効果無いなら…何が当たるんだ… 」
「 っ、はぁっ……あの風みたいな攻撃、クソ邪魔くせぇ…!! 」
離れた場所では、ドラゴンに攻撃出来ない事に苛立ちと戸惑いを見せる兄達の声が耳に届く。
「( 骨…神経…… )」
身体を構成する物を一つ一つ思い浮かべ、理科の授業で見たマネキンを思い出し、
失った部分の再生に力を注いでいると、ふっと…この攻撃をしたものの存在が無い事に気づいた。
「 はっ……ゴホッ……お兄ちゃん、達…!それは、影だけど…マボロシ!! 」
「 はぁ!?幻!? 」
「 つまり…本体は別に居るって事だな!? 」
「 多分………そう!! 」
流石、ヴォルクお兄様。
レーヴァより理解力が早くて助かった。
俯せになった私は、傷口が塞ぎ始めると、ゆっくりと立ち上がり、幾つもある通路の方に視線を向ける。
「 ロワ…動ける!? 」
「 は、い…… 」
「 背中を貸して! 」
「 御意…… 」
横たわっていたフェンリルは、私の言葉を聞くなり、身体に力を込めて立ち上がりこっちに向かって走って来た。
横に来て、背中に跨り鬣のような毛を掴むと狼は上空に向かって走っていく。
「 グァァァツ!!! 」
「 おっと、影の相手は俺達だぜ!? 」
「 俺以外従わないフェンリルが…言うことを聞いてる? 」
「 ヴォルク!今は、前を集中しろ!ロベルタには、何か策があるんだろ! 」
「 お、おう……! 」
ドラゴンの気が此方に向かないよう、レーヴァ達は攻撃する手を止めることなく、ドラゴンに向かっていく。
その間に、私は通路の全てに片手を向け、ロワに氷の狼を走らせて貰うことをお願いし、
全ての場所へと掛け走る。
「 ロベルタ様…左斜め上の、通路。分身が破壊されました! 」
「 了解! 」
炎の魔法では効果が無さそうだから、光属性魔法を放つと、予想外になんの反応もなかった。
「 次は右です! 」
「 こっち!? 」
「 左下です!! 」
「 もう!!こんなのモグラ叩きじゃん!! 」
ドラゴンは瞬時に場所が移動出来るらしく、私が攻撃しても、避けるか逃げるかのどっちかで、あってる様子はなかった。
キリがない様子に、レーヴァは私を見て笑った。
「 なるほどな……なら、こうすればいいんだろ!? 」
「 おま、まさか! 」
「 雷•轟•電•撃……!!雷獣召喚!!! 」
「( この世界にも…呪文言う人いるんだ… )」
剣を地面に突き刺して、召喚魔法を発動したレーヴァにちょっとだけお仲間気分を味わっていると、金色の魔法陣が現れ、雷鳴と共に地面に無数の亀裂と目に見える雷撃が走る姿は、虎の如く。
その雷獣が、各通路に向かって行くと何かにぶつかった瞬間、けたたましい悲鳴が響く。
「 ヴオ"ォ"ォォオッ!!!! 」
遠くから聞こえる悲鳴は、雷獣が向かう先から逃げてくるように徐々に地鳴りが近づく。
「 グァア"ァァッ!!! 」
「「 来た 」」
ドラゴンと言うから、もっとこの影みたいな…
如何にもドラゴンです!って見た目かと思っていたのだが、地面へと降ってきたのは、トカゲの様な姿。
重い音を立て地面に落下したトカゲは、
黒焦げになった身体を起き上がらせようとするも、力尽きて灰へとなり、消えていく。
「 たお、したの…? 」
「 そうだと思うが……。なら、これは何故…消えないんだ? 」
恐らく、私を攻撃したものは倒したはずだけど…
私達の前々に仁王立ちしてる、影のドラゴンを見上げるなり、それは尾を振り攻撃を始めた。
「 ぬぁ!!? 」
ロワと共に瞬時に避け、其々に攻撃を回避すると、レイルは声を張る。
「 なんか知んねぇけど…コイツと今のトカゲは別もんだからな!! 」
「 嘘!?それを早く言ってくれます!? 」
「 いや、ちょっと俺も変だなとか思ったけど… 」
「 ロベルタの策があるなら、乗るしかないよな? 」
「 お兄様達まで!!! 」
レイルも、気付いていたなら…それを先に言って欲しかったのに…!
お兄様達も、違和感を感じてたならこっちに協力しないで、前に集中して!?
私達は、相変わらず攻撃が全く通用しないドラゴンに苦戦をすることになり、
回復速度が圧倒的に遅くなる程に、力を使い尽くした。
「 はぁっ……ッ… 」
ふらつく脚になんとか倒れない様に踏ん張っていると、ドラゴンは羽を羽ばたかせただけで、無数の攻撃が、身体を斬りつけていく。
「 ッ……! 」
「 ロベ、ルタ……もぅ、諦めろ…… 」
「 は、コイツは……無理だ…… 」
意識が飛びそうな中で、地面に倒れる兄達は言葉を投げかけて来た。
レイルも片膝をついて、動けなくなっている。
「 は、くっ……だが、主人は…諦め、無いのだろ……なら……俺も、諦めねぇよ…! 」
「 レイル…… 」
深く息を吐いたレイルは、片膝に手を付き身体を揺らして、立ち上がった。
「 いつも…腹減ったとか、暇とか…んな、くだらねぇことしか言わねぇ…主人だけど…。それでも、俺の居場所をくれたからな…。だから今度は…俺が、主人の居場所に…帰す番だ…! 」
「 レイル……なに、を…… 」
「 なにって……ドラゴンには、ドラゴン…だろ? 」
当たり前だとばかりに、私の方を向いて笑ったレイルの身体は、黒い靄に覆われ、
其の姿は目の前のドラゴンと類似している黒い鱗に覆われたドラゴンへと変貌すると、人の声では無く獣の様な声を放った。
「 グア"ァァァア"ア"ッ!!! 」
「 グオ"ォォォオッ!!! 」
人の意識を失った様に、只目の前のドラゴンに向かって噛み付こうとしたり尾で叩こうとするも、其れは全て地面や壁を殴り付け、自ら傷つけてるようにしか見えなかった。
それ以上に、影のドラゴンから向けられる攻撃によって、レイルの身体には切り傷が増えていく。
「 レイル……やめ、て……もぅ、いいから…!! 」
「 グア"ァァァッ!! 」
もしこのまま…レイルを失う事になれば、
私は…あの時、逃げなかった事に後悔する。
やっと居場所が出来て…。
やっと少しずつ私や皆との距離感が近付いたのに、こんな場所で…。
こんなにも直ぐに、レイルが死ぬのは見たくない。
「 もう止めてって……言ってるでしょ!!! 」
「「 !!!! 」」
吐き出すように、声を放つと二頭のドラゴンは動きが止まり、レイルの方は姿が消え、その身体は黒猫へと戻った。
「 レイル!! 」
地面へと落下する前に、走って抱き止めると、黒猫は密かに息をしては、銀色の瞳を弱々しく向ける。
「 ニァッ…… 」
まるで、ごめん…勝てなかったわ。
そんな事を言ってそうな黒猫の、か細い鳴き声に首を振って、優しく抱き締めた。
「 もういい……先に、おかえり…レイル 」
黒猫は、私の言った言葉に気付いたのか瞳孔を開くものの瞬時に腕の中から消えた。
「 お兄様達も…兵士さん達も、今ならまだ…私の魔力が残ってるから、帰せる…。だから…帰っていいよ 」
「 ロベルタ…待て…… 」
「 御前を置いて、帰れるわけ…無いだろ……!ロベルタ……!!! 」
父は言っていた。
…俺は負けたって。
でも、帰って来たからには理由がある。
それは、誰かがこうして…
逃したのだろう……。
その場に居た者達が居なくなると、魔力の消失に身体は地面へと倒れた。
「( これ、で……良かった…… )」
「 ……ククッ…愚かだなァ! 」
ドラゴンは負けを認めた私達に向け、洞窟内に響く程の笑い声を上げる。
その声を聞きながら、私の意識は途切れた…。
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