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しおりを挟む我が家には“アジアアロワナ“という種類の古代魚であり、淡水魚がいる
色の種類は藍底過背金龍といって、成長しても鱗框の金発色が鱗の内側、鱗底に侵食せず、鱗底のブルーが残る個体の事をいう
つまり、鱗がブルーの色をしてるアロワナの事だ
家に来たのは約20㎝位の稚魚だった
シンガポールから専門店を通して、一目惚れをし購入
我が家に来たときは色々大変だったのを染々に思うほどに、コイツには苦戦させられた
飼い初めてから5年の月日が流れ、病気になったり、拒食になったり、月に1万円以上の食費やら実費が掛かろうとも、愛情を向け世話していた
だが、サラリーマンの俺と共に生活していたアイツが帰ったら消えていた
『 嘘だろ……この重さを跳ね開けたのか…… 』
アロワナのジャンプ力は計り知れないのは本で調べてた為に、ガラス蓋の上に2リットルのペットボトルを6本置いていた
コイツとプレコしかいない、180㎝ワイドのオーバーフロー水槽だったのだが、蓋をしっかりと閉め重りもしていた
だが、水槽の下に鱗や水が落ちてるだけで本体の姿がない
50㎝は有ろうアロワナがいないのは可笑しい
仕事から帰って来て、一番最初に挨拶をするアイツが居なくて焦り
辺りを見渡したり、水槽の裏などを覗いても姿はなく、ふっと床にある滴が点々とリビングから風呂場へと続いてるのに気付き急いで風呂場へと向かった
『 藍!! 』
藍色の藍(アイ)、余りにも単純な名前だがそれしか思えないほど綺麗なんだ
因みに“藍ちゃん“なんてちゃん付けで呼んでる時は、家で一人寂しく魚を見ながら酒を飲んでるときに呼ぶぐらいであり、普段は呼び捨てで呼んでいる
風呂場へと走り、脱衣場の扉が開いてるのを見てた後に、もう一つの扉の先を見れば50㎝には見えないほど大きな藍底の尾びれは見え、そして全体を見れば固まった
『 えっ………… 』
そこには風呂場の床に倒れてる下半身が蒼底色の鱗を持った、金色の髪をした褐色肌の青年が倒れていたのだ
一瞬頭の中が真っ白になるが、下半身がアロワナだろうが、倒れてる人を放置出来るわけもなく声を掛ける
『 えっ、ちょっ……大丈夫か!? 』
何があったんだと思いながら、肩に触れ起こそうと身を持ち上げれば、見た目は175㎝程度の青年だが身体は思った以上に軽く、そしてスラッとした細身だった
睫毛すら金色に染まった、綺麗なエキゾチックな容姿の彼に一瞬見惚れるも、その頬を軽く叩けば僅に動く
「 み、み………… 」
『 なに?耳? 』
「 み、ず、を…… 」
『 水か!!えっ、アロワナだろ……わかった、すぐにカルキを抜くから待ってろ 』
水をくれ、密かにそう言った言葉を告げた彼を一旦横に寝かせ
湯船を軽く洗ってから、水温28度設定で湯を入れ始め、この湯船の風呂の量に合うカルキ抜きを突っ込んだ
ペーハーまでは考えられなかったが、取り敢えず水温とカルキさえ抜ければ大丈夫かと思い、彼を無理矢理風呂へと入れれば、多少浮いていたが直ぐに動き始めた
「 ふはー!生き返った! 」
『 ……良かった 』
仕事を終えて早一時間半、謎の青年を助けたところで疲れきって、溜め息混じりの安堵をつく
『 それで、御前は誰なんだ?アロワナでも食ったか? 』
寧ろ、アロワナを履いたか?なんて思いたいほどにその鱗はアイのものだった
五年も飼っているんだ
鱗の位置やら光加減はペットショップで似た藍底を見ようが、同じ個体は存在しない
それがアロワナの良いところだからこそ、改めて見れば水槽から消えたアイそのもの
だからこそ、胸に感じる“アイが死んだかもしれない“という靄を取っ払いたかった
食ったり殺したのなら、今すぐコイツを沈めて殺せる気はあるが、気持ちを落ち着かせ問えば
彼は、藍色の瞳を此方へと向け恰も当たり前のように告げた
「 アイちゃん、だろ? 」
『 …………へ? 』
それは俺が酔ってる時に、アイちゃん可愛いねぇ~美人だねぇ~なんて語りかけてる時に言ってる名前であり、アロワナを飼ってることを知ってる連中でさえ知らないことだ
「 アイちゃん、キレイか…? 」
『 っ……! 』
自らの胸元へと手を置き、傾げたエキゾチック顔の青年は“綺麗“という言葉が似合うほどに美形であり、若々しい外見と共にイケメンだと思う
ペットショップで見たときに一目惚れしたのを思い出す
熱帯魚なんてネオンテトラから始まり、大型のではエンゼルフィッシュ程度しか買ったことのないのに、その色から、簡単なシルバーアロワナではなく、高価なアジアアロワナを買ったんだ
長生きする、維持費が大変、いろんな事を言われて改めて大変さを知ったアジアアロワナ
そんなアイが五年生きてるだけで、毎日が嬉しくて仕方無い
それなのに……次は人間の姿?
俺は恋人居なくて、堂々飼ってるアロワナを人間みたいに見えてしまうなんて重症だな
『 あぁ……綺麗だよ……アイ 』
つまらない社畜のサラリーマン、それでも帰って来れば餌を求めてじっと此方を見るアイが可愛くて仕方無かった
今も、只…答えを待っていた彼は俺の一言で笑顔を見せた
「 そうか、良かった! 」
なぁ、アイ……喋れたら色々聞きたいことがあるんだ
俺の育て方はどうだっただろうか?
アロワナの下半身を持つ、青年を早々に受け入れることが出来たのは
きっと、仕事疲れしてるからだろうな
「 アイちゃん、お腹すいた! 」
『 お腹な……今、準備を………… 』
ごく普通にアロワナとしてご飯の準備をしようとしたが、待てよ
アイの大好物はコオロギだ
そして、普段はジャンボミルワーム、フルーツゴキブリ、アフリカツメガエル、ムキエビ、小アジ等だ
それを人の姿で食わせる?……一週間ぐらい夢見が悪くなる自信がある
コオロギやミルワームは育ててるからある、フルーツゴキブリは冷凍だが、今はない
「 あれがいいな、動いて、浮いてるやつ。ウズウズする! 」
『( 生き餌か…… )』
動いてるってことは、冷凍で直ぐに沈むようなやつではない
そうなるってことは生き餌だが……流石に食わせたくないから百歩譲って考えた
『 今日は、小赤でもいいか? 』
「 おぉ!!いいよ 」
他の水槽でアイの食用として飼っている、小赤…金魚にすることにした
90㎝の水槽に常に300匹ほど入れて、昆虫では泳がないために、泳がせる時な為に飼ってるのだが今日は百歩譲ってそれに決めた
一旦風呂場から離れ、バケツを持ち小赤の入った水槽の前に行き
カルキ抜きをした水の中へ、小赤をすくっていれる
取り敢えず10匹ほど取り、風呂場へと戻れば此所で考える
『( 俺はどこで、風呂に入るんだ?風呂……の中で…… )』
まだ風呂に入ってない状態なのに、風呂から上がろうとはしない彼に硬直すれば楽しみだとばかりに此方を見上げる様子に負け、バケツの水ごと、風呂へと小赤を入れた
「 おぉ!!今日はこいつ等か~! 」
『 っ…… 』
泳ぎ始めた小赤に合わせて湯船に潜って追いかけるが、ヒレによって水は弾く
狭いのは仕方無い……泳ぐようの風呂では無いのだからな……
「 んー!うまっ! 」
そして、小赤を掴み吸い込むように食った様子を見て視線を外した
『 ……まだいるか? 』
「 他のがいい! 」
10匹食ったところで、別の餌を要求されることにアイらしい
こいつは美食家だから、同じ餌を一度に多く食ってはくれないんだよな……
『 ……ムキエビを持ってくる 』
「 む…… 」
動かない餌は本当にいやがるよな、
でも虫だけは嫌なんだ……許してくれ
冷凍庫からムキエビを数個解凍させ持ってくれば、明らかに嫌そうにするために仕方なく
しゃがみこみ、片手に持ち目の前で揺らす
『 ほら~、動いてるぞ~ 』
「 んんっ!それは、欲しい! 」
落ちれば興味を示さないが、揺れていれば興味を示す
その時に口元へと持っていけば、アイは口を開け含んだ
『 っ……! 』
アロワナの時でも指を咬まれた時はあったが、今は人の姿
ムキエビと共に口に含んだ指を舐めて、僅に舌先が指へと当たる感覚に息は詰まり、手を引く
「 んー、味が薄い……ん?どうした、オレ? 」
『 あ、いや……というか。俺の事をオレって言ってたのか? 』
てっきり、一人称だと思ってた為に気を誤魔化すように問えば、アイは尾びれを揺らし片手を其々に向けた
「 オレ、おまえはアイちゃん。違う? 」
『 御前は確かに、アイだ。だが、俺は…… 』
あ、そうか……この家には俺の名を呼ぶ奴なんていないから分からなかったのか
5年間「オレ!飯くれ!」なんて言ってたのを想像するだけで笑えてきて、ふっと笑えば胸元へと指を向ける
『 アイちゃん、そして俺は……隆一(りゅういち)だ。隆一、分かったか? 』
「 りゅういち……隆ちゃん! 」
『 ……ちゃん付け、まぁいいか、そうだよ。アイちゃん 』
いい歳をした三十代の俺が、ちゃん付けで呼ばれるなんて可笑しな話だが
俺より若い二十代ぐらいのアイが喜ぶならそれでいい
「 隆ちゃん、飯くれ! 」
『 手で食わせなきゃダメか? 』
「 うん! 」
『 はぁ、指を噛むなよ…… 』
舐められるのは色々と変な気になる、とムキエビを持てば軽く揺らしてから食わせていく
嬉しそうに食べる様子を見てると、普段もこんな風に喜んでくれてたんだな
分かってたさ、アロワナは他の魚より表情豊かで性格がもろ分かりやすくあるから
連れてきた当時はずっと怯えてたり、慣れてきたら、水槽に激突したり、餌の色好みも激しいのも
それでも食べてくれるのは嬉しいんだ
『 まだいるか? 』
「 んん、もういらない 」
小赤10匹にムキエビ10個か、消費が少なくなるとは言えど人間の姿になってわかる
余り食わせてなかったから細身なんだということを……
アジアアロワナはむっくりとした体型だから気にならなかったが、こんなにも痩せてたんだな
『 アイちゃん、明日はもう少し良いものを買ってくるが……此所から出る気はないのか? 』
「 そっち出たら、息苦しくなる…… 」
『 水槽から出た理由はなんだ? 』
気になった質問に問えば、彼は傾げて考える素振りを見せてから背伸びをした
その脇腹にある線は、恐らくエラなんだろう
そんな部分についてるのが驚きだが、僅に動くのを見れば納得できる
だから肩から上を出してても平気なのか……
「 んーと、隆ちゃん早く帰ってこないかなー。遅いなー、とか考えてたらこんな姿になってた。隆ちゃんに、会いたい一心で? 」
『 はぁー……ったく…… 』
胸に矢でも刺さったような感覚がして、湯船に額を当て溜め息を吐いてから告げる
『 そうか、俺が帰ってきたら嬉しいか…… 』
「 うん!飯くれるから! 」
『 そんな気はしてた…… 』
「 それに、あの底の奴は無口だから話が合わないし……隆ちゃんは、いつも話し掛けてくれてた! 」
『 一人言多い、社畜でごめんな……まぁそうか、わかった……俺も風呂に入りたいから待っててくれ 』
底の奴、プレコの事か
いつも流木を齧ってるような彼奴とは話が合わなかったのか、そりゃ種族が違うもんな……
いや、人間の俺とも違うが、それでも少なからず話を聞いてくれてた事に嬉しくなれば先に風呂を済ませることにした
湯船の中に石鹸が入らないよう、慎重に身体を洗うことにする
「 隆ちゃんも一緒に、はいるー? 」
『 風邪を引くから遠慮する 』
「 んん? 」
水温28度は流石に寒いだろ……
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