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第一章 俺とお嬢様
3 お茶会へ ①
しおりを挟むガタガタッガタガタガタガタッ
レイラ様と俺はボーッと窓の外を眺めながら馬車に揺られていた。
「もうそろそろ着きますかね、お嬢様」
「ええ、そうね……ってどうして今日はついてきたの?ノア。今日はララがついて来るかと思ってたわ」
そう、今日はレイラ様と皇太子殿下のお茶会の日だった。
「それは勿論、お嬢様専属の従者ですから。何処へでもついていきますよ」
いえ、嘘です。本当はレイラ様専属のメイド「ララ」がくる予定だったが、昨晩俺が旦那様に頭を下げて頼み込みました。
今日お茶会をする第一王子のジェイコブ・ルイ・アレクサンダー皇太子殿下には、実は最近あまり良くない噂を耳にしていた。その為少し心配でここまで着いてきてしまった訳だが……
「ふーん?なぁーんだ、てっきり私の事が心配で心配で仕方なくてここまで着いてきたのかと思ったわ」
ぎく……俺は思わずあからさまに目を反らした。そんな俺を見てレイラ様は「おや~?」と言いながらニヤニヤとし始めた。馬車では向き合うようにしてお互い座っていたが、レイラ様は俺が座っている隣へと移動してきた。
「ノーアくん?どーして目を逸らすのかしら~?もしかして図星だったりして?」
そう言ってレイラ様はニヤニヤとしながら、俺の右頬を人差し指でツンツンし始めた。いや、なんだこれ。かわいいかよ。でもなんか少し悔しいな、これ。
俺はそう思い逸らしていた顔をレイラ様の方へと向き直して少し顔を近づけた。
「……心配しちゃ駄目なんですか」
「ぅえっ?」
レイラ様は少し狼狽えて後ろへと下がった。しかし俺は更に顔を近づけて、じっと瞳を見つめた。
「心配で心配で仕方ないに決まってるじゃないですか」
俺はそう言いながらレイラ様の髪に軽く触れた。するとレイラ様はカァ~と顔を赤らめて、俺の胸に両手を当てて顔を逸らした。
「わ、分かったわ、分かったから!もう!貴方、距離感バグってるのよ!」
「ばぐ……?」
「~~~~~~!もう!なんでもないからそんな子犬みたいな瞳……じゃなくて、少し離れてったら!」
「……自分から隣に来たのに」
俺は少し不服そうにしながら、レイラ様から離れた。すると、レイラ様は右手でパタパタと顔を仰ぎながら口を開いた。
「ふぅ……イケメンの顔は心臓に悪い……じゃなくて!ま、まあ、いいわ!ノアとの方が作戦を立てやすいしね!」
「作戦、ですか?」
「ええ!なんとしても、ギロチン回避よ!」
「あぁ……そういえば、そういう話でしたね」
「ちょ、ちょっと!貴方、だからついてきたんじゃないの!?」
レイラ様は自分の頬をぷくーっと膨らました。ほんと、もうかわいいんだから。この人。
「ええ、そうでした。そうですよ、ええ。それで作戦とやらはどうするんでしたっけ?」
俺がそう訊ねるとレイラ様はふっふっふとわざとらしく自慢げに笑った。
「題して『塩対応作戦』よ!」
…………しお……たいおう。
なんかこの間、ぶつぶつ言っていたな。
「前世で脈なし男によく使う技よ!何を言われても無表情で『はい』『いいえ』『そうですね』『結構です』としか答えないようにするの。あの相手は俺様で派手好き、面白い事が好きなのよ?だからそんな対応しかしない女なんて『あぁ、なんてつまらん女なんだ、お前とは婚約するもんか』ってなるに違いないわ!」
「……そんなに上手くいきますかね」
「……正直、これくらいしか案が浮かばなかったわ。相手は一応、皇太子殿下ですもの。あまりにも失礼が過ぎると不敬だわ」
「まあ、そうですね。その作戦でいきましょう」
そう言って俺は適当に相づちをしながら、隣にいるレイラ様の方へと視線を移し目線を合わせようとした。が、レイラ様は先程のやり取りを思い出したのか、またしてもぷいっとそっぽを向いた。そして、両手で再び紅く染まる頬を抑え「う~~」と唸り始めた。
俺は少しため息を漏らして、聞こえないくらいの声で呟いた。
「……殿下にもそんな顔見せないで下さいね」
「え、何?何か言った?」
「いいえ、何でもありません」
レイラ様は少し不思議そうに首を傾げていた。あぁ、本当に心配だ。
そうやっている内に俺達の馬車は城へと到着した。俺は先に下りて馬車の方へと振り返り、右手をレイラ様に差し出した。
「足元にお気をつけ下さいませ」
「ありがと、ノア」
そうして俺達は城の中へと乗り込んでいった。
***********************
俺達は、城の離れにある温室へと案内をされた。温室の中に入ると美しく生き生きとした花々が連なっていた。奥へと進むとお洒落な白いテーブルと椅子が二つ用意されていた。「こちらへどうぞ」と案内の者が椅子を引きながら言った。
「もうしばらくこちらでお待ち下さいませ」
レイラ様が椅子へ腰を掛けると、案内の者はそう言ってその場を後にした。
「これはまたご立派な温室ですね」
「ええ、そうね。公爵家にも温室作って貰おうかしら」
「ははは……え、冗談ですよね?」
そんな風に、二人で雑談をしながら暫く待っていると「待たせてな」と後ろから声を掛けられた。後ろを振り返ると、少し切目で濃い藍色の瞳とそれとは対象的で情熱的な真っ赤な髪色の少年が立っていた。
そう、このお方がジェイコブ・ルイ・アレクサンダー皇太子殿下だ。
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