俺のお嬢様はおとめげーむ?の『悪役令嬢』らしいです

杏音-an-

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第一章 俺とお嬢様

5 嘘でしょ?

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 ガタガタッガタガタガタガタッ


 レイラ様と俺は再びボーッと窓の外を眺めながら馬車に揺られていた。

 ダンッダンッ 

 ……わけではなかった。

「なんなのよおお!!あんの糞ガキィ!人の身体をジロジロジロジロとぉお!どこが『俺様王子』設定よ!ただの自己中で失礼すぎる糞マセガキじゃなああい!!」

 レイラ様はダンダンダン!と地団駄を踏みながら叫んだ。

「お嬢様、落ち着いて下さい。底が抜けてしまいます」

「うぅ……だってぇ……はっ、て言うか私大丈夫かしら?めちゃくちゃ不敬な事した気がするわ……」

「いや、あれはどう見ても殿下が……」

「ギ、ギロチン回避できないわぁあああ!!」

 レイラ様は馬車の中で半泣きになりながら発狂し出した。俺はやれやれとため息をつきながら、レイラ様の隣に座りポンと肩に右手を乗せた。

「お嬢様」

「ノ、ノァ」

「大丈夫です。今回の件についてはどう見てもジェイコブ皇太子殿下に非があります。まだ12歳とはいえ、遅れてやってきて謝罪の一つもなく、他のご令嬢の悪口や面と向かって淑女の身体を品定めするような態度は皇太子として褒められるような行為ではごさいません。それに……」

 俺はにっこりと優しく微笑んだ。

「ありがとうございました。私のような従者を庇って下さって……とてもかっこよかったですよ、お嬢様」

「っ!!……っく!!!」

 ん?

 お嬢様は急に胸と口元を抑え悶え始めた。

「くっ……この笑顔……めちゃくちゃスチルにしたい……いえ、スチルにするべきよ……ご馳走様です……」

「…………」

 また訳の分からない単語が出てきた。きっと「すちる」は前世の言葉なんだろう。うん。
 そんなやり取りをしていると、レイラ様は再びはぁぁと深いため息を漏らした。

「あんの皇太子……私もなんとなく噂は聞いていたし、ゲームとは違ってまだ12歳で子供とはいえ、皇太子として、王族としての自覚があるのかしら」

「まったくですね。先が思いやられます。このままだと王位継承権も……なんてこともあり得なくはありませんね。その辺『おとめげーむ』ではどうだったんです?」

「ん~『ジェイコブルート』は……私がギロチン処刑されて『俺は永遠の愛を見つけたようだ。それは……お前だ、○○○、愛してる』『ジェイ様……私も愛してます……』ってお花畑みたいなところでお互いに永遠の愛を誓い合ってエンディングだったわ」

「な、なるほど……?なんの参考にもなりませんね」

 俺達は顔を見合せ、はぁと再びため息を漏らした。今日何度目のため息だろうか。

「まあ、とりあえずこれで殿下には見事嫌われて婚約者候補から外れましたかね」

「そうね、あんな生意気な態度を取って勝手に帰ってきちゃったものね」

 レイラ様は両手を上に上げてグッと身体を伸ばした。レイラ様の少し発育のいいお胸様がより強調され、俺は思わずドキッとしてしまった。
 俺がそんなことを考えてふとレイラ様は窓に映るお顔を見て窓に手を当てた。

「それに……所詮、私は悪役令嬢なんだもの。ゲームみたいに無理やりこぎ着けた政略結婚でなかったら、わざわざ数々のご令嬢の中から、こんな切り目で生意気そうな悪役令嬢顔の女選ばないでしょう」

「は。何言ってるんですか」

「え」

「お嬢様は綺麗ですよ」

 レイラ様はきょとんとした表情を浮かべた。
 いや、当たり前だ。悪役令嬢顔は正直よく分からないが、切り目って……十分綺麗な二重で、お顔も整っている。髪もいい匂いがするし、スタイルだって抜群。どこからどう見ても容姿端麗だ。だから今回も心配でこうやってついてきたんだ。

「お嬢様は数々のご令嬢の中でも一番お綺麗でいらっしゃいます。近くでお仕えしていた、私が保証致します」

 俺がそう言うとレイラ様は顔を真っ赤にさせて、またしても「くっ」といいながら右手を自分の胸へと当てた。

「さ、流石、攻略対象ね……11歳でも言うことが違うわ……そしてイケメンの破壊力……」

「何言ってるんですか」

 俺達はそんな会話を交わしながら、馬車に揺られ帰途についた。



 ******************



 数日後


 レイラ様と俺は旦那様の書斎へと呼び出されていた。

「う、嘘でしょ?お、お父様今なんて……」

 レイラ様は顔を青くさせて旦那様に問いかけた。旦那様は愛娘であるレイラ様の問いかけに、大きくため息を漏らした。

「レイラ、落ち着いて聞いてくれ。先日ジェイコブ皇太子殿下との婚約が決まった。レイラ、お前はかわいい愛娘だ。だから私も抗いはしたのだが……なんせ国王陛下と王妃殿下のご意向だったからな」

「な、なぜ、ですの……私あんなに、嫌われようと頑張ったのに……」

「レイラ、この間のお茶会があっただろう?その時にジェイコブ殿下を諌めたそうだな?それを聞いた国王陛下が感銘を受けてだな……未来の王妃にはそれくらい芯がしっかりとしている令嬢があのバカ王子には必要だと強く希望されてな」

「バ、バカ王子……王妃殿下は止めなかったんですの?」

「あぁ、名高いグロブナー家のご令嬢であればうちの子にぴったりね!と呑気な事を仰っていたそうだ」

 旦那様は所々棘のある言い方で答えた。そしてレイラ様の瞳をじっと見据え口を開いた。

「レイラ、すまない」

「いいえ、お父様が謝るようなことではごさいませんわ。私なら大丈夫ですわ!」

 レイラ様はそう言って、ぎこちなく旦那様に笑い掛けた。
 話が終わると俺達は旦那様の書斎を後にして、レイラ様のお部屋へと戻ってきた。部屋へ戻るとレイラ様はすぐにベッドへダイブして、深いため息を漏らした。

「もぉ~~なんでなのよ~~。やっぱり強制力ってやつなのかしら」

 レイラ様は枕に顔をうずめたまま足をバタバタとさせた。

「お嬢様……」

 俺はレイラ様の落ち込んだお姿にいたたまれない気持ちになり、思わず声を掛けた。しかし、レイラ様は突然バッと顔を上げて俺の方へと視線を移した。

「ノア、平和的に婚約破棄よ」

「……はい?」

「だから!なんとしても平和的に婚約破棄するのよ!それしかないじゃない!学園入学までまだ時間があるわ!!それまでに殿下と話し合いで婚約破棄するのよ!あ、それか学園に入学してからヒロインと仲良くなればいいんだわ!それもいいわね。ヒロインと仲良くなれば、きっとギロチン回避くらいできるでしょ?そうと決まったらなんだか燃えてきたわ!!」

 レイラ様はそう言って何故か燃え始めた。心配だったが、なんだか元気を取り戻したようで俺は少し安心した。

「私も手伝わせて頂きます。お嬢様」

「ええ!勿論!よろしくね、ノア」

 そう言って笑い掛けるレイラ様の笑顔をみて、俺は絶対にあのバカ皇太子なんかに俺のお嬢様を渡してたまるもんかと改めて強く心に誓った。



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