俺のお嬢様はおとめげーむ?の『悪役令嬢』らしいです

杏音-an-

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第一章 俺とお嬢様

9 星の夜祭 ④

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「ちょっ、待ってくださいってば!」

 俺は走るレイラ様の跡を追いかけて、そのままレイラ様の手首を掴んだ。

「あ……ごめん」

「はぁ……もう1人で突っ走らないで下さいよ。またさっきみたいな輩に絡まれたらどうするんですか」

 俺は少しだけ息を切らしながら、レイラ様を諭した。すると、レイラ様は俺の顔を覗き込みじっと見つめてきた。

「……っ?どうかしましたか?」

 俺は見つめてくるレイラ様に、内心ドキドキとしつつも訊ねた。すると、レイラ様は少しだけぎこちなく俺に笑い掛けて「なんでもないわ、ごめんね。行きましょ」と言って足を進めた。

「……?」

 俺は腑に落ちないまま、レイラ様の隣へと移動して足を進めた。

(いやね、どうして私ったら……これから先もこうやってノアは私の隣にいてくれるって勝手に思っていたのかしら。まるで自分のモノみたいに……ノアは私の……悪役令嬢レイラの従者というだけなのに)

 レイラ様は隣で歩く俺を横目でちらりと見た。

「これじゃあ……まるで本当に悪役令嬢みたいね、私」

「は……?なんの話ですか?」

「んーん。なんでもなーい」

 俺が訊ねるとまたレイラ様はぎこちなく笑ってはぐらかした。

「……なんなんですか。頭でも打ちましたか?」

「ノア、ララに言いつけるわよ」

「すんません。それだけはご勘弁を」

 俺が即答すると、レイラ様はふふふっといつものように笑った。



 *****************



 ~~~♪~♪♪♪~~♪~♪~~~


 物凄い人だが、噴水近くへ行くと音楽隊が演奏をしている音色が聞こえてきた。

「あ、もうすぐじゃないですか」

「ええ……あ、ノア!あそこ!」

 レイラ様が指差す方へ視線を移すと、人混みの最前列で音楽隊の方をぽーと眺めているジェイコブ皇太子殿下の姿があった。平民の服を着て伊達メガネを掛け、帽子を深く被っていた。それにしても、あの殿下のぽーとした何とも言えない表情は何なんだ?

「よく見つけましたね……『ひろいん』はっと……もう少し前へ行きましょうか」

 俺はそう言って人混みを掻き分けるように進むと、演奏をする音楽隊と町娘の何人かが楽しげに踊っている姿が見えてきた。

「あ、あのピンクブロンドの子よ!」

 ……あの子か。

 確かに一際目立っているピンクブロンドの髪色に染まった女の子が、音楽に合わせて軽快に足を弾ませ踊っている。小柄で顔も小さくまん丸とした瞳の色もピンク色をしており、その愛らしい見た目に周りの少年達や大人までも魅了しているようだ。

「確かに……あれは可愛らしいですね」

「『平凡な女の子』設定だけどね。まあ、『乙女ゲーム』のお約束だわ」

「へぇ~」

 まあ、レイラ様の方が断然可愛いけどな。
 俺はシラーとした顔をしていると、レイラ様は何故かまたじっと俺の顔を見つめた。さっきからどうしたんだろうか。

「どうかなさいましたか」

「えっと、ノアは……その、どう?」

「は、どうとは?」

 何がどうって言うんですか。なんか、色んな言葉が足りないですよ、レイラ様。

「だから!その……ノアも殿下みたいにヒロインの可愛いさに一目惚れしちゃったのかなって……」

 レイラ様はそういって自分の両手の指をモジモジとさせた。

「……お嬢様、それって……」

 俺はボソッとそう言い掛けて、直ぐに右手で自分の口元を覆った。いや、きっとそんなはずはない、自惚れるな。俺は何度も自分にそう言い聞かせるが、「もしかして」という感情がどんどん俺の中で溢れ出てくる。

「ノ、ノア?」

 レイラ様は俺の名前を呼んで、不安そうにこちらの顔を覗き込んだ。いや……俺はまだこれを言う時じゃない。俺とレイラ様は主従関係なのだ。だけど__

 俺は少しだけ微笑んで、レイラ様に顔を近づけ小さく耳打ちをした。

が可愛いと思う主人は、貴方様だけですよ」

 まあ、これくらいは言ってもいいですよね?

 俺はそう言ってレイラ様から離れると、レイラ様は右手で自分の真っ赤に染まった耳を抑えて固まっていた。

「ノ……ノア……?え、それってどういう」

 レイラ様がそう言い掛けたところで、俺は少しだけ意地悪そうに微笑んだ。

「さぁ?どういう意味でしょうね」

 俺がそう答えるとレイラ様は顔を真っ赤にさせ、少し涙目になりながら両手で自分の頬を抑え口を開いた。

「も、もう!!なんなの!本当に貴方今年で12歳なの!?可笑しいわよ!こんなマセた12歳!転生者なんじゃないの!?」

「何言ってるんですか?あ、音楽隊の音楽が止まったみたいですよ?この後『ひろいん』が殿下と偶然出会うんですよね。はい、行きますよー。見守り隊、行きまーす」

 俺は「もー!」と真っ赤になった頬をぷくーっと膨らますレイラ様をなだめつつ、レイラ様の手をぎゅっと握ってその場を後にした。


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