36 / 97
36話 クロガネさん
しおりを挟む『アヤ……いい名前だな』
『ありがとうございます』
クロガネさんは腕を組み、しばらく俺をじっと見つめていた……ような気がした。
実際のところはゲームのキャラ同士が向き合っているだけなのに、妙に視線を感じるのが不思議だった。
『で、坊主、こんなところで何してんだ?』
『フレンドを作ろうと思って……』
『フレンド…………普通に適当に申請してその人と遊べばいいんじゃないか?』
『いや、せっかくならちゃんと話してからフレンドになりたくて……』
『ほう、中々に殊勝な心がけじゃねえか』
クロガネさんのキャラは煙草のようなものを指先で弄びながら、ふっと笑ったように見えた。
『……なら、試しに俺と組んでみるか?』
その言葉に、俺は思わず目を見開いた。
『えっ、いいんですか? 俺、まだ始めたばかりの初心者ですけど』
『だからこそだ、変な奴に騙されてこのゲームを楽しめないなんて事になったら可哀想だからな』
俺はクロガネさんの優しさに触れ、感動しながらもチャットを打ち込む。
『じゃあ……お願いします!』
『よし、決まりだな!』
クロガネさんがメニューを開き、俺にフレンド申請を送ってくる。
俺はすぐにそれを承認した。
クロガネさんからのフレンド申請を承認した瞬間、画面の端にフレンドリストにクロガネが追加されましたと表示された。
…………俺の人生初のフレンドだ。
『さて、坊主、まずは』
とクロガネさんがそこまで打ち込むと、一瞬チャットが止まる。
何かあったのかとクロガネさんの様子を伺っていると、やや経ってまたチャットが送られてきた。
『もうこんな時間か、俺はもう寝るから続きはまた今度やろうぜ』
『え、あ、はい』
バイトが終わってすぐにゲームを始めて数時間が経っていた。
時計を見て見てもまだ10時前だ。
『……ちょっと早くないですか?』
『いや、もう結構遅いと思うぞ?』
『いやいや、10時とかってまだ夕勤のバイトの人が退勤するくらいの時間ですって』
『…………夕勤?』
クロガネさんはその言葉になにか引っかかったのか少し間を置いてからチャットが送られてくる。
『えっと、坊主、お前何歳だ?』
『え、16ですけど』
『そうか、まぁ、育ち盛りなんだし、寝ておいた方がいいぞ』
『…………分かりました』
確かにもう少し遅い時間ではあるが、冬休みでもあるし、しかもお正月だしまだ全然起きててもいいと思うのだが…………。
いや、もしかしたらクロガネさんは朝早くから仕事がある人なのかもしれない。
その感じからして結構職人みたいな感じの人に感じるし、朝早くから仕事を始める職人さんなのかもしれない。
そういう人に対してはちょっとした憧れもあるので、俺はそれ以上は言わない事にした。
『分かりました、まだ遊びたいですけど、僕ももう寝る事にします』
俺はそのまま素直にチャットを打ち込む。
クロガネさんの言葉には確かに一理あった。
美容にもやはり睡眠というものはかなり大切な要素になってくるし、それに俺は明日もバイトがある、英気を養っておいた方がいいとも思う。
今日はゲームに没頭しすぎてエナジードリンクを飲んだりもしていないし10時でも少し眠気がある、これなら普通に眠れそうだ。
『じゃ、またな』
クロガネさんのキャラが画面で軽く手を振るエモートを使ってログアウトしていく。
俺もそのエモートを何とか真似て手を振り、ゲームを終了する。
アプリを閉じると何だか少し寂しい気持ちが湧いてきた。
ゲームというものがこれほどまでに楽しいなんて知らなかった。
敵を倒す爽快感、ストーリーを読み進めるワクワク感、そしてフレンドとの交流による温かさ、これか全てが俺にとって非常に魅力的なものに映る。
「はぁ、楽しかったな」
電気もつけずに没頭していたからか部屋は真っ暗になっていた。
俺はスマホの灯りを頼りに電気を付け、そのまま歯磨きなどを始める。
ご飯は…………明日でいいか。
別にそこまでお腹がすいている訳でもないし、間違えてもう歯を磨き始めてしまったので、ここから食べるのもなんだか面倒くさい。
歯を磨き終えて、ふと時計を見ると、やっぱりまだ10時だった。
冬休みだし、こんな時間に寝るのも少しもったいない気がするけど、クロガネさんの言う通り、寝ておくのも悪くないだろう。
「よし、今日は寝るか」
スマホを枕元に置き、ベッドに横たわる。
まだ少し頭の中にゲームの余韻が残っている。
「あぁ、明日もゲームやろうかな。」
俺は明日の事を考えて少しワクワクしていた。
寝返りをうって、布団にくるまる。
少し寒いけど、今は寝るにはちょうどいい温度だ。
布団の温もりを噛み締めながら、俺はゆっくりと目を閉じ…………。
ん? あれ、なんか忘れてる気が…………。
なんだか、とても楽しみだった何かが…………。
「あ、『ゲーマー』」
俺はすっかり忘れていた『ゲーマー』について思い出し、すぐさまもう一度部屋の電気をつけた。
53
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる