俺だけ使える1万円で超能力を買える怪しいサイトを見つけたら人生が変わった件

黒飛清兎

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36話 クロガネさん

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『アヤ……いい名前だな』
『ありがとうございます』

  クロガネさんは腕を組み、しばらく俺をじっと見つめていた……ような気がした。
  実際のところはゲームのキャラ同士が向き合っているだけなのに、妙に視線を感じるのが不思議だった。

『で、坊主、こんなところで何してんだ?』
『フレンドを作ろうと思って……』
『フレンド…………普通に適当に申請してその人と遊べばいいんじゃないか?』
『いや、せっかくならちゃんと話してからフレンドになりたくて……』
『ほう、中々に殊勝な心がけじゃねえか』

  クロガネさんのキャラは煙草のようなものを指先で弄びながら、ふっと笑ったように見えた。

『……なら、試しに俺と組んでみるか?』

  その言葉に、俺は思わず目を見開いた。

『えっ、いいんですか? 俺、まだ始めたばかりの初心者ですけど』
『だからこそだ、変な奴に騙されてこのゲームを楽しめないなんて事になったら可哀想だからな』

  俺はクロガネさんの優しさに触れ、感動しながらもチャットを打ち込む。

『じゃあ……お願いします!』
『よし、決まりだな!』

  クロガネさんがメニューを開き、俺にフレンド申請を送ってくる。
  俺はすぐにそれを承認した。
  クロガネさんからのフレンド申請を承認した瞬間、画面の端にフレンドリストにクロガネが追加されましたと表示された。

  …………俺の人生初のフレンドだ。

『さて、坊主、まずは』

 とクロガネさんがそこまで打ち込むと、一瞬チャットが止まる。
  何かあったのかとクロガネさんの様子を伺っていると、やや経ってまたチャットが送られてきた。

『もうこんな時間か、俺はもう寝るから続きはまた今度やろうぜ』
『え、あ、はい』

  バイトが終わってすぐにゲームを始めて数時間が経っていた。
  時計を見て見てもまだ10時前だ。

『……ちょっと早くないですか?』
『いや、もう結構遅いと思うぞ?』
『いやいや、10時とかってまだ夕勤のバイトの人が退勤するくらいの時間ですって』
『…………夕勤?』

  クロガネさんはその言葉になにか引っかかったのか少し間を置いてからチャットが送られてくる。

『えっと、坊主、お前何歳だ?』
『え、16ですけど』
『そうか、まぁ、育ち盛りなんだし、寝ておいた方がいいぞ』
『…………分かりました』

  確かにもう少し遅い時間ではあるが、冬休みでもあるし、しかもお正月だしまだ全然起きててもいいと思うのだが…………。
  いや、もしかしたらクロガネさんは朝早くから仕事がある人なのかもしれない。
  その感じからして結構職人みたいな感じの人に感じるし、朝早くから仕事を始める職人さんなのかもしれない。

  そういう人に対してはちょっとした憧れもあるので、俺はそれ以上は言わない事にした。

『分かりました、まだ遊びたいですけど、僕ももう寝る事にします』

  俺はそのまま素直にチャットを打ち込む。
  クロガネさんの言葉には確かに一理あった。
  美容にもやはり睡眠というものはかなり大切な要素になってくるし、それに俺は明日もバイトがある、英気を養っておいた方がいいとも思う。
  今日はゲームに没頭しすぎてエナジードリンクを飲んだりもしていないし10時でも少し眠気がある、これなら普通に眠れそうだ。

『じゃ、またな』

  クロガネさんのキャラが画面で軽く手を振るエモートを使ってログアウトしていく。
  俺もそのエモートを何とか真似て手を振り、ゲームを終了する。

  アプリを閉じると何だか少し寂しい気持ちが湧いてきた。
  ゲームというものがこれほどまでに楽しいなんて知らなかった。
  敵を倒す爽快感、ストーリーを読み進めるワクワク感、そしてフレンドとの交流による温かさ、これか全てが俺にとって非常に魅力的なものに映る。

「はぁ、楽しかったな」

 電気もつけずに没頭していたからか部屋は真っ暗になっていた。
  俺はスマホの灯りを頼りに電気を付け、そのまま歯磨きなどを始める。
  ご飯は…………明日でいいか。
  別にそこまでお腹がすいている訳でもないし、間違えてもう歯を磨き始めてしまったので、ここから食べるのもなんだか面倒くさい。

  歯を磨き終えて、ふと時計を見ると、やっぱりまだ10時だった。
  冬休みだし、こんな時間に寝るのも少しもったいない気がするけど、クロガネさんの言う通り、寝ておくのも悪くないだろう。

「よし、今日は寝るか」

  スマホを枕元に置き、ベッドに横たわる。
  まだ少し頭の中にゲームの余韻が残っている。

「あぁ、明日もゲームやろうかな。」

  俺は明日の事を考えて少しワクワクしていた。
  寝返りをうって、布団にくるまる。
  少し寒いけど、今は寝るにはちょうどいい温度だ。 
  布団の温もりを噛み締めながら、俺はゆっくりと目を閉じ…………。

  ん? あれ、なんか忘れてる気が…………。
  なんだか、とても楽しみだった何かが…………。

「あ、『ゲーマー』」

  俺はすっかり忘れていた『ゲーマー』について思い出し、すぐさまもう一度部屋の電気をつけた。
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