8 / 51
8話 お薬屋さん
しおりを挟む僕はね、お薬屋さんなんだ!
この言葉は俺の中でのリリンの重要度を著しく上昇させた。
薬屋さん、つまりそれは俺が探し求めている薬の1歩手前の存在だ。
もしかしたら俺が欲しい薬を作ってくれるかもしれない。
まぁ、現状では意志を伝える手段がないため、何が欲しいかなどは伝えられないが、なんとかすれば手に入るかもしれないというのはでかい。
リリンを助けるという事の重要性が一気に高まった。
「じゃー、ちょっと待っててね!」
そう言ってリリンは薬草達に水のようなものをかけたり少しだけ摘み取ったりしている。
そして摘み取った薬草を慣れた手つきで水に浸したりすり潰したりして手際よく薬を作っていく。
やや経って、リリンの前には何個もの薬の入った瓶が出来上がっていた。
「ふぅー、疲れたぁ」
そう言ってリリンは汗を拭った。
かなりの集中力を使っているように見えたし、ヘトヘトになっても仕方が無いだろう。
しかし、リリンはほんの少し休み、すぐさま次の作業に移り出した。
リリンはさっき作った薬を天井に空いている小さな穴から外へとコロコロと転がし、移動させた。
「よぉし、じゃあ行くよー!」
リリンは僕の手を引いて外へと出ていく。
そして、さっき薬を外に出した所へと昔、その薬をカバンの中に詰めていく。
「これを今から売りに行くんだけどね、売れるのがちょっと遠い場所なんだよねー」
「あぅあ…………」
そうか、だから昨日もあんなに遅くに帰ってきていたのか。
…………あれ、というかそれならずっとこんな所に住んでいる理由も無くないか?
ここの薬草を使っているからという理由も考えられるが、それでいい生活ができていない以上そんな事を続ける必要も無いように思える。
……何かあるんだろうな。
ただ、俺には何があったのかを聞く能力は無い。
気になるがこれ以上はどうしようもないだろう。
俺がそう思いながら悶々としていると、リリンは何か思い立ったように、少し恥ずかしがりながら俺に話しかけてきた。
「…………ねぇ、眠り姫、よかったら、さ、ついてきてくれないかな? ずっと一人だったから寂しくて…………」
「…………あぅ!」
俺は肯定した。
もちろんリリンについて行くに決まって居るじゃないか。
そうすると、リリンは嬉しそうに笑い、しっかりと僕の手を握り直した。
「やったぁ! じゃあ、一緒に行こ!」
「あう!」
「あ、けど、何かちゃんとした服が欲しいよね、ちょっとボロボロだし………」
「あう?」
あぁ、確かにそうだな。
この前鏡を見た時にはそこまで考えていなかったが、よくよく考えてみればやせ細った肢体が見えている時点でかなりボロボロなのだろう。
この世にはこういったやせ細った幼女を好き好む変態もいる訳だし、危険回避のためにもこの体は見えないようにした方がいい。
そう思っていると、リリンが家の奥から何やらローブのようなものを持ってきた。
「はい! これ着て! ここにあったものだから大人用だけど…………」
「あぅあぅー」
助かった。
俺はそのローブを上からすっぽりと被る。
かなり大きいが着れないこともない。
「おー! 似合ってる、可愛い!」
「あぅ?」
そんなにだろうか?
昔からオシャレというものには疎かったからよく分からない…………。
そんなこんなで準備が終わり、リリンは軽やかに歩き出す。
俺もついていこうとするが、やはり体がまだ完全に自由に動かせるわけではない。
しかし、ぎこちない動きになってしまうが、それでもリリンの隣を歩くことができた。
おそらく、リリンは大きなカバンを背負い、時々僕の方を気にしながら歩いてくれているからだろう。
「ねぇ、眠り姫……歩くの、大丈夫?」
「あぅ……」
少しだけ心配そうな表情を見せたリリンだったが、僕が頷くと安心したように微笑んだ。
惚れてしまいそうだ。
しばらく歩くと、森を抜けて少し開けた場所に出た。
時間的には3、4時間ほど歩いたところだ。
遠くに見えるのは少し大きめの街のようだ。
リリンはその方向を指さしながら言う。
「あそこにあるのが、私がいつも薬を売りに行ってる村だよ!」
街の家々からは煙が上がり、のんびりとした雰囲気が漂っている。
けれどリリンはそれとは対称的にどこか不安そうな顔をしていた。
「…………実はね、この村、薬を売るのがちょっと大変なんだ。みんな、私のことをあんまりよく思ってなくて……」
「…………あぅ?」
どうしてだろう、と思うが、リリンはそれ以上は語らなかった。
「でもね、ちゃんと薬を売らないと生活できないし……だから、今日も頑張るよ!」
リリンはそう言って、気合を入れるように自分の頬を軽く叩いた。
そして、僕の方を向いて少し照れくさそうに言う。
「眠り姫が一緒にいてくれるだけで、すっごく心強いよ!」
…………いい子だ。
なんでこんないい子がこんな生活をしているのか、疑問でならない。
というかおおよそ子供がしていい生活では無いだろう。
…………その答えは、街に入ると否が応でも知ることになってしまった。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
追放された俺の木工スキルが実は最強だった件 ~森で拾ったエルフ姉妹のために、今日も快適な家具を作ります~
☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺は、異世界の伯爵家の三男・ルークとして生を受けた。
しかし、五歳で授かったスキルは「創造(木工)」。戦闘にも魔法にも役立たない外れスキルだと蔑まれ、俺はあっさりと家を追い出されてしまう。
前世でDIYが趣味だった俺にとっては、むしろ願ってもない展開だ。
貴族のしがらみから解放され、自由な職人ライフを送ろうと決意した矢先、大森林の中で衰弱しきった幼いエルフの姉妹を発見し、保護することに。
言葉もおぼつかない二人、リリアとルナのために、俺はスキルを駆使して一夜で快適なログハウスを建て、温かいベッドと楽しいおもちゃを作り与える。
これは、不遇スキルとされた木工技術で最強の職人になった俺が、可愛すぎる義理の娘たちとのんびり暮らす、ほのぼの異世界ライフ。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い
夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。
故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。
一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。
「もう遅い」と。
これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!
魔法が使えない落ちこぼれ貴族の三男は、天才錬金術師のたまごでした
茜カナコ
ファンタジー
魔法使いよりも錬金術士の方が少ない世界。
貴族は生まれつき魔力を持っていることが多いが錬金術を使えるものは、ほとんどいない。
母も魔力が弱く、父から「できそこないの妻」と馬鹿にされ、こき使われている。
バレット男爵家の三男として生まれた僕は、魔力がなく、家でおちこぼれとしてぞんざいに扱われている。
しかし、僕には錬金術の才能があることに気づき、この家を出ると決めた。
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる