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愛と絶望の果てに
その27
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謙一が空を見ている間に先に進んでいた古河と戸波が戻ってきて、声をかけてくる。それに戸惑いながら、
「いや、さっきまでそこにいた筈の亜希子がいなくなって――」
「なにっ!?」
その言葉に、古河の言葉から余裕が消える。戸波も顔を真っ青にして、口を両手で押さえる。それに謙一も、危機感が現実味を帯びてきた。
「…………くっ!」
三人、一斉に駆け出す。今のほんの一瞬のことだ。そんなに遠くには行っていない筈。辺りに目を走らせる。きっと、見つけられるはず――
グラウンドに、人影。
「!? いたぞ古河、戸波!」
呼びかけ、駆け出す。グラウンド! その存在を失念していた。野外でかつ開けた場所。そんな場所にまさかいるわけないとたかを括っていたのかもしれない――
金網に張り付く。それに古河、戸波も続く。
グラウンドでは、宴が繰り広げられていた。
「な……」「……おいおい」「そんな……」
謙一、古河、戸波がそれぞれ声を漏らす。それは現実のものとは思えない、異常な光景だった。
グラウンド全体が、赤々と照らされている。時刻は既に、夜だ。これは別にナイトゲーム用の証明設備が使われているわけではない。
グラウンドを円周上に、煌々と炎が炊かれているのだ。
まるで原住民の、狩りの儀式。その炎に沿って、無数のゾンビが踊り狂っている。吐き気がするような光景。そしてその中心に――
「亜希子っ!」
亜希子が、全身簀巻き状に縛られ、三人のゾンビに抱え挙げられていた。
あれではまるで、宴の生贄だ。
「魔女が捕まって、どうする……!」
古河が呻き、額を押さえる。
「くそっ!」
謙一も同じように、金網に額を叩きつけた。突入は出来ない。ざっと見ただけでも、ゾンビの数は百や二百ではきかない……それを見ただけで身体にはどうしようもないほどの悪寒と恐怖が走り、それによる震えと金縛りの様な状態が起きていた。
亜希子はゾンビの群れの真ん中を運ばれていく。まるでモーゼのようにそこだけ開かれ、そしてグラウンドの中心には祭壇が出来ていた。いつも校長が訓話を述べる朝礼台――の上に、遊月が立っていた。
その瞳が、こちらを向く。
――バレている。
「た……助け、なきゃ……!」
自分を奮い立たせる。戦えるのなら、なんでもいい。左手を見る。あの時の感覚を、思い起こす。
――殺せ。
「待て」
駆け出そうとした肩を、古河に止められる。
「た、助けなきゃ……!」
「あの数を見ろ。お前一人行っても、殺されるだけだ」
「――し、しかし…………!」
理屈ではわかる。だけど、ここで行かなきゃ。このまま亜希子を見捨てたら、その時こそ、自分は……
キッ、とブレーキがかかる音が聞こえた。
『?』
それに謙一と古河、それに戸波も振り返る。校門外の、道路。そこに、一台の黒塗りのバンが停まっていた。そこから、二人の黒ずくめの男が現れる。黒のスーツに、目にはサングラスまでかけた怪しげな二人組。そして手にはリモコンのような機械を持っている。彼らはグラウンドの方を見て、
「おーおー、派手にやってやがる。測定器いらねーな、これは」
「あまり喜ぶな、北村。これは由々しき事態であって、喜々としてよい場面ではないのだからな」
「……あんたたち、誰だ?」
それに謙一は眉をひそめ、声をかけた。男二人は謙一に気づき、
「っと。これはこれは生き残りがいたようだな。歓迎するよ」
なんて仰々しく両手を広げ、白手袋をつけた左手を胸に当て、右手を背中に回して一礼し、
「私は、ゾンビ-北村。そしてここの彼はドクター三島だ。以後、ヨロシク」
するとドクター三島と紹介されたもう一人の男は額を押さえ、
「……すまんね。北村は大仰な動作が好きでな」
『…………』
謙一、古河、戸波は警戒した目でそれを見つめていた。礼の状態で固まっていた北村は頭を上げ、三島は押さえていた手をどかし、
「さて、事態は急を要するね。とりあえず、君たちは……」
「その前に、あんたたち、なにもん?」
古河がやや不機嫌そうに尋ねた。腕組みして、怪訝そうな顔つきだ。それに三島は今気づいたように、
「あぁ、そうだね。とつぜん現れて場を仕切れば、そういう反応も納得だね。そう、私たちは――」
「三島脳科学研所の、妖症候群(あやかし しょうこうぐん)対策本部、実行部隊だ」
北村は言葉と同時に、愉しげに口元を吊り上げた。それに戸波が、
「妖症候群、ですか……?」
三島はそれに答えるように、
「聞いたことはないかね? あまり、一般的ではないからな。妖症候群とはね……この世の軋轢から、滲み出した存在をいうんだよ」
謙一はその言葉に、身を乗り出す。
「この世の軋轢って……どういう意味だよ?」
「説明しているタイミングではないな」
「いや、さっきまでそこにいた筈の亜希子がいなくなって――」
「なにっ!?」
その言葉に、古河の言葉から余裕が消える。戸波も顔を真っ青にして、口を両手で押さえる。それに謙一も、危機感が現実味を帯びてきた。
「…………くっ!」
三人、一斉に駆け出す。今のほんの一瞬のことだ。そんなに遠くには行っていない筈。辺りに目を走らせる。きっと、見つけられるはず――
グラウンドに、人影。
「!? いたぞ古河、戸波!」
呼びかけ、駆け出す。グラウンド! その存在を失念していた。野外でかつ開けた場所。そんな場所にまさかいるわけないとたかを括っていたのかもしれない――
金網に張り付く。それに古河、戸波も続く。
グラウンドでは、宴が繰り広げられていた。
「な……」「……おいおい」「そんな……」
謙一、古河、戸波がそれぞれ声を漏らす。それは現実のものとは思えない、異常な光景だった。
グラウンド全体が、赤々と照らされている。時刻は既に、夜だ。これは別にナイトゲーム用の証明設備が使われているわけではない。
グラウンドを円周上に、煌々と炎が炊かれているのだ。
まるで原住民の、狩りの儀式。その炎に沿って、無数のゾンビが踊り狂っている。吐き気がするような光景。そしてその中心に――
「亜希子っ!」
亜希子が、全身簀巻き状に縛られ、三人のゾンビに抱え挙げられていた。
あれではまるで、宴の生贄だ。
「魔女が捕まって、どうする……!」
古河が呻き、額を押さえる。
「くそっ!」
謙一も同じように、金網に額を叩きつけた。突入は出来ない。ざっと見ただけでも、ゾンビの数は百や二百ではきかない……それを見ただけで身体にはどうしようもないほどの悪寒と恐怖が走り、それによる震えと金縛りの様な状態が起きていた。
亜希子はゾンビの群れの真ん中を運ばれていく。まるでモーゼのようにそこだけ開かれ、そしてグラウンドの中心には祭壇が出来ていた。いつも校長が訓話を述べる朝礼台――の上に、遊月が立っていた。
その瞳が、こちらを向く。
――バレている。
「た……助け、なきゃ……!」
自分を奮い立たせる。戦えるのなら、なんでもいい。左手を見る。あの時の感覚を、思い起こす。
――殺せ。
「待て」
駆け出そうとした肩を、古河に止められる。
「た、助けなきゃ……!」
「あの数を見ろ。お前一人行っても、殺されるだけだ」
「――し、しかし…………!」
理屈ではわかる。だけど、ここで行かなきゃ。このまま亜希子を見捨てたら、その時こそ、自分は……
キッ、とブレーキがかかる音が聞こえた。
『?』
それに謙一と古河、それに戸波も振り返る。校門外の、道路。そこに、一台の黒塗りのバンが停まっていた。そこから、二人の黒ずくめの男が現れる。黒のスーツに、目にはサングラスまでかけた怪しげな二人組。そして手にはリモコンのような機械を持っている。彼らはグラウンドの方を見て、
「おーおー、派手にやってやがる。測定器いらねーな、これは」
「あまり喜ぶな、北村。これは由々しき事態であって、喜々としてよい場面ではないのだからな」
「……あんたたち、誰だ?」
それに謙一は眉をひそめ、声をかけた。男二人は謙一に気づき、
「っと。これはこれは生き残りがいたようだな。歓迎するよ」
なんて仰々しく両手を広げ、白手袋をつけた左手を胸に当て、右手を背中に回して一礼し、
「私は、ゾンビ-北村。そしてここの彼はドクター三島だ。以後、ヨロシク」
するとドクター三島と紹介されたもう一人の男は額を押さえ、
「……すまんね。北村は大仰な動作が好きでな」
『…………』
謙一、古河、戸波は警戒した目でそれを見つめていた。礼の状態で固まっていた北村は頭を上げ、三島は押さえていた手をどかし、
「さて、事態は急を要するね。とりあえず、君たちは……」
「その前に、あんたたち、なにもん?」
古河がやや不機嫌そうに尋ねた。腕組みして、怪訝そうな顔つきだ。それに三島は今気づいたように、
「あぁ、そうだね。とつぜん現れて場を仕切れば、そういう反応も納得だね。そう、私たちは――」
「三島脳科学研所の、妖症候群(あやかし しょうこうぐん)対策本部、実行部隊だ」
北村は言葉と同時に、愉しげに口元を吊り上げた。それに戸波が、
「妖症候群、ですか……?」
三島はそれに答えるように、
「聞いたことはないかね? あまり、一般的ではないからな。妖症候群とはね……この世の軋轢から、滲み出した存在をいうんだよ」
謙一はその言葉に、身を乗り出す。
「この世の軋轢って……どういう意味だよ?」
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