Eclipse/月蝕症候群

ひろい

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遊月怜華

その39

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 病室、という言い方が引っかかった。いや、しっくりきた、という言い方が正しいのかもしれない。それを、手渡された。なぜ部外者の自分に見せるのかわからなかった。ただ両親のその悲痛というか――なんとも形容のしようのないような複雑な表情に、何も聞けなかった。しかし中身を見たとき、すべての理由を察した。
 持ってきたそれに、再び目を通す。
 死ぬ直前の遊月を思い出す。好きだと言った。キスをした。わたしだけを、見てと言った。謙一はずっと、その意味を考えていた。
 日記の書き出しは、こう始まっていた。
『生きることは、辛いなァ』
 その遊月らしい言葉遣いに、どきりとした。続きに目を走らせる。Eclipseに至る原因を突き止めたいという気持ちもあったし――遊月怜華という女の子そのものにも、興味が湧いていた。
『今日も痛みを堪えて、生きる。歩くことも止まることも、座ることも横になることまで、全部痛い。だから寝ていろと言われても、困る。寝ること=休むという構図は、ワタシには当てはまらない。なんで生きなくちゃいけないの? 他のひとはいいかもしれない。だけどワタシにとって生きるっていうのは、ただの拷問に近い。痛みに堪えて、頑張らなくては生きることが出来ない。なんで頑張らなくちゃ生きていけないのか。なんで生きていかなきゃいけないのか。
 ワタシにとっては、死んだ方が楽でマシなんじゃないかとずっと思えていた。
 だから、学校に行った。家になんていても、意味が無い。みんなワタシのことを本当に考えてなんかいない。みんな、面倒な子くらいにしか思っていないのだ。知ってる。見てたらわかる。そのくせ人の行動を制限するのはやめて欲しかった。放っておいてくれる方が、よっぽどマシだった。
 学校では、みんなワタシを腫れ物をみるような目で見てた。余計なお世話だった。だけど誰も干渉してこない。そこだけはホッとした。だから、関係なかった。先生にいって許可貰ってるんだからモッズパーカーを着てたってこっちの勝手だろ。ある時不躾なやつ。委員長に、理由を聞かれた。だから答えた。好きだから。病弱とかいう言葉がワタシは嫌いだった。病強なやつがいたっていいじゃんか。かなり大きめだと、結構萌えだったり?
 ニャハハハハ。
 そんな時、謙一くんを見つけた。ワタシと同じように、独りぼっちの男の子。だけどワタシと違って望んでじゃなく、仕方なく。その在り方に、ワタシは惹かれた。思うようにならない現実。苦しいよね。ワタシだけはわかると思ってた。共有。それみよがしに目の前で投身自殺なんてしたら、目を剥いていた。かわいい。いつか一緒に空を眺めたいと思った。その時だけは痛い体も、ほんの少しは忘れられるかもと想像してみた。
 なのに、笠井千夏がそれを壊してしまった。
 あったまきた。謙一くんがどんどん溶け込んでいってしまう。どんどん普通になっていってしまう。いやだった。いいじゃん? 普通のやつなんて世界中に掃いて捨てるほどいるんだから。キミくらいは、ワタシと一緒に苦しんでよ? キミの痛みをわかるのは、ワタシだけなんだよ? ワタシと一緒に、苦しんでよ。
 苦しんでよ!』
「……俺、気持ち、わからなくもない」
 謙一はそこまで読んで、顔を上げた。それは周りの二人に対しての言葉だったが、同時に遊月本人に語りかけるような言葉でもあった。
「確かに俺、痛かったから。みんなに受けれられなくて、きつかったから。だから同じやつを求めるって気持ち、わからなくない。……俺には千夏がいたのに、遊月には誰もいなかったんだな」
 視線を下ろす。ノートはもう二、三ページ、続いていた。短い日記。毎日が痛みで蹂躙され、書くこともなかったのかもしれない。
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