Eclipse/月蝕症候群

ひろい

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脅威、狂気、恐怖

その7

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 三島はその案件について、北村と話し合っていた。
「――黒い月、か。それはステア司るEclipseの症例と見て、間違いはないかね?」
 三島脳科学研究所第三別棟地下二階第四会議室。
 その場所は、所長ドクター三島と筆頭研究員ゾンビー北村の定例会議所になっていた。別段取り決めがあるわけでもなく、互いの研究の最中なんらかの気になる案件が舞い降りてきた際に連絡を取り、ここで話を進めるという段取りになっていた。
 三島脳科学研究所組織員の中心人物、北村誠司と三島邦夫。その中でも北村は外見変化系を専門に扱い、そのひとつに感染。それにより畏敬と奇異の意味を込め、ゾンビー北村と呼ばれていた。
 暗い室内。白衣の北村とは対照的に、三島は漆黒のスーツで身を包んでいた。
「それはそうだろうな、三島よ。しかしこれだけ広範囲に影響を及ぼす霊障とはな……よほどの高位な神なのか」
 硬い三島のそれとは対照的に、北村の口調は軽やかだ。嬉々とした様子すらある。しかしそれは三島も同様で、ただ彼の場合はそれを表に出さないだけだった。
「だろうね。だが、これは極めて珍しいケースといえる。それだけの力を持っていれば、こちら側への干渉は控えるのが通例だからね。これはなにか――裏があると見て、構わないだろう」
「裏、か」
 呟き、北村は天を仰ぐ。そこにあったのは、天窓。そしてそこから望める、黒い月。
「今宵、誰かが混ざり、戯れているのだろうか――」



 保健室をどうするかが、一番悩んだ。
 墓を作ることも考えたが、体が拒否した。これ以上多賀谷たちの死体と一緒にいることは、出来なかった。これだったら苦手なゴキブリの大群に囲まれた方が、よほどマシだった。仕方なく祈りだけ捧げ、あとにした。
「亜希子……古河……」
 小声で呟き、謙一は廊下を歩き続けた。大きな声を出せば、見つかってしまいそうで。目線を左右に振り警戒しつつ二人を探しながら、一路裏門を目指した。とにかくこの狂った牢獄から、抜け出したかった。
 曲がり角に、差し掛かった。
「…………」
 手前の柱に、張りつく。どくん、どくんと胸が脈打つ。この時が、一番緊張する。壁を越えたら、何かに飛び掛かられそうで。またあの化け物に、遭遇しそうで。そしてあの保健室の六人と、同じになりそうで。
 片目を、覗かせた。
 ――誰も、いない。
 それを確認して、体を滑り込ませる。一気に視界が開ける。向こう側まで、廊下が続いている。やはり無人。安堵と共に、不安もぶり返してくる。
 ――どこに向かえばいいのか?
 さらに一歩、一歩、と歩みを進めながら、謙一は考える。現在歩いている場所は、西校舎二階。その、校門から見て奥から二番目の2-B教室前にあたる。
 裏門に出るには、このまま階段を降りていけばいい。だが、裏門にも教師がいた。この選択が正しいのかどうか、確信はない。だが、いずれにせよ階を下げることは必要だと思われた。袋小路に向かう必要はまったくない。視線を下げ、携帯の待受画面を見る。
 現在、午前八時五十二分。
 すぐに視線を周辺へ。警戒は怠らない。そのまま再び、思考。今できることは、それくらいしかない。学校に着いてから、既に一時間近く経過している。保健室から出て二十分ぐらいか。そのあいだ、金田や保健室の死体以外とは誰とも会っていない。この調子なら、もっと素早く動いていいかとも思うが、いわゆる理屈と感情は裏腹――

 教室に、誰かいる。

「!」
 どっごん、と心臓が鳴った。体中の鳥肌が、一斉に立ち上がる。左側にある、2-C窓際最後尾の席。そこに、蠢く影を見たのだ。
 そこに誰がいるのか、謙一は知っていた。
「…………」
 恐怖でひりつく喉を、痺れる体を制して唾を飲み込みながら、首を後ろに回した。
 机の陰から、丸い服らしきものが盛り上がり、その先に髪が垂れ下がっている。ちょうど人間が、机の足元で背中を丸めて四つん這いになっているような姿勢だ。消しゴムでも落として、しゃがんで探しているような――その、こちらに向けている背中には、暗緑色の何かが掛かっていた。
 ――自殺未遂暦17回の二年生がいる。
 その噂は、謙一たちが二年生にあがって僅か二、三週間もたたないうちに、学年中に広まっていた。その名前までもが特定され、あっという間にみなの周知の下となった。
 遊月怜華(ゆづき れいか)。
 なんとも雅で美しく趣きのある名前を持つその女子生徒は、不登校などではなく普通に教室で授業を受けていた。そして一時期遊月怜華の所属する2-Cには、見物客が群れをなしていた。かくいう謙一も一度、友人である古河に連れられて見に行ったことがあった。
 遊月怜華は窓際一番後ろの席で、頬杖をついてグラウンドを見ていた。
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