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伝説の終焉

Ⅳ:死闘

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『!?』
 それに一斉に、パーティーは散開する。先ほども猛威を振るったあの溶岩流のようなブレスの恐怖は、未だ終わっていなかった。四人はバラけながら、次の行動を考える。
 やはり最初に突っかけたのは、エリューだった。
「――らァ!」
 飛んだ先にある柱を着地と同時に蹴り、ヘルフィアの元へと一気に間合いを詰め、破邪の魔力を纏ったバスタードソードを上段に構え、それを――
 ヘルフィアの左手の人さし指が、眩く光る。
「――がっ!?」
 前屈みに突っ込んでいたエリューは、突然その場に後方に、一回転した。それに三人の仲間は、目を見張る。
 その左肩に穴が開き、そこからおびただしい出血が起こっていた。
「……チィ! βの圧縮魔力閃か」
 舌うち一つ、クッタは4メートルの距離を二歩でエリューに駆け寄り、その傷口を診る。骨は外れていたが完全に貫通しているそこに、右手を翳して補助魔法をかける。
【tira ek sola suta tanbina de sona fui kim(語りかけるは、その身の安寧。我は問う。代償に差し出せし、痛みの還元を)】
 安心する、聞きなれしその言葉の羅列。エリューの傷はその表面が蒸発するように、出血を止めた。
 ヘルフィアの、左足の鉤爪が踏み出され――次の瞬間クッタの背後を、取る。
「! やろっ!」
 振り返りざま、聖剣ルミナスを叩きつける。それはヘルフィアの青い左腕に、防がれた。そして逆の手の竜の首から、ブレスが――
【omita biar(流槍群)】
 天から降り注ぐ49の光の槍が、ヘリフィアに襲いかかる。
「ぐるぅ……」
 それをヘルフィアは、一歩左足の鉤爪を引き――その場から後方五メートルの場所に転移して、躱す。
 同時それを放ったオルビナと、マダスカが駆け寄ってくる。マダスカはエリューを診るのもそこそこに間合いを開けたヘルフィアを睨み、
「空間転移……以前戦った魔族エミルネルと、同種か?」
「……いや、違う」
 その言葉を、傷が少し癒えたエリューが否定した。それにオルビナは肩を貸し、
「エミルネルは、魔族として備わった能力として空間転移を行っていた……だから、足が無かった。だがこれは、発端のスペルⅢ、γ(ガンマ)の転移魔法だ。だから足も存在し、そして――」
 言葉に続くように、ヘルフィアが左手を横に突きだす。
 その肘から先が――消えていた。
「ぐ、っ……!」
 脇から、悲鳴。しまった。エリューは自分を抱えているオルビナを見ると――その左足から、激しい出血が起きていた。
 その――"何もない空間"から、青い手刀が突き出されていた。
「オルビナさん! ……やろう!」
 クッタが気づき、聖剣を一閃させる。しかし手刀は何もない空間へと引っ込み、消えてしまった。視線を転じれば、それはヘルフィアのあるべき左手の位置へと。
「……なるほど、厄介だな」
 口調は冷静だったが、マダスカの表情と声は重かった。めいっぱい、怒ってる。それも当然だった。みんなを引っ張り育ててくれた優しい師、オルビナをやられれば――パーティーの誰だって、怒りに震える。
 クッタが聖剣ルミナスを構え、
「……元々猶予なんてなかったわけだが、さらにまったく無くなったわけか」
 マダスカもバストラルスタッフを構え、
「……聞かせて、エリュー。あとわたしたちが知らないα、θ(シータ)の特性を」
 エリューもバスタードソードに破邪の魔力を顕現させ、
「αは、どれより巨大な質量を持つ圧倒的パワーを持った魔族だった。θは、あらゆる種類の魔法を操っていた。対策は――」
 そしてヘルフィアの右手が正面に、突き出される。
 フレア・ブレス。
「すべてを同時にだなんて――わからねぇよ!」
 再び、散開。しかし同時にエリューの腹を、強烈な圧力が襲っていた。

 戦いは、死闘の様相を帯びてきていた。
「ぐ……くそったれがァ!」
 クッタが叫び、3メートル離れたヘルフィアに一歩で近づき、そのまま横薙ぎの一撃を加える――が、同時にヘルフィアはクッタの後方に回り込み、その背に右足の蹄による一撃を、加えようとする。
「? てめぇ!」
 反転し、クッタはその一撃をすんでのところ聖剣の豪奢複雑な護拳で、受け止める。
 が、そのままぶっ飛ばされ――6,7メートルは離れた場所にある壁の残骸に、激突する。
「か……て、め……!」
 慌てて着地しようとして、膝をついた。既にアバラの何本かはイってるだろうか? こんなデタラメな攻撃、無傷で防げというのが無茶な話だった。
 さらにその青い指先が、こちらの左胸――心臓を、マークする。やべぇ、あれを喰らったら――
「……らアアア!」
 しかしそれを防ぐように、ヘルフィアの真上からエリューが急襲する。クッタとの戦いのさなか、密かに位置取りしていたのだろう。攻撃態勢に入ったヘルフィアに、それを避ける手段は――
【rebel salt(完壁(かんへき))】
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