《完結》運命の人と気づかずに通り過ぎる人もいれば、すぐに気づく人もいる。でも大概は後で気づく。

ぜらちん黒糖

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第一章

⑧姉の気持ち

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鮎の塩焼きを箸で上手にほぐしながら食べている二人。

「美味いなこれ」

「そうですね、美味しいです」

龍蔵がちらりと襖に目をやり仲居の気配がないのを確認すると陽子に尋ねた。

「それで?誰なんだ?その邪魔をした人間は!」

陽子は氷が溶けた酎ハイを飲んで口を開く。

「あなたのお父様です」

一瞬頭が真っ白になる龍蔵。そして声を出す。

「はあああ?」

「あら……かなり驚いたご様子で」

「当たり前だ。親父がそんなことをするはずがない。親父は知っていたんだぞ?俺が翔子のことが大好きだって」

龍蔵のそのセリフを寂しそうに聞く陽子。

「姉はその頃、会社に行くのを嫌がらなくなっていました。なぜだと思いますか?」

龍蔵は恐る恐る答える。

「まさかとは思うが……俺のことが……嫌いじゃなくなったとか?」

「そうです。なのに、あなたは突然配置換えになった。こんなことができるのは山田源蔵、あなたのお父上しかいません」

頭を抱え下を向く龍蔵に陽子が言葉を続ける。

「姉がなんとなく元気がなくなり、『どうしたの?』って聞いたら……『山田君が移動になって……専務になっちゃった』って、しょんぼりしていたわ」

(あー、そうだった。俺は翔子に嫌われていると思っていたから……親父に頼んで異動願いを直接渡したんだっけ……)

「それからあなたと姉は一緒に組んで仕事をすることはなくなった」

「それでもあなたは時々姉を食事に誘っていたでしょ?」

「ああ」

「さっきも言ったけど、お姉ちゃん、あなたからの誘いを時々受けるようになっていたでしょう?」

「うん…」

「失礼いたします」

襖がゆっくりと開いて仲居がテーブルの食器が空かどうか確認する前に龍蔵の顔を見た。

「梅酒、お持ちしました」

仲居はにこやかにテーブルに梅酒をい置いてさっと退いていった。

鮎の塩焼きを食べ終えて、梅酒を飲んでいる龍蔵と陽子。

陽子が口を開く。

「お姉ちゃんはその頃から八木さんと龍蔵さんとの間で揺れ動いていたんです……」

(俺と八木の間で翔子が揺れ動いていた?まさか……)

「お姉ちゃんもね、はっきりしないからいけないんだけど……お姉ちゃんはきっと龍蔵さんを選ぼうとしていたんだと思う」

龍蔵が陽子をじっと見る。

「翔子が……俺を?」

陽子が龍蔵の視線から逃げないで見つめたまま話しかける。

「お姉ちゃんが亡くなった日の前日の出来事、覚えていますか?」

龍蔵が陽子から視線を外す。

「お姉ちゃんはね、その日に八木さんからプロポーズされました」

龍蔵は目を伏せていた。

「返事は翌日にすることになっていました……でもお姉ちゃんは八木さんのプロポーズを断わるつもりだったんです」

「え?」

龍蔵の呼吸が止まった。

「お姉ちゃんはね、龍蔵さん、あなたを選ぼうとしていたんです」

(そんな……俺は嫌われていたんだ翔子に……)

「それなのに……姉が八木さんと別れた後、あなたは姉を待ち伏せして……」

龍蔵の目が泳ぐ。

「ハンカチに薬品を染み込ませて姉を誘拐した。そうですよね龍蔵さん?」

静まり返る部屋の中……仲居の明るい声が響く。

「失礼いたしま~す」

仲居は明るい笑顔で襖を開けると二人の表情を見て……

そっと笑顔のまま襖を閉めた。











    
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