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第九章
85.国王アドラス
最後の客をお見送りするオリビア。
「気をつけて帰ってくださいね」
「あぁ、じゃあまたね~」
千鳥足で帰っていく最後の客を見送ってオリビアが暖簾を下ろして店の中に入れてドアを閉め鍵をかけた。
振り返るとバンダーとサリーが椅子に座っていた。オリビアはカウンターの中に入り二人の正面に立つ。
オリビアは本当は二人がお互いにどう思っているのかを先に聞いてみたかったのだが、バンダーの『サリーとどこかで出会っているかもしれない』という言葉を確かめるのが先だと思った。
オリビアがサリーに話しかける。
「ねえ、バンダーにあなたのことを話そうと思うんだけどどう思う?」
オリビアに三人で話をすると聞かされたときに、たぶんそう言われるんじゃないかと察しがついていたサリーはすぐに返事を返した。
「はい。それでいいです」
バンダーはサリースが何か秘密を打ち明けるのだろうなと身構えた。
オリビアがバンダーに言った。
「名前……サリーなの。この子の本当の名前……」
「サリー……」バンダーが呟く。
「彼女はカイレン国前国王の娘サリー、第八王女のサリー様なんです」
「……」バンダーは返事をしないで黙って聞いている。
「第八王女であるにも関わらずひどいいじめを受け耐えきれず城を抜け出し国境を越えて、この街にたどり着いたのです」
サリーはしんみりとオリビアの言葉を聞いている。
オリビアがバンダーに話しかける。
「あなた、カイレン国で傭兵をしていたと言ったわよね?そしてサリーとどこかで出会った記憶があると頭を抱えていたじゃない」
「……」
「カイレン国にいたときにサリーに会ってるんじゃないの?」
オリビアとサリーが見つめる中、バンダーが重い口を開く。
「俺はその頃、金で雇われる傭兵をやっていた。カイレン国は俺の生まれた国だが本当によく政変が起こり国王がよく交代した」
「あの時もそうだった……今から12、3年前カイレン国の財務大臣が謀反を起こしたんだが……」
「俺はその時、国王軍ではなくあえて財務大臣側についたんだ」
「戦いは激しく一進一退の攻防の末、財務大臣側が勝った」
「城の最上階に立てこもり最後まで戦ったのが国王のアドラスだった」
「俺は手柄を上げるために外壁から最上階に入り込むことした」
「侵入は成功し中に入ってみると、国王を守る騎士は一人もいなかった」
「国王の後ろにいたのはただ1人、小さな女の子だった」
「追い詰めた国王が俺に言ったんだ。『この子だけは助けて欲しい』と」
❖
バンダーが刀を構えてアドラスに向け、打ち取るつもりだった国王から自分の命乞いではなく、子供の命乞いをされて気合が鈍る。
「お前の子供か?」
「ああ、私の可愛い末娘だ」
「助けてやってもいいがお前は打つ。それでいいのか?」
アドラスはもうとっくに覚悟を決めているようで冷静だった。
「あぁ、それでいい」
アドラス国王が跪いて目をつむる。
「さあ、打ち取るがいい」
そんなアドラスの潔い姿を見て財務大臣ジルバの言っていた言葉が思い浮かぶ。
「国王は私利私欲に走り国民のために何もしない男だ。卑怯者で自分さえ助かればいいと思っている男なんだ」
そう我々傭兵団に言っていた。しかし、今いるこの男はそんなことは微塵も感じられない。
バンダーは刀を鞘に収める。
「斬る気が失せた。死ぬなら自分で
死ぬがいい」
アドラスがバンダーを見つめて言った。
「娘を連れて逃げてくれないか」
「逃げるのは無理だな、流石に子供を背負って外壁を掴んで降りることはできない」
国王が立ち上がり後ろの机を動かした。
驚いたことに床に抜け道が現れた。
「ここから逃げられる。頼む若者よ」
バンダーが尋ねる。
「こんな抜け道があるならなぜあんたは逃げなかったんだ?」
「今、城から逃げおおせたとしても、すぐに捕まる」
そう言って上着をまくるとお腹が血で真っ赤に染まっていた。
「あんた陰腹をしていたのか」
その時部屋の入口の扉を叩く音がひどくなってきた。
バンダーが決心した。
「わかった」
バンダーが女の子にこっちへ来るようにいうと国王にしがみつき離れない。
国王が女の子に諭すように話しかける。
「サリー、このおじさんと一緒に行くんだ。私も後から行くから先に行っておくれ、いいな?」
頷く娘に国王は机の引き出しから風呂敷に包まれた短刀を娘の背中にくくりつけてやる。
そして優しく娘に話しかける。
「サリー、これをお前に与える。お前が大きくなって子供ができたらその子に、この短剣を譲りなさい。私も母上からそうやってこの短剣を譲り受けたのだ」
「ありがとうございます。父上」
「幸せになるんだぞ。サリー」
「はい。父上」
そのあとバンダーはすぐに娘を連れて床に入り逃げた。
そして抜け出た城の外で待ち受けていた人々にサリーを預けたんだ。姉の第七王女もいたしな。それでもう一度抜け穴を通り国王を助けにいったが間に合わなかった。
仕方なく元の城の抜け穴を通り外に出ると、使用人たちはすでに兵隊たちに捉えられていた。サリーもその中にいた。
「そして俺はどうにもできなくてそのまま城を出たんだ……」
「気をつけて帰ってくださいね」
「あぁ、じゃあまたね~」
千鳥足で帰っていく最後の客を見送ってオリビアが暖簾を下ろして店の中に入れてドアを閉め鍵をかけた。
振り返るとバンダーとサリーが椅子に座っていた。オリビアはカウンターの中に入り二人の正面に立つ。
オリビアは本当は二人がお互いにどう思っているのかを先に聞いてみたかったのだが、バンダーの『サリーとどこかで出会っているかもしれない』という言葉を確かめるのが先だと思った。
オリビアがサリーに話しかける。
「ねえ、バンダーにあなたのことを話そうと思うんだけどどう思う?」
オリビアに三人で話をすると聞かされたときに、たぶんそう言われるんじゃないかと察しがついていたサリーはすぐに返事を返した。
「はい。それでいいです」
バンダーはサリースが何か秘密を打ち明けるのだろうなと身構えた。
オリビアがバンダーに言った。
「名前……サリーなの。この子の本当の名前……」
「サリー……」バンダーが呟く。
「彼女はカイレン国前国王の娘サリー、第八王女のサリー様なんです」
「……」バンダーは返事をしないで黙って聞いている。
「第八王女であるにも関わらずひどいいじめを受け耐えきれず城を抜け出し国境を越えて、この街にたどり着いたのです」
サリーはしんみりとオリビアの言葉を聞いている。
オリビアがバンダーに話しかける。
「あなた、カイレン国で傭兵をしていたと言ったわよね?そしてサリーとどこかで出会った記憶があると頭を抱えていたじゃない」
「……」
「カイレン国にいたときにサリーに会ってるんじゃないの?」
オリビアとサリーが見つめる中、バンダーが重い口を開く。
「俺はその頃、金で雇われる傭兵をやっていた。カイレン国は俺の生まれた国だが本当によく政変が起こり国王がよく交代した」
「あの時もそうだった……今から12、3年前カイレン国の財務大臣が謀反を起こしたんだが……」
「俺はその時、国王軍ではなくあえて財務大臣側についたんだ」
「戦いは激しく一進一退の攻防の末、財務大臣側が勝った」
「城の最上階に立てこもり最後まで戦ったのが国王のアドラスだった」
「俺は手柄を上げるために外壁から最上階に入り込むことした」
「侵入は成功し中に入ってみると、国王を守る騎士は一人もいなかった」
「国王の後ろにいたのはただ1人、小さな女の子だった」
「追い詰めた国王が俺に言ったんだ。『この子だけは助けて欲しい』と」
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バンダーが刀を構えてアドラスに向け、打ち取るつもりだった国王から自分の命乞いではなく、子供の命乞いをされて気合が鈍る。
「お前の子供か?」
「ああ、私の可愛い末娘だ」
「助けてやってもいいがお前は打つ。それでいいのか?」
アドラスはもうとっくに覚悟を決めているようで冷静だった。
「あぁ、それでいい」
アドラス国王が跪いて目をつむる。
「さあ、打ち取るがいい」
そんなアドラスの潔い姿を見て財務大臣ジルバの言っていた言葉が思い浮かぶ。
「国王は私利私欲に走り国民のために何もしない男だ。卑怯者で自分さえ助かればいいと思っている男なんだ」
そう我々傭兵団に言っていた。しかし、今いるこの男はそんなことは微塵も感じられない。
バンダーは刀を鞘に収める。
「斬る気が失せた。死ぬなら自分で
死ぬがいい」
アドラスがバンダーを見つめて言った。
「娘を連れて逃げてくれないか」
「逃げるのは無理だな、流石に子供を背負って外壁を掴んで降りることはできない」
国王が立ち上がり後ろの机を動かした。
驚いたことに床に抜け道が現れた。
「ここから逃げられる。頼む若者よ」
バンダーが尋ねる。
「こんな抜け道があるならなぜあんたは逃げなかったんだ?」
「今、城から逃げおおせたとしても、すぐに捕まる」
そう言って上着をまくるとお腹が血で真っ赤に染まっていた。
「あんた陰腹をしていたのか」
その時部屋の入口の扉を叩く音がひどくなってきた。
バンダーが決心した。
「わかった」
バンダーが女の子にこっちへ来るようにいうと国王にしがみつき離れない。
国王が女の子に諭すように話しかける。
「サリー、このおじさんと一緒に行くんだ。私も後から行くから先に行っておくれ、いいな?」
頷く娘に国王は机の引き出しから風呂敷に包まれた短刀を娘の背中にくくりつけてやる。
そして優しく娘に話しかける。
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「ありがとうございます。父上」
「幸せになるんだぞ。サリー」
「はい。父上」
そのあとバンダーはすぐに娘を連れて床に入り逃げた。
そして抜け出た城の外で待ち受けていた人々にサリーを預けたんだ。姉の第七王女もいたしな。それでもう一度抜け穴を通り国王を助けにいったが間に合わなかった。
仕方なく元の城の抜け穴を通り外に出ると、使用人たちはすでに兵隊たちに捉えられていた。サリーもその中にいた。
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