愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらちん黒糖

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第九章

86.なかなか思うようにはいかない

サリーがすすり泣く。短剣を譲り受けた父との思い出が、最後の別れのときだったと知って涙が止まらない。

バンダーが話を続ける。
「俺はその後もカイレン国に留まりサリーがどうなっているのか探りをいれていた」

​「財務大臣たちは第七王女も、第八王女も顔は、はっきりとは知らなかったんだ」

​「だから使用人たちにまぎれてそのまま召使として働いていた」

​「前国王を慕っていた使用人たちは第七王女と第八王女を守りながら生きていた。ただし誰にも疑われないように厳しく接していた。第七王女も自分の妹にはきつく接していたと聞いた」

​「ある時、国王になった前財務大臣に密告があって前国王の王女が使用人に紛れ込んでいると」

​「すぐに国王は調べた。第七王女はすぐに見つかり、尋問で第八王女はどこにいると聞かれたときこう答えたそうだ」

​「妹は死にましたと」

​「ところが尋問官に、こいつが第八王女ではないかとサリーが目をつけられた」

​「しかし第七王女のジェレミーが言ったそうだ」

​「この子が私の妹ですって?馬鹿にしないでください。これは使用人の子供ですよ?」

​「そう言ってサリーに殴るけるの暴行をしたそうだ」

​「見かねた尋問官が間に入って止めた。ジェレミーの言い分を認めて第八王女は死亡とされたんだ」

​「姉のジェレミーは翌日処刑されたよ」

​店の中にオリビアとサリーのむせび泣く声が聞こえる。

​「そして処刑の当日第七王女のジェレミーはサリーに言ったんだと……」

​「あんたは役立たずなんだから早くこの城から出ていきなさい。だけどできるだけここの仕事は覚えてから出ていくのよ!あんたには何も取り柄がないんだから!」

​「そう言って泣き叫んで他の使用人たちに妹のサリーを頼んでいったそうだ」

​そしてバンダーは国王とサリーの秘密を話した。

​「サリーのうなじに王家の紋章が刻印してあるだろう?……それはサリーだけなんだ。サリーは使用人が産んだ子供だったので国王の子供であると証明するために刻印した」

​「そして、その時国王も同じ刻印を自分のうなじにもつけたんだ」

​「その時に言ったそうだ。これで私とお前は堅い絆で結ばれたと……」

​父の思いを知り、そして自分をイジメていたと思っていた姉や使用人たちが、実は自分を守ってくれていたことに気付いたサリーはもう涙が止まらなかった。


​❖


​バンダーはゆっくりと椅子から立ち上がり、カウンター越しにオリビアと、膝を抱えて泣き崩れているサリーを見つめた。

​「オリビア。話せて良かった」

​その声は、いつも聞いていた無愛想な声とは違って、ひどく静かで、どこか遠い場所へ行ってしまうような響きがあった。

​オリビアは言葉を失い、ただ首を振った。

​「待って、バンダー。これからどうするの?まさか……」

​バンダーはオリビアの言葉を遮るように、小さく笑った。

​「俺は、あの日、国王の願いを裏切ってしまった。命は助けたが、サリーを一人にさせてしまった」

​彼はカウンターにそっと手のひらを置き、オリビアの目を真っ直ぐに見つめた。

​「オリビア、君には感謝している。サリーを、ちゃんと生かしてくれているからだ。これ以上の平穏はない」

​バンダーは背を向け、ドアに向かって歩き出す。オリビアが慌てて追いかけ、その大きな背中に手を伸ばした。

​「バンダー!行かないで!私、あなたのことが……」

​ドアに手をかけたバンダーは、振り返らずに、しかしはっきりと答えた。

​「オリビア。俺は君が好きだ。だが、今の俺はその気になれないんだ。すまない」

​チリンチリンと音が響き、バンダーは店を出ていった。


​❖


​翌日からバンダーは二度とオリビアの店には姿を見せなくなっていた。

​オリビアはドアを見つめ、淡い恋心を持っていたバンダーが姿を消して、しょんぼりする時間が増えていた。

しかし、オリビアはすぐに顔を上げた。バンダーの最後の言葉は、別れであると同時に、オリビアへの真摯な愛の告白でもあったからだ。

​自分よりもつらい思いをしてきたサリーは、涙を拭い、以前にも増して明るく生きていた。

​サリーはカウンターで洗い物をしているオリビアに、生まれ変わったような笑顔を向けた。

​「オリビアさん、買い出しに行ってきますね」

​「うん、お願い」

​チリンチリンと音を鳴らしてサリーが店を出ていった。

​オリビアにとってバンダーはジェームズ以来の好きになった人だったのにまた縁がなかったようだ……。







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