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第四章
㊽二人の愛の行方
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夜会は滞り無く終了して来賓客は順に帰っていく。
クリン公爵は帰りもまた大広間の出入り口に立っていた。
挨拶を次々に交わしていく公爵。
ヤンセン伯爵とカンフルの番が来た。
「ヤンセン伯爵、今日は本当に来てくれてありがとう。感謝する」
「いえいえ、夜会への参加をお認めくださりありがとうございました」
「カンフルさん、また伯爵とご一緒に来てください。お待ちしています」
「ありがとうございます。公爵様もたまには串焼き屋へ来てくださいね?」
公爵の頭が高速回転する。
公爵は調査報告書を読んでいるのでカンフルが串焼き屋を経営しているのを知っていたが知らないふりをすることにした。
「串焼き屋?」
「はい、王城前にある串焼き屋です。伯爵もたまに店を手伝ってくれています」
「何?本当か?ヤンセン伯爵」
「ええ、楽しいですよ?一度公爵も串焼きを焼いてみればいかがですか?」
「ふふふ、それも面白そうだ」
「では失礼いたします」
ヤンセン伯爵とカンフルが帰って行った。
クリン公爵は次の来賓客に話しかけながら、伯爵とカンフルの後ろ姿に視線を向けていた。
馬車の中でゆったりと寛ぐ二人。御者役はセルフがしている。
「今日は疲れただろうカンフル」
「ええ、でもとっても充実した一日だった」
「そうか、それなら良かった」
馬車は何事もなく走り続け、夜会の余韻に浸る間もなくカンフルの串焼き屋に到着した。
伯爵も馬車から降りて裏口から入っていったカンフルを見送った後、馬車に乗ろうとドアに手をかけた時、裏口のドアが開いてカンフルの声がした。
「ねえ、リッスー」
伯爵が振り向くと、カンフルはドアの隙間から顔だけ出して、
「ねえ、泊まっていかない?」
カンフルのまさかの発言に固まる伯爵。
驚きの表情になる伯爵を見て慌てて先程の言葉を打ち消すカンフル。
「あはは、冗談!冗談だから!気をつけて帰ってね!」
そう言うとカンフルは急いでドアを閉めた。
カンフルは裏口のドアを背中で抑えて顔を両手で塞ぐ。
「馬鹿じゃないの私。なんてこと言ってしまったんだろう」
しかしそれでも外の気配に聞き耳を立てていた。
やがて馬車の走り去る音が聞こえて、カンフルはしょんぼりして裏口を開け、外を確認してみた。
馬車はもういなかった。
馬車はいなかったが目の前にはヤンセン伯爵が立っていた。
伯爵は釈明するように言った。
「すまん、セルフに置いていかれた」
カンフルがヤンセン伯爵の胸にしがみつく。
伯爵はそんなカンフルの背中に腕を回し、優しくカンフルに言葉をかけた。
「だから今夜、私を泊めてくれないか」
カンフルは静かに頷く。
その顔はほんのり赤く染まっていた……
伯爵はカンフルの顎を軽く持ち上げ、優しく、そして……熱く唇を重ねた。
クリン公爵は帰りもまた大広間の出入り口に立っていた。
挨拶を次々に交わしていく公爵。
ヤンセン伯爵とカンフルの番が来た。
「ヤンセン伯爵、今日は本当に来てくれてありがとう。感謝する」
「いえいえ、夜会への参加をお認めくださりありがとうございました」
「カンフルさん、また伯爵とご一緒に来てください。お待ちしています」
「ありがとうございます。公爵様もたまには串焼き屋へ来てくださいね?」
公爵の頭が高速回転する。
公爵は調査報告書を読んでいるのでカンフルが串焼き屋を経営しているのを知っていたが知らないふりをすることにした。
「串焼き屋?」
「はい、王城前にある串焼き屋です。伯爵もたまに店を手伝ってくれています」
「何?本当か?ヤンセン伯爵」
「ええ、楽しいですよ?一度公爵も串焼きを焼いてみればいかがですか?」
「ふふふ、それも面白そうだ」
「では失礼いたします」
ヤンセン伯爵とカンフルが帰って行った。
クリン公爵は次の来賓客に話しかけながら、伯爵とカンフルの後ろ姿に視線を向けていた。
馬車の中でゆったりと寛ぐ二人。御者役はセルフがしている。
「今日は疲れただろうカンフル」
「ええ、でもとっても充実した一日だった」
「そうか、それなら良かった」
馬車は何事もなく走り続け、夜会の余韻に浸る間もなくカンフルの串焼き屋に到着した。
伯爵も馬車から降りて裏口から入っていったカンフルを見送った後、馬車に乗ろうとドアに手をかけた時、裏口のドアが開いてカンフルの声がした。
「ねえ、リッスー」
伯爵が振り向くと、カンフルはドアの隙間から顔だけ出して、
「ねえ、泊まっていかない?」
カンフルのまさかの発言に固まる伯爵。
驚きの表情になる伯爵を見て慌てて先程の言葉を打ち消すカンフル。
「あはは、冗談!冗談だから!気をつけて帰ってね!」
そう言うとカンフルは急いでドアを閉めた。
カンフルは裏口のドアを背中で抑えて顔を両手で塞ぐ。
「馬鹿じゃないの私。なんてこと言ってしまったんだろう」
しかしそれでも外の気配に聞き耳を立てていた。
やがて馬車の走り去る音が聞こえて、カンフルはしょんぼりして裏口を開け、外を確認してみた。
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伯爵はそんなカンフルの背中に腕を回し、優しくカンフルに言葉をかけた。
「だから今夜、私を泊めてくれないか」
カンフルは静かに頷く。
その顔はほんのり赤く染まっていた……
伯爵はカンフルの顎を軽く持ち上げ、優しく、そして……熱く唇を重ねた。
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