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汽車編
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しおりを挟む「特務専属か……」
サラたちは中央都市へ行くために、汽車に乗っていた。
景色がのんびりとしたリゾート地から熱帯雨林を越えて、田畑の広がる田園風景に切り替わってゆく。
その風景をルンルン気分でウィルソンが眺め、何ならビスケットの袋を開けて食べ始めた。
「なんか俺ら特別枠って感じがするよね!」
「そうか……? 面倒事処理班っていう方がしっくりくるけどな」
サラは小さくため息をつくと、「というか」と視線を車内へ向ける。
「狭くないか?」
向かい合う二人掛けの座席に、サラ、ウィルソン、ザグジーが腰かけているが、アルグランドがサラの横の席に座り、天井付近にリプニーチェが漂う。ジュリアナは岩のように大きいので向き合う座席と座席の間に立っていた。
ジュリアナの襟巻が仕切りのようにソファに突き刺さっている。
どう考えてもジュリアナの襟巻がこの空間を圧迫している。
サラの視線に気が付いたジュリアナが「……私のせいでしょうか?」と振り返る際に、襟巻が凶器となってウィルソンにぶつかりそうになった。
「わっ! あっぶな!」
「いや……別にジュリアナのせいじゃないが……その襟巻はしまえないのか??」
「……ああ、申し訳ありませんでした。しまいます」
しゅ、とたたまれて、圧迫感がなくなった。
すると、先ほどまで見えていなかったザグジーが、サラから見えるようになった。
汽車に乗るのは初めてだと言っていたため、汽車を楽しんでいるかと思ったが、なんと、青い顔をしているではないか。
酔ったのか?
「……おい、大丈夫か?」
「ザ、ザグさん大丈夫?」
するとザグジーの体が、がたがた震え始めた。
「あの……俺、南都市から出た事なかったんすけど……生きていけるっすかね?」
「え!? 南都市から出た事なかったの!?」
「はあ? どんな心配してんだよ。大丈夫だろ」
「南都市部には生活空間があるから、そこにいればよかったすけど、特務っていろんなところを回るんすよね? 寝泊まりはどうするんすか? というか、俺結婚したばっかりなんすけど……」
「ああ……新婚なのに各地を回らないといけなくなったのは、フレデリックを恨め。寝泊まりはたまに野宿するが、それ以外は適当に宿を借りればいい」
「え!? サラちゃん野宿してたの!?」
驚くウィルソンに、アルグランドは「ああ……かなり多いな」と付け加える。
「の、野宿っすか……!?」
するとザグジーの表情が生き生きし始めたではないか。
そんなにも野宿がしたいのだろうか。
「俺、野宿でバーベキューしたいっす!」
「おお! いいね! バーベキューしようよ! 俄然野宿が楽しみになってきた!!」
「やっぱり川の近くでするのがいいっすよね!」
「うんうん、いいねいいね! 草原とかでもいいかもね!」
何やら会話が弾んでいる二人に、サラは白けた目を向けた。
「バーベキューなんてしない」
「え!? しないんすか!?」
「なんで!? サラちゃん鬼畜!?」
「はあ? 普通野宿でバーベキューなんてしないだろ。キャンプじゃあるまいし。そもそも道具なんて持ってないだろ」
「揃えたらいいじゃん!」
「そうっすよ! 持ち運べる物を揃えたら――」
「いや、邪魔だろ」
「えー……サラちゃんのケチ! 鬼!」
「ケチじゃないし鬼でもない。人間だ」
「そういう意味で言ったんじゃないよお……!」
「でも……サラさん、本当にバーベキューはしないんすね?」
「しない」
ぶうたれるウィルソンに、やっぱり生きていけるかなあ……と顔を覆うザグジー。
いやいやいや、特務の任務で世界を駆け巡っている奴らの中で、野宿中にバーベキューをしている奴なんて見たことないからな。
確かにどこかの都市所属ならあり得る話なのかもしれないが。
というか、ザグジーはどこでも生きていけそうな頑丈な体つき、そして適応能力が非常に高そうなのに、意外と環境が変わったら生きていけないのだろうか。
まあ、故郷を離れるときの不安はあるだろうが……生きていけないことはないだろう。
サラはこのメンバーでの行動は大丈夫だろうかと少々不安になった。
自己主張が強く、自分の意見を曲げないサラ。
自由奔放で変なことを平気で提案してくるウィルソン。
体は大きく心は情熱的なくせに、意外と小心者のザグジー。
考え方、今まで生きてきた中での生活の違い。
別々の人間が共に行動するのだ。
意見が衝突することなんてこれから先多々あるだろう。
譲れないことも出てくるはずだ。
仲間内での衝突は仕方ない。
だが、そこは問題ではない。
問題は、隊を組んだとしても自由に行動できるかどうかだ。
まあ、なんとかするしかないだろう。
そんな事を考えていれば、ガタン、ガタン、と汽車の揺れが心地よくなってきた。
少し寝よう、とうとうとしはじめた矢先。
「ふざけんなよ!」
いきなり怒鳴り声が聞こえてきた。
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