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中央都市編

15(ウィルソン視点)

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 ウィルソンがスカルと対峙していれば、どこかに向かって走っていくサラを見かけた。

 そのため、スカルは一瞬にして薙ぎ払って、サラを追いかけることにしたのだ。

 サラちゃんは一人で問題を解決しようとするからな……!

 頼るって言いながら、だ。

 根っこにある部分はいきなりは変えられない、か。

 それは俺も同じだ。

 小さくため息をつく。

 今のままじゃ、足手まとい。

 それはわかっている。

 だけど。

 居ても立っても居られなかった。

 風のごとく駆けるサラを必死に追いかけたウィルソンは、遅れて大聖堂へやってきた。

「はあ、はあ……。サラちゃん、はっっっや……!」

 肩で息をしながら中へ入れば、体を差すような寒気に襲われる。

 確かここって地下に聖域があったはず。

 なのにこんなにも悪寒がするなんて。

 地下で何かが起こっている証拠だ……。

 南都市でのことが脳裏によぎる。

 サラちゃん、無事でいて……!

「サラちゃん!」

 開きっぱなしの扉へ飛び込んで、呆然とした。

 聖域が穢され、サラが捕まっているのだ。

 しかも、闇の力に包まれている。

「や、やめろおおおおおお!」

 ウィルソンが斬りかかろうとした瞬間、黒いもやが弾け飛び、その衝撃でウィルソンは壁に弾かれた。

「がっ!」

 まゆから解き放たれるように、姿を見せる。

 ゆっくりと舞い降りてくる彼女の姿を見て、ウィルソンは瞠目した。

「サラちゃん……!」

 姿形はサラのまま。

 でも、覗く手足、そして顔が真っ黒なのだ。

 表情がなく、美しかった金髪も、真っ白になっている。

 ぞっとする程冷たい空気を解き放って、ウィルソンの方をぬるりと向いた。

「嘘だよね、サラちゃん……」

 サラは何も答えない。

 嘘だと言ってよ。

 どうして。

 どうしてサラちゃんが……!

「さ、邪魔者は全部殺しちゃってヨ! ヒャッハー!!」

 背後にいるアフロの声に従うように、サラが疾駆した。

 肉薄したサラが目にもとまらぬ速さで斬り上げる。

 ウィルソンは何とか攻撃を受け止めるも、ぶつかった衝撃でズウウウン、と空気が重くなった。

 サラの攻撃自体も重かった。

「ぐ……」

 受け止めたはいいものの、サラからは容赦のない猛攻が繰り出され、ウィルソンは防戦一方。

 真っ黒い衝撃波が、辺りに飛び散る。

 ウィルソンの体も、心も、徐々に衝撃波が抉ってゆく。

「サラちゃん! サラちゃんってば!」

 何度呼んでも応答はない。

 唇を噛み締めたウィルソンに、上段からの一撃が入る。

 ウィルソンがいくら大剣で防いでいても、そのサラの一撃は強烈だった。

 怯んで隙の出来たウィルソンの横腹へすかさずサラの回し蹴りが入れられた。

 横腹がぐうっとへこみ、凄まじい勢いで吹っ飛んで壁へ激突した。

 後頭部をぶつけ、目の前に火花が飛び散る。

「はあ……はあ……」

 全身を強くぶつけたせいか、呼吸がうまくできない。

 ウィルソンはふらふら、と立ち上がった。

 このままじゃ、駄目だよな。

 このままじゃ、俺も死んで、サラちゃんはあのままだ。

 いや、ここへ増援が来たら、スカルとしてサラちゃんは殺されるかもしれない。

 一体どうすれば……?

 サラはす、とウィルソンに剣先を向けた。

 かと思えばウィルソンの脇腹に剣が突き刺さっているではないか。

「……え?」 

 どろり、と血が垂れてゆく。 

 サラの攻撃がウィルソンには見えなかったのだ。

 先ほどまでお互いの間には距離があったはずだ。

 それなのに、目の前でサラが音もなく立っている。

 その手には剣を握って。

「嘘……でしょ?」

 驚く間もなく剣を引き抜かれてしまった。

「あぐ……」

 突き刺された腹部からとめどなく血が溢れてくる。

 服を濡らし、床を染める。

 サラの驚異的なスピードに愕然としながらも、ウィルソンは必死で考えていた。

 確か、スカルになった騎士を元に戻す方法は、浄化すればいいんだっけ。

 そのためには、動きを止めないと。

 早すぎてこれでは無抵抗のまま俺は殺される。

 どうにかして動きを止めなければ。

 でも、どうやって?

 そう疑問を浮かべた直後に閃く。

「仕方ない、か……」

『ウィルソン……あなた、まさか』

「ごめん。ちょっとだけ、力を解放する」

『駄目よ……!』

「大丈夫。ここは腐っても聖域だから、暴走してもきっとリプなら止められる」

 自分で言いながらなんて酷い奴だ、と思う。

 無理強いさせてしまうことは明白なのに。

 ごめん。

 でも、これしか方法がない。

 痛みを堪え、姿勢を立て直してサラを見つめる。

 首を狙うように、真っすぐな軌道を描いて剣が迫ってくる。

「……?」

 ウィルソンは何か違和感を感じた。

 サラの剣が白く淡く光っているのだ。

「もしかして……」

 何かに気づいたせいで、反応に遅れた。

 自身の剣ではサラの剣先を防ぎきれず、間違いなく首を撥ねられると目を瞑った。

『ウィルソン!!』

 ギイイイン……。

 鈍い音を耳が拾った。

 痛みは来なかった。

 どうやら首が繋がっている。 

 ウィルソンは首に手を当てて、ほっと安堵するとともに、音の方へ視線を向けた。

「おいおいおいおい、何だよコレは」

 真っ赤な髪の毛はたてがみのようにいきり立って、口元はこの状況を少し楽しんでいるかのように上がっている。

 筋肉質の背中は幾千もの修羅場を乗り越えてきたかのように感じられ、ウィルソンは気が抜けたようにその背中を見ていた。

「中央、長……?」
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