181 / 201
守護精編
38
しおりを挟む「申し遅れました、私はローレンス様の使いの精霊――ブルーノと申します」
ファサァ……と鬣がなびく。
「あなた様を王都に送るようにとローレンス様からご命令を頂いたのでお迎えにあがりました。さあ、私の背へ乗ってください」
ファサァ……と鬣がなびく。
「王都? 一体どういうことだ?」
「守護精様たちに我々精霊の進化についての賛同を得るために、あなた様は奔走しているとお伺いいたしました。東都市聖域の守護精であるローレンス様は賛同しておられるので、それを私はあなた様に伝えるとともに、王都聖域の守護精のクロウ様の所へお連れするということです」
ブルーノは風向きを考えながら、美しく鬣がなびく位置を調整していた。
サラはその美しさを強調する鬣を刈り上げてしまいたい衝動に駆られたが、ぐっと堪えた。
「わかった。じゃあ、王都まで頼む」
「わかりました。では、少しお待ちください」
するとブルーノがぶるぶると体を震わせる。するとファッサァァァ!! と鬣が揺れ動き、ふわっと体に沿うように整った。
そして胸を張ってドヤ顔を決めてきた。……何なんだ、この馬。
「さあ、私の背中に!」
「……じゃあ、頼んだ」
サラがひょいっと乗っかれば、ヒヒンと高らかに鳴いてブルーノは駆け出した。
……出だしは順調だった。
気持ちのよい風を感じながらしばらく走らせていたが、とんでもないことがわかってしまった。こいつは超がつくほど危険だったのだ。
「おいいいいいい! ちょっと待て!」
「何でしょう?」
「何でしょう、じゃないだろ!! 街の中爆走してどうすんだよ! 危ないだろ! もっとスピード落とせよ!! それか街を迂回するとかなんとかしろよ!!」
「ご安心ください。人は巻き込まないように配慮して走っておりますから。それに最短ルートであなた様をお届けするお約束なので。しっかりと捕まってください」
「どわ!?」
人が行きかう街をさらにスピードを上げてゆく。加速しなくていいから!! 怖いわ!!
そして勢いとともに、壁を破壊して通り抜ける。
目の前に家があっても容赦ない。
ぶつかって建物が壊れるとかどんだけすごいのこの馬。
わが道を行き過ぎて、まさに大砲のようだ。
サラは振り落とされないように、しっかりと背につかまって目を瞑った。
もはや周りを見るのをやめよう。そうすれば何も考えなくて済む。すると。
「ちょっと、私の美髪(鬣)を抜かないでください」
「抜いてない」
「背につかまるのはいいですけれど、明らかに右手が私の美髪(鬣)を引っ張っています」
「……すまない」
「美しすぎるからってお土産にしようとしないでください。……全く」
「……」
していないし、するつもりもないし。何なんだ、この馬は……。
サラは一層のこと手を離して落馬しようかと思った次の瞬間、後方から地鳴りの様な爆発音が響いた。
「!?」
サラは驚きのあまり後ろを振り返る。煙が出ているのは山の方だ。あの方角には確か……。
「おい! 爆発したところへ行ってくれ!!」
「それはなりません」
「何でだ!! 父さんが危ないかもしれない!!」
「あなた様を王都に連れて行くことが私の使命ですから。ローレンス様の心配はいりません。上官がいち早くあの場に到着しているでしょうから。ですから、あなた様はそのまま王都へ行かなければならないのです」
恐らく父は他の聖域襲撃からこうなることを予期していたのだろう。
だから娘である私をその場から遠ざけるためにブルーノを私の元へ寄越したのではないのか。くそ……!!
サラは本気で背中から飛び降りようと試みたが、鬣が足を絡め取っているため抜けないのだ。
これも恐らく父がブルーノに命じたことなのだろう。私が馬の背から降りることを予想して。
鬣を切ればすぐに降りられるだろうが、サラは思いとどまった。
私はいち早く守護精から承諾を得なければならない。
それは人類、精霊、そしてこの世界の為なのだ。
南都市でもそうだった。
上官は私をまず先に守護精の元へと行かせた。
自分でも任務で最も優先することは一体何なのか分かり切っているはずだ。
だから父の思いを無駄にはしてはいけないのだ。
サラは拳を強く握る。
この任務を受けてから、戦うという選択肢を第一に選べない。
仕方のない事なのだが、どうにもぬぐえない不安感を抱えながら、サラはぐっと唇をかみ締めて前を見据えた。
0
あなたにおすすめの小説
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ペットになった
ノーウェザー
ファンタジー
ペットになってしまった『クロ』。
言葉も常識も通用しない世界。
それでも、特に不便は感じない。
あの場所に戻るくらいなら、別にどんな場所でも良かったから。
「クロ」
笑いながらオレの名前を呼ぶこの人がいる限り、オレは・・・ーーーー・・・。
※視点コロコロ
※更新ノロノロ
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~
タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。
時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま!
「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」
ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは――
公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!?
おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。
「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」
精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる