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守護精編

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 深くて青い、透明度の高いガラス細工のような木。

 この世界で一番の大樹だ。

 レレノアは空を見上げる。

 リィン、と木が鳴った。

 世界が青一色に包まれる中、息を吸う。

 優雅に足を滑らせ、踊りだす。

 青い大地と足が接触する毎に大地に光の輪ができる。

 そしてレレノアはゆっくりと命の木と融合してゆく。

 光の奔流へ溶け、奥へ、底へ、地の果てへ行き、そして天へ登る。

 リィン、と共鳴するように木々が鳴った。

 神秘の森全体が美しく鳴り響き、淡く光り出す。光は徐々に増してゆき、天へ一筋の光を解き放つ――。

 
 ✯✯✯


 各地にいる守護精が天へ視線を向けた。

 呼ばれているような、声がする。

 自身の体が奥からじんわり温まり、力が増大してゆくのを感じると同時に、ゆっくりと体が光の奔流へ溶けてゆく。

 そして。

 守護精全員が、繋がった。


 ✯✯✯


 空が明るい。

 どうやら進化が始まったようだ。

 ウィンテールは自分の手を見下ろした。

 自身の手は煤けたような色をしている。

 その手を軽く握る。

 少しの葛藤を握りつぶすように。

 目を瞑り、

「悪いのう……」

 誰かへの謝罪を口にする。

 バチィィン、と何かが破裂するような音と共に、ウィンテールの姿がその場から消えた。


 ✯✯✯


 世界が、光に包まれた。

 リィン、と大地から音が響き、風が地面を駆けてゆく。

 木々が揺れて、鳥がさえずる。

 光が霧散する様に駆け巡り、小さな生命力が踊りだす。

 空も、大地も、海も、せわしなく呼吸するように荒れてゆく。

 途端、ドン、と地鳴りのように地面が響いた。

 光の破片が消え、何もかもが鎮まるように世界は静けさを取り戻す。

 何も起きなかったかのように、精霊たちはゆっくりと息をした。
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