光の騎士

ななこ

文字の大きさ
55 / 201
故郷編

3

しおりを挟む

 東都市の最果てにある小さな街――プリートヴィーチェ。

 街にはカラフルな屋根が特徴的の家が立ち並び、いつも小さな広場では音楽隊が陽気に音楽を奏でている。

 今日は祈祷祭ということもあって、家々の壁やベランダ、玄関に蝋燭が飾られていた。

 蝋燭はただそのまま飾られているのではなく、ガラス細工で造られたお洒落な入れ物に守られるようにして入れられている。

 蝋燭は願いを託す大切なモノだからだ。

 祈祷祭は光の加護を強めるため、年に二回行われ、その日だけ、スカルのことなど忘れて、世界が幸せに包まれる。

 今、北は大変なことになっているだろうが、ここは全く関係ないかのように、街中は活気にあふれていた。

 何も起きなければ、本当に平和だ……。

 サラはぼんやりそんなことを考えながら、懐かしい街を歩いていた。

 あの日以降、もうここへは帰ってこないだろうと思っていた。

 姉さんを見つけるまで。

 私は感傷に浸らないように、弱音を吐かないように。

 前だけを見て、突き進むことを誓ったから。

 だから。

 ここへ帰ってきてはいけないと思っていた。

 でも、力を――アルを失って、私は前に進むことができなくて、どうすることもできなくて。

 ここへ帰ってきてしまった。

「おい! お主、何をぼーっとしておるのじゃ!」

「は?」

「見よ! この綺麗なガラス細工たちを! 普段は見れないじゃろう! どうじゃ!」

「……はあ、そうだな」

「なんだ! その生返事は! もっと感動せんか!」

 まるで自分が作ったかのように胸を張るエスティ。

 祭りを楽しむ気分ではないサラは、全てが心底どうでもよかった。

「あんたが作ったわけじゃないだろ」

「そうだが! なんだ! 別にいいじゃろう!」

「……そうだな。というかなんでそんなにもはりきっているんだ? そんなにも楽しい行事ではないぞ? ただの祭りだ」

「何を言っておるんじゃ! このあんぽんたんは! 祭りは今しかないんじゃ! 今を楽しまんと意味ないじゃろうが!」

「はあ……」

「お主、何か気分が乗らんようじゃが、今日は嘘でも楽しむふりをするんじゃ! 我を楽しませてくれ!」

「は、はあ……?」

 一体何を言っているんだ、この人は……。

 サラはうんざりしたような表情を浮かべる。

「これは決定事項じゃからの! よし! 屋台に入ろうぞ! ポップコーンなるものを食べてみたいぞ!」

「……はいはい」

 うだうだ考えていても気分は晴れないし、まあ仕方ない。

 付き合うか……。


 ✯✯✯


「ぬおおおおおおお! こ、これが伝説のポップコーンとやらか!」

 カップに入ったポップコーンをきらきらしたような目で眺めまわす。

 その光景は、はっきり言って怪しい。

 いい年した大人がポップコーンを両手にはしゃいでいるのだ。

 怪しすぎる。

 しかも、自分で買わず、私が買ったのだ。

 エスティにねだられてねだられてねだられた。

 どうして私が奢らないといけないんだ、そう思ったが「我、お金持ってない」というのだから仕方ない。「どうして持ってないんだ」と突っ込んだが、「我、お金持ってない」と一点張り。

 なんなんだ、本当に。

 サラは深いため息を一つ。

「……そうだな。右手に持ってるのが、キャラメル味で、左手に持っているのが塩。思う存分食べろ」

「お主! いい奴じゃな! さっそくいただくことにしよう!」

「おい! 誰か! そいつを捕まえてくれ!」

「どけどけどけ!」

「きゃああああ!」

 背後が騒がしくなったが特に気にすることもなく、サラたちは歩き出す。

「でも、両手に持っていたら食べられないだろう? どうやって食べるんだ? 一つ持とうか?」

「嫌じゃ! お主、我のポップコーンを食べる魂胆であろう!?」

「はあ? そんなことしないし。第一ポップコーン好きじゃないし」

「無礼者! ポップコーンに謝れ!」

「はいはい……。もう勝手にすれば」

「うむ! 勝手に食べるぞい!」

 エスティが「いただきまーす」と口を開けてかぶりつこうとした瞬間。

 何かがエスティに向かってぶつかって、ポップコーンが吹っ飛んだ。

「あ……」

「うおっ!」

 ぶつかってきた人物とエスティはもつれるようにして地面に倒れた。

 太陽の光を浴びて、ポップコーンがきらきらと光り、サラが、綺麗だと思った瞬間、ばらばらと雨のようにポップコーンが二人に降り注いだ。

 そして哀しいかな、行き交う人々に踏まれ、無残な形になったポップコーンたち。

「な……な……なんていうことじゃ!」

 エスティがそれを目に留めて、わなわな震えだす。

「だ、誰じゃ! 我のポップコーンを殺した奴は! 許すまじ!」

 エスティが鬼の形相で、ぶつかってきた人物へ視線を向けると、そこには少年が何かを抱えて倒れていた。

「そ、そいつを捕まえてくれっ!」

 中年オヤジが汗をかきながら、遠くの方から走ってくる。

「や、やべっ……!」

 逃げようとする少年の足を掴んだエスティの瞳がきらりと光った。

「お主観念せいっ! 我のポップコーンの敵かたき!!」

「お、おい!! やめろ!!」

 じたばたと暴れる少年は、抵抗虚しくエスティに取り押さえられた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

異世界魔法、観察してみたら

猫チュー
ファンタジー
異世界に転生した少年レイは、ある日、前世の記憶を取り戻す。 未知でありながら日常の一部となっている魔法に強い興味を抱いた彼は、村の魔法オババに師事し、修行の日々を送る。 やがてレイは、この世界の魔法が、地球で学んだ知識と多くの共通点を持つことに気づいていく。 師の元を離れ、世界を知っていく中で、少年は魔法を観察し、考え、少しずつ理解を深めていく。 これは、少年レイが世界を、魔法を、科学していく物語。

【完結】瑠璃色の薬草師

シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。 絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。 持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。 しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。 これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。

王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした

由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。 無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。 再び招かれたのは、かつて母を追放した国。 礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。 これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

完 弱虫のたたかい方 (番外編更新済み!!)

水鳥楓椛
恋愛
「お姉様、コレちょーだい」  無邪気な笑顔でオネガイする天使の皮を被った義妹のラテに、大好きなお人形も、ぬいぐるみも、おもちゃも、ドレスも、アクセサリーも、何もかもを譲って来た。  ラテの後ろでモカのことを蛇のような視線で睨みつける継母カプチーノの手前、譲らないなんていう選択肢なんて存在しなかった。  だからこそ、モカは今日も微笑んだ言う。 「———えぇ、いいわよ」 たとえ彼女が持っているものが愛しの婚約者であったとしても———、

おっさん冒険者のおいしいダンジョン攻略

神崎あら
ファンタジー
冒険者歴20年以上のおっさんは、若い冒険者達のように地位や権威を得るためにダンジョンには行かない。 そう、おっさんは生活のためにダンジョンに行く。 これはそんなおっさんの冒険者ライフを描いた生活記である。

処理中です...