光の騎士

ななこ

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故郷編

3

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 東都市の最果てにある小さな街――プリートヴィーチェ。

 街にはカラフルな屋根が特徴的の家が立ち並び、いつも小さな広場では音楽隊が陽気に音楽を奏でている。

 今日は祈祷祭ということもあって、家々の壁やベランダ、玄関に蝋燭が飾られていた。

 蝋燭はただそのまま飾られているのではなく、ガラス細工で造られたお洒落な入れ物に守られるようにして入れられている。

 蝋燭は願いを託す大切なモノだからだ。

 祈祷祭は光の加護を強めるため、年に二回行われ、その日だけ、スカルのことなど忘れて、世界が幸せに包まれる。

 今、北は大変なことになっているだろうが、ここは全く関係ないかのように、街中は活気にあふれていた。

 何も起きなければ、本当に平和だ……。

 サラはぼんやりそんなことを考えながら、懐かしい街を歩いていた。

 あの日以降、もうここへは帰ってこないだろうと思っていた。

 姉さんを見つけるまで。

 私は感傷に浸らないように、弱音を吐かないように。

 前だけを見て、突き進むことを誓ったから。

 だから。

 ここへ帰ってきてはいけないと思っていた。

 でも、力を――アルを失って、私は前に進むことができなくて、どうすることもできなくて。

 ここへ帰ってきてしまった。

「おい! お主、何をぼーっとしておるのじゃ!」

「は?」

「見よ! この綺麗なガラス細工たちを! 普段は見れないじゃろう! どうじゃ!」

「……はあ、そうだな」

「なんだ! その生返事は! もっと感動せんか!」

 まるで自分が作ったかのように胸を張るエスティ。

 祭りを楽しむ気分ではないサラは、全てが心底どうでもよかった。

「あんたが作ったわけじゃないだろ」

「そうだが! なんだ! 別にいいじゃろう!」

「……そうだな。というかなんでそんなにもはりきっているんだ? そんなにも楽しい行事ではないぞ? ただの祭りだ」

「何を言っておるんじゃ! このあんぽんたんは! 祭りは今しかないんじゃ! 今を楽しまんと意味ないじゃろうが!」

「はあ……」

「お主、何か気分が乗らんようじゃが、今日は嘘でも楽しむふりをするんじゃ! 我を楽しませてくれ!」

「は、はあ……?」

 一体何を言っているんだ、この人は……。

 サラはうんざりしたような表情を浮かべる。

「これは決定事項じゃからの! よし! 屋台に入ろうぞ! ポップコーンなるものを食べてみたいぞ!」

「……はいはい」

 うだうだ考えていても気分は晴れないし、まあ仕方ない。

 付き合うか……。


 ✯✯✯


「ぬおおおおおおお! こ、これが伝説のポップコーンとやらか!」

 カップに入ったポップコーンをきらきらしたような目で眺めまわす。

 その光景は、はっきり言って怪しい。

 いい年した大人がポップコーンを両手にはしゃいでいるのだ。

 怪しすぎる。

 しかも、自分で買わず、私が買ったのだ。

 エスティにねだられてねだられてねだられた。

 どうして私が奢らないといけないんだ、そう思ったが「我、お金持ってない」というのだから仕方ない。「どうして持ってないんだ」と突っ込んだが、「我、お金持ってない」と一点張り。

 なんなんだ、本当に。

 サラは深いため息を一つ。

「……そうだな。右手に持ってるのが、キャラメル味で、左手に持っているのが塩。思う存分食べろ」

「お主! いい奴じゃな! さっそくいただくことにしよう!」

「おい! 誰か! そいつを捕まえてくれ!」

「どけどけどけ!」

「きゃああああ!」

 背後が騒がしくなったが特に気にすることもなく、サラたちは歩き出す。

「でも、両手に持っていたら食べられないだろう? どうやって食べるんだ? 一つ持とうか?」

「嫌じゃ! お主、我のポップコーンを食べる魂胆であろう!?」

「はあ? そんなことしないし。第一ポップコーン好きじゃないし」

「無礼者! ポップコーンに謝れ!」

「はいはい……。もう勝手にすれば」

「うむ! 勝手に食べるぞい!」

 エスティが「いただきまーす」と口を開けてかぶりつこうとした瞬間。

 何かがエスティに向かってぶつかって、ポップコーンが吹っ飛んだ。

「あ……」

「うおっ!」

 ぶつかってきた人物とエスティはもつれるようにして地面に倒れた。

 太陽の光を浴びて、ポップコーンがきらきらと光り、サラが、綺麗だと思った瞬間、ばらばらと雨のようにポップコーンが二人に降り注いだ。

 そして哀しいかな、行き交う人々に踏まれ、無残な形になったポップコーンたち。

「な……な……なんていうことじゃ!」

 エスティがそれを目に留めて、わなわな震えだす。

「だ、誰じゃ! 我のポップコーンを殺した奴は! 許すまじ!」

 エスティが鬼の形相で、ぶつかってきた人物へ視線を向けると、そこには少年が何かを抱えて倒れていた。

「そ、そいつを捕まえてくれっ!」

 中年オヤジが汗をかきながら、遠くの方から走ってくる。

「や、やべっ……!」

 逃げようとする少年の足を掴んだエスティの瞳がきらりと光った。

「お主観念せいっ! 我のポップコーンの敵かたき!!」

「お、おい!! やめろ!!」

 じたばたと暴れる少年は、抵抗虚しくエスティに取り押さえられた。
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