光の騎士

ななこ

文字の大きさ
115 / 201
王都編

7

しおりを挟む

「いち、に、さん、いち、に、さん」

 アンジェリカが数歩進んでターンを見せる。

「ほら。同じように踊って。いち、に、さん、いち、に、さん」

 アンジェリカがサラを見ながら手を叩く。

 その声に合わせて、サラは同じように体を動かすが。

 なぜだろう、同じようには踊れない。

 アンジェリカの踊りは優雅で美しいのに、サラの踊りは踊りというかただの動きだ。

「もう一度ですわ」

「え」

「もう一度ですわ」

 サラは黙々と同じ動きを繰り返す。

「はい、もう一度ですわ」

「……」

「はい、もう一度ですわ」

「……」

 有無を言わさず何度も何度も同じ動きを繰り返させるアンジェリカ。

 アルグランドの体が小刻みに震えていた。

 くそ、絶対に笑っているな。

「ほら、集中しなさいな」

「……」

 リズムを刻みながら、二人はもくもくと踊っていたが。

「もういい加減にしてくれません!?」

 先にアンジェリカが根を上げたのだ。

「もう嫌ですわ! 何ですの!? どうしてそんなにも踊れないんですの!? 踊りというよりも、機械のようですわ! あなた、本当に人間ですの!?」

 はあ、はあ、と肩で息をするアンジェリカがきーきー喚く。

 けれど、サラは自分では最初よりもうまく踊れたと思っていた。

 そんなにも変だったのだろうか。

 歌よりかはだいぶマシだとは思ったのだが。

 アルグランドの体は相変わらず小刻みに震えていた。

 くそ、まだ笑っている。一体何が可笑しいんだ!

「あなた、本当に絶望的ですわ!」

 はっきりと言われて、サラは頭を掻いた。

「……そうなのか?」

「そうなのか? じゃないですわよ! あなた、歌も踊りもできないなんて、光脈を使えるようになるなんて、思えませんし、正直、祈祷師は向いていませんわ! これほどまで音痴、リズム感皆無な方、初めて見ましたわ!」

 もう無理ですわ、とアンジェリカがぐったりとしている。

 サラは腕を組んだ。

「……こんなことをしないと、本当に光脈は使えないのか?」

「どういうことですの? そんな、パッと使えるようになるような裏技はありませんことよ!」

「……踊りや歌が大切なのは理解した。だが、本当にこれをしていれば光脈が使えるようになるなんて到底思えないんだけど……」

 アンジェリカがキッと睨む。

「そんなの当たり前ですわ! 光脈を使うなんて、幼少の頃から無意識的に行っていますので、その力を使っているという意識はありませんのよ! だから歌ったり踊ったりしたら必ず光脈が使えるようになるとは限らないですわ!」

「は?」

 アンジェリカの暴露に、サラは絶望的な表情を浮かべた。

「おいおい、じゃあ一体何のためにこんなことをしているんだよ……」

「歌ったり踊ったりしたら光脈が使えるようになると思ったからですわ! でもやっぱり無理でしたわね!」

「……おいおい嘘だろ」

「……嘘じゃないですわ」

 アンジェリカがため息をつく。サラもため息をついた。お通夜のような雰囲気が漂う中、サラはあることを思いつく。

「浄化はどうなんだ?」

「どういうことですの?」

「だから、浄化をしたら光脈の使い方がわかるんじゃないか?」

「無理ですわ」

「どうしてだ」

「あなたには精霊がいるからですわ。たとえ浄化をしたとしても、その光の力が精霊と協力の元か、それとも自分自身の光脈か、区別できないからですわ」

「確かにな……」

「まあでも規模が規模ならやってみる価値はあるかもしれませんけれど、その場所が今はありませんから……」

「だよな」

 二人とも、はあ、と深いため息をつく。疲れと絶望とでしばらく沈黙していたが、アンジェリカが口を開いた。

「祈祷や浄化は基本的には口述、歌謳、舞踏の三つの方法がありますけれど、口述も基本的には同じですものね……」

「口述はどうやるんだ?」

 サラの質問に、少しだけ視線を落としたアンジェリカは跪いて手を合わせる。

 そのスタイルは祈祷際等で見た事のあるスタイルだった。

 ゆっくりと息を吸って、アンジェリカが詠唱し始める。

「雲の隙間からの太陽のほころびは我々に、黄色い歓喜と未来への扉を与えん。広大な大地の恵みと潤いの海の恵みを受け取った我々は、感謝と祈りを意識の中に織り込み、母なる光へと全てを捧げん。移ろいゆく歪みのない世界の中で色とりどりの――」

「ちょ、ちょっと待て」

「何ですの?」

 集中しているのですけれど、とジト目でこちらを見上げるアンジェリカ。

 嫌な予感がする。

「それ、もしかして文章を覚えるのか?」

「当たり前ですわ。祈祷文を気持ちを込めて唱えているのですわ」

「……」

 ため息をついたアンジェリカが、再び本棚から一冊の本を取り出す。

 かなりの厚さのある本だった。

「これが祈祷と浄化の口述に関するものですわ」

「もしかして、これを覚えて唱えないといけないのか……?」

「何年も唱えていれば、簡単に身に付きますわ」

 何か? と笑うアンジェリカに、サラはある一つの疑問が浮かぶ。

「『闇に染まりし者たちに光の祝福を』その一節だけ唱えて浄化をすることはできないのか?」

「なぜその一節を知っているのです?」

 一瞬冷たい表情になったが、サラが「過去に母が唱えていた」と告げると、アンジェリカは「そうですわね」とため息をこぼした。

「……出来ることは出来ますわ。けれどそれはかなり上級者……というか、王族の中でもかなり祈祷や浄化に精通している者にしかできませんわ」

 遠くを見つめるアンジェリカが、掻き消えそうな声で「エスティレーナ様……」と呟く。

「浄化能力の長けている方は、わたくしの知る中ではその方しか知りませんわ」

「……そうか」

 サラは一節だけで確かに浄化できた。

 でもそれは恐らく精霊の力を借りてできたものであって、光脈を使っていたわけではないだろう。

 ということは。

 サラは悟った。

 歌った時や踊った時と同様、詠唱するための祈祷文や浄化文を覚えたとしても、光脈を使えるようになるかどうかなどわからないのだ。

 では一体どうすればいいのだ。

 しばらく考えていたサラの思考は停止する。

 そして導き出した答えはただ一つ。

 ここから逃げる、だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ペットになった

ノーウェザー
ファンタジー
ペットになってしまった『クロ』。 言葉も常識も通用しない世界。 それでも、特に不便は感じない。 あの場所に戻るくらいなら、別にどんな場所でも良かったから。 「クロ」 笑いながらオレの名前を呼ぶこの人がいる限り、オレは・・・ーーーー・・・。 ※視点コロコロ ※更新ノロノロ

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。 時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま! 「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」 ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは―― 公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!? おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。 「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」 精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!

処理中です...