光の騎士

ななこ

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王都編

21

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 レヴィアンとヴィヴィアンの掛け声と共に、そのクローンが一斉にサラに向かって進撃してきた。

 クローンから放たれる流れるような攻撃が一閃、二閃と煌めく。

 サラは急所を迷わず狙ってくる刃を打ち返し、それによりバランスを崩したクローンに刺突を繰り出した。

 サラから放たれた光が、掻き消えるクローンと共に霧散。

 だが一体倒しても、あまり意味がなかった。

 一体倒せば、もう一体が蔓薔薇から生み出され、常に複数体が斬りかかってくるのだ。

「ちっ」

 他の一体が軽やかに跳躍し、天から切り伏せる激烈な光が一直線となって迸った。

 痛撃を受け止めたサラの両足が、ズン、と地面にめり込んでサラの周りが円環状にひび割れる。

 サラは力の限り振り抜いて弾き飛ばし、両側から切り伏せてくるクローンを絶妙なタイミングでかわして相打ちさせた。

 それから背後からサラの首を撥ねようと迫りくる刃をサラは叩き弾き、できた隙に回し蹴りを一発。

 めき、と強打がクローンのわき腹にめり込んで、体が回転しながら吹っ飛んだ。

 その背後にいた数体のクローンも巻き込んで一緒に道連れだ。

 数体昏倒させたが、それでもまだまだ斬りかかってくるクローンに、サラは嫌気がした。

「くそっ。きりがない」

 このままでは祈祷師たちを救えない。 

 それはまずい。

 祈祷師の方へ視線を向けるが、誰一人として意識を保っている者がいないようだ。

 どうにかならないのかと考えていれば。

「ここだったんだね」

 突如現れた影が、サラに向かって放たれた強烈な切っ先を弾き返すと同時に、迫りくるクローンをぐるりと回転するように鋭い一撃で切り伏せる。

 一糸乱れぬ攻撃で叩き潰し、涼し気な表情で華麗に登場したのはシリウスだった。

 シリウスは他の王族騎士たちを連れていた。他の王族たちは目を疑うようなクローンの数に表情を引き締める。

 そして、一人だけ猛烈な勢いで檻に近づいて行く者がいた。

 サラはその人物に視線が向いた。

「マリアアアアアアアアアアアアアっ!」

 クローンから繰り出される攻撃を避けつつ、檻にしがみつく。

 彼の目に飛び込んできたのは、気を失っているマリア。

「ああ! なんてことだ! 僕のマリアがっ! マリア! 大丈夫かい!?」

 檻を揺らしてみるが、びくともしない。

 それなのに必死に檻を幾度となく揺さぶっている。

 すると背後から迫ってきたクローンに切り伏せられてしまった。

「うあああっ!」

 深い傷を負っただろうけれど、彼は倒れることはなくぬるりと振り返った。

「許さない……。許さないぞ……」

 彼の体からは憤怒の炎が立ち込めている。

「お前たちだな……。僕のマリアをこんなところに閉じ込めたのは!」

 変な勘違いを口走っているルドルフの目がクローンを射抜いた。

 レイピアを構え、気迫で猛攻を仕掛けてゆく。

 その姿を遠くで見ていたシリウスが感嘆のため息を漏らした。

「あいつ……すごいねえ」

「感心している場合ではありません」

 いつの間にかそばに来ていたイグニードがクイッと眼鏡を持ち上げる。

「あはは。そうだね。とりあえずこいつらをどうにかしないと駄目みたいだね」

 シリウスが剣を構え、イグニードは槍を構える。

「……一つ疑問をよろしいか」

 いきなりイグニードがサラに質問を投げかけた。

「……なんだこんな時に」

「こんな時だからこそ。どうしてあなたは今この場にいて戦っているのですか? ここの管轄は王族騎士です。あなたは一般騎士でしょう?」

 見下すような視線に、サラは眉間に皴を寄せる。

「……一体何を言っているんだ? 私が戦うのは誰も失いたくないからだ。それに、この事態に王族も一般騎士も関係ないだろ」

「……」

 イグニードは目を眇めてフイッとクローンへ視線を移した。

 何なんだ、一体。 

 感じの悪い態度にむっとしたが、今はそんなことに気を取られている場合ではない。

 サラは剣を構えて突き進む。

 とにかく前進していかなければ。

 その場に留まっていれば、その場にクローンが斬りかかってくるため前へは進めない。

 それでは一向に祈祷師は救えない。

 駆けるサラの目の前、いきなり振り下ろされる刃から黒い光が迸った。

 反射的に足が止まり顔を避ければ、数ミリ単位で攻撃が頬をかすめてゆく。

 細い赤い線が頬を横に走った。

 目の前にいたクローンはサラのクローンではなく、今度はルドルフのクローンがレイピアを突き付けてきていたのだ。

「なるほどな」

 サラは頬の血を団服で拭う。

「植物が血を吸収したらその人物のクローンが出来上がるってわけか。……面倒だな」

 サラはクローンの懐に一気に入り込み、下から切り上げる。

 滑り込むように放たれた刀身がクローンの前身をえぐり斬る直前、クローンが叩き潰して勢いを殺し、鋭い刺突を解き放ってきた。

 風を切る音が耳を裂きそうになるも、サラは冷静に打ち返す。

 刃の交差点で眩しい火花が飛び散った。

 クローンからバックステップを踏み、少し距離を取る。

 悠長に一体ずつと交戦している時間はない。

 左右から距離を詰めてくるクローンたちをちらちらと確認し、サラは神経を研ぎ澄ませた。

 動きが止まったサラへ前後左右からクローンの攻撃が襲った。

 その攻撃がサラへ打ち込まれる直前、サラはカッと目を見開き、一瞬にしてそのクローンの集中点から通り過ぎた。

 直後、クローンが光にかき消されるように弾け飛ぶ。

 サラは攻撃を受ける前に、全てのクローンに斬撃を打ち込み、前進したのだ。その動きなど誰も把握できない。

 まさに閃光。

 サラはさらに前進してゆくが、何体も何体も飛び掛かってきてきりがない。

 周りでも激しい剣戟音が鳴り響いている。「面倒くさいな」と呟いた直後。

「雑魚めがッ!」

 庭園に響いた一喝と共に、強烈な斬撃がまばゆい光を伴い走り去った。

「きゃあっ!?」

「いったーい!」

 その場に到着したグライデンの一薙で、クローンが一掃されたのだ。

 なんという光の強さだろうか。

 地面になぎ倒されたレヴィアンとヴィヴィアンがムッとして起き上がる。

「お洋服が汚れちゃったわ」

「おじいさん最低!」

 異彩を放つ立ち姿に向かってゆくヴィヴィアンとレヴィアンは、剣を閃かせた。

 双方からの乱れ打ちを、グライデンは刀身の太い剣で難なく弾いてゆく。

 グライデンの登場に目を奪われていた他の騎士たちは、ハッと我に返って加勢しに行く。

 闇の使者たちはグライデンたちに任せ、サラは檻の方へ駆けた。

 檻は植物からできているが、斬り付けてもびくともしない。

 何なんだ、この檻は!?

「おい! 起きろ!」

 昏々と眠り続けている彼女たちに声をかけても、サラの声は届かない。

 どうすればいいのだ。

 どうすればこの檻を破壊でき、彼女たちを救えるのか。

 サラの姿に気が付いたヴィヴィアンとレヴィアンが「「だめって言ってるでしょー!」」と甲高い声を張り上げた。

 だめ、と言われて、はいそうですか、と待つ奴などいない。

 一刻を争う事態なのだ。

 もう一度思いっきり剣を振り下ろすも、無駄だ。

 するとサラの行動に怒ったヴィヴィアンとレヴィアンが、突然黒煙に包まれてゆくではないか。

 そしてその黒煙は広がって周りまでも覆いつくす。

「ゴホゴホ……。なんだこれは……」

 するとバサリ、と空間を押しつぶすような羽音が上空から響いた。

 その羽音と共に風が舞い、黒煙をかき消す。

 巨体は闇の中で光る黒い鱗で覆われており、獰猛どうもうな爪は守るかのように檻を掴んだ。

 獲物を狙う鋭い瞳はサラたちを見下ろす。

「な……!」

 天空に現れたのは、黒いドラゴンだった。
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