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45話「絶体絶命ハルバトルソ」

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「…答えは決まったかしら?人間。」

「…ああ。俺達の答えは…『いいえ。』だ。魔王。いや。新魔王サリィ。俺達はお前の前には屈さない。ここでお前達を…迎え撃つ!」

この瞬間、全ての命運が決まった。人類は、魔物との決着を付けると。魔王を討ち滅ぼして、世界の平和を取り戻すか。それとも、魔物に支配される世界がやって来るのか。二つに一つの選択だった。

「ふふ。上等ね。じゃあ始めましょう。…人類最後の…絶望のショーを!」

「待て!サリィ!」

目の前に立ちはだかったのは、血縁者である父。先代魔王だ。紫色の鎧はボロボロに砕け、魔王としての威厳は既に損なわれている。それでも彼は、父親として、娘の前に立ちはだかった。

「今からでも遅くは無い!人類と…彼等と共に生きれる道を選ぼうでは無いか…!」

「…うるさいのよ。クソ親父。戦う気も無い様な腑抜けは、もう魔界には用済みなのよ。」

「…っ…それでもだ!魔物は…人類と戦う事など望んでいない!平和な暮らしを求めて…!」

「黙りなさい。」

────ドスッ!

「が…!」

「なっ…!」

指から放たれた閃光。黒く小さな漆黒のビームが魔王の額を貫いたかと思うと、真紅の血がドバっとその頭部から吹き出し始めた。唖然とするトモヤを横目に、先代魔王はずしゃっとその場に倒れ込む。

「所詮は敗北者…そんな負け犬が私の前でギャーギャー騒いだ所で…説得力なんて無いわ。」

「てめえっ!」

『シールドバッシュ+』

────ブォン!!

怒りに任せたトモヤの一撃。しかしそれは、虚しく宙を舞った。魔王はふわりと後方へ飛び上がったかと思うと、目下のトモヤを見下して言い放った。

「ここまで来てみなさい。トモヤ。見事辿り着けた暁には、私が直々に相手をしてあげる。」

────ドドドドドッ!!

次の瞬間、遠くから凄まじい数の魔物が一挙に押し寄せ、ハルバトルソへと向かって行く!その数、おおよそ1万。今いる冒険者達でどうにか出来る数では無い。

「くそっ!…アルテマ!魔王を頼む!」

「わかってますですよ!」

────ガシャコン!

「俺が…なるべく倒さないと…!」

『タイダルウォール︰エクスブロー』

────ドオオオオオオオオオッ!!!!

解き放たれる海流。海の具現化とも呼べるそれは、魔物達を押し流して叩き潰して行く。それでも魔物達は止まらず、後から後から無限に押し寄せてくる。冒険者達も躍起して戦うが、その戦力差は絶望的だ。

『バーニングフレア』

────カッ!

巨大な炎の玉が相手を押し潰し、焼き尽くしていく。スフレの得意な火炎魔法だ。ほとんど無限に湧き出る魔物を相手する為、スフレはかなりMPの消費を抑えているが。

「これくらいじゃ…止まりませんか…!」

魔物達は焼かれながらも、無限の兵士としてどんどん奥へ進んでいく。数の暴力。これ程までに、策が通じない単純な戦法も珍しい。だがそれは、逆に策を基本としていたトモヤ達には、最も有効な手立てになる。

「スジン!行くぞ!」

「グルルルッ!」

────ゴオオオッ!

────斬ッ!!!!

イチゴもまた、前線で無限に湧き出る魔物を叩き潰していた。竜が弱らせ、騎士がトドメを刺す。完璧なコンビネーションだが、それでも魔物の数には到底勝ちきれない。何度も空へ飛び上がって危機を回避しているが、次第にスジンの疲弊も大きくなっていく。

「くそっ…なんて数だ…」

「皆頑張って!…私も攻撃しないと駄目ね。」

────ポンポン!

トレファもまた、かなりの苦労を強いられていた。皆を倒れないように鼓舞しながら、自分も攻撃を行うと言う荒業をやってのけていたからだ。

『毒霧の舞』

────ズァォォォォォッ…

紫色の雲がぶわーっと魔物達に襲いかかったかと思うと、魔物達は神経をやられて昏睡状態へと陥ってしまう。冒険者達はチャンスとばかりに攻撃するが、それでも奥からくる魔物に圧倒されるばかりだ。

「はぁ…はぁ…まだまだ…これからよ…」


────



無限に湧き続ける魔物。トモヤは英雄の如く戦陣を切って魔物達をなぎ倒して行くが、一向に終わりが見えない。魔王への道はまだ、果てしなく険しい。

「はぁ……はぁ……おおらっ!」

────ズガッ!

体力は限界に近付き、身体は次第に動かなくなって行く。ついに万事休すかと思われたその時、遠くから黒い斬撃が放たれ、魔物達を一瞬で大半を掃討する。

「っ…これは…!」

「…どうしたトモヤ。こんな魔物共に負ける程、お前は情けなかったのか?」
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