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74話 嘘と真実
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ついにその日がやって来た。セラフィーナは庭の机に座り、暖かな春の日差しを浴びていた。幸せな景色とは裏腹に、彼女の腹心は夏の日差しのように燃えていた。いよいよ決戦。例の探偵が自分を詰めにやってくるのだ。
「おはようございます、セラフィーナ様」
「おはようございます。フィンさん。どうぞ、おかけになって下さいな」
「失礼します」
ほのぼのとしたお茶会。そんな雰囲気にしか見えない二人を、従者の二人は遠くから見守っていた。前回女装を見抜かれた事もあるので、アルヴェルトは情報を抜かれないために隠れることにした。ルーチェも下手なことを口走らない為には、我慢して遠くから見守るより他に無いのである。
「セラフィーナさん…大丈夫でしょうか…」
「多分大丈夫だろ…セラフィーナ様には秘策があるんだろ?」
「そうらしいんだけど…あの表情を見て?」
セラフィーナの顔を見ると、今にも死にそうな顔で引きつった笑顔を見せている。落ち着き払っているいつもの聖女とは思いっきり真逆である。
「……あ、あれ、何も考えて無いんじゃ…」
「(た、確かにバレそうな時の作戦は考えてるんだけど…実際に問い詰められると緊張して頭回らないなあ…)」
既に大ピンチ。頭の中はサイレンカンカンなりまくっており、笑顔の奥はもう表情筋カチカチである。
「このお茶、美味しいですね」
「ふぉ!?は、は、はい、そうですか?それは良かったです!」
「私のような、ただの1ファンにこんなおもてなしまでして頂いて、感謝しかありません」
「いえいえ、超熱心なファンだとお聞きしましたからね。特別ですよ、特別」
なんとか平静を装い、相手に動揺を悟られまいとする。しかし、相手もそこまで間抜けじゃない。動揺を見抜き、頭の中にメモをとる。しかし、決してそれは口外しない。
「ありがとうございます。本当に嬉しいです。…早速ですが、質問しても宜しいでしょうか?」
「どうぞ、な、なんなりと聞いてください」
「はい。…セラフィーナ様、私は気になることがあるんです。以前も申しましたが、貴方は男性なのでは無いかと」
【WARNING!WARNING!】
「面白い事を仰いますね。どうして、私が男性であると思ったのですか?」
「セラフィーナ様、貴方がこの街にやってきたのが三年前ですよね?」
「はい…そうですね」
「ちょうどその頃、この街から出ていった一人の少年がいるんです。貴方と同い歳の、金髪青髪の少年。ジョット・バルハートと言います」
「(っ……!?)」
見抜かれた。彼女の言葉はまだ確信を得ていないとはいえ、核心を突いている。彼女の言う通り、ジョットが引っ越したのを装い、トンボ帰りで女装して帰ってきたのがセラフィーナである。
「彼の顔立ちは美形で…貴方にとても似ているんです。私は、貴方がジョット・バルハートなんじゃないかと思ってます。…どうでしょうか?」
「面白いお話ですが…根拠はありますか?私とジョットさんの共通点があったりして?」
「はい。まず、貴方とジョットさんは全く同じ、金髪青目です。よくいる普通のタイプの組み合わせですが、彩度もよく似通っているんです」
なるほど確かに…と言った具合に、自分の伸びた髪の毛を手に取る。地毛を伸ばしているのだから当たり前だが。
「それだけなら根拠に欠けますが…貴女が所属している聖教会付属の孤児院。彼はそこの孤児院出身なんです」
「(げげ、そこまで触れてくるかぁ…)」
「三年前にいなくなるのとほぼ同時に、セラフィーナ様がやってきた。…すると、こう考えるのが妥当だと思います」
「ジョット・バルハートが、女装してセラフィーナ様になったのではないか?と」
正直な所、セラフィーナは感心していた。彼女はどんぴしゃり、自分の境遇を完璧に言い当てた。余程優れた探偵なのだろう。けれど、彼女に悟られる訳にはいかない。
「ふふ、とても筋が通っていますね。けれど、それは間違いですよ?」
「…そうなのですか?理由を聞いてもよろしいですか…?」
「ええ。ジョットは私の…双子の弟なんです」
「「(……ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?!?!?!?!?)」」
驚いているのは、従者二人に探偵一人。鳩が豆鉄砲くらったような顔してるフィンに対して、従者の二人はもはやめん玉飛び出るんじゃないかってくらいポカーンとしている。
「私とジョットは、親が死別し…別々の場所に引き取られたきょうだいなんです」
双子であれば。双子であれば、髪色が瞳の色が似ている事も問題なく通せる。自然に口から溢れてくる嘘は、もはや真実の様である。
「……そうでしたか…すみません、辛いことを思い出させてしまって…」
「いえ。大丈夫ですよ。物心ついた時にはもう親はいませんでしたから」
そこは嘘ではない。嘘ではないが…平然と偽の弟の存在を語る姿は、今まで見てきたセラフィーナとは違う「黒いもの」が垣間見えた。
「ジョットはこの街で孤児として暮らしていましたが…私の引き取り手であるラガザハート家に男手が必要になり、急遽、力のない私と入れ替わりで彼が引っ越す事になったのです」
「……なるほど…でしたら、確かに筋が通っています。それを証明できますか?」
「できますよ。よろしければ、今度の安息日に隣国のアンダンティを訪ねてみてください。ラガザハート家に行けば、ジョットもいると思いますので」
安息日と言えば、セラフィーナが結界を生成する日でもある。職務を行っているセラフィーナはこの国から離れる事が出来ないため、彼の存在はそのままセラフィーナ=ジョットでは無い、という事の証明にもなる。
「…畏まりました。私から聞きたいことは以上です。セラフィーナ様から、私になにか言っておきたい事はありますか?」
「そうですね…隣国と言っても、魔物が多いですから、行かれるなら道中お気を付け下さい」
「…ありがとうございます。ボディーガードでもつけて行きますよ」
「はい、お気を付けて。また来てくださいね、フィンさん」
「ありがとうございます。セラフィーナ様。今度はサインでも貰いに来ますね」
ごくり、と用意された紅茶を飲み干して、フィンは礼儀正しく席を立つ。嘘をついているとしたら、あまりにも脆弱。ラガザハート家が実在するのか。そもそもジョットという人物がいるのか。なんにしても、確かめれば済む話。フィンがすべき事は決まっていた。
「(…早速ですが…セラフィーナ様の言う通り、アンダンティに向かってみましょう)」
明後日が安息日。旅行で行くにはピッタリとタイミングだ。早速、ジョット・バルハートの存在を確かめに行こう。そう決意しながら、探偵は聖女の家の門をくぐった。
「おはようございます、セラフィーナ様」
「おはようございます。フィンさん。どうぞ、おかけになって下さいな」
「失礼します」
ほのぼのとしたお茶会。そんな雰囲気にしか見えない二人を、従者の二人は遠くから見守っていた。前回女装を見抜かれた事もあるので、アルヴェルトは情報を抜かれないために隠れることにした。ルーチェも下手なことを口走らない為には、我慢して遠くから見守るより他に無いのである。
「セラフィーナさん…大丈夫でしょうか…」
「多分大丈夫だろ…セラフィーナ様には秘策があるんだろ?」
「そうらしいんだけど…あの表情を見て?」
セラフィーナの顔を見ると、今にも死にそうな顔で引きつった笑顔を見せている。落ち着き払っているいつもの聖女とは思いっきり真逆である。
「……あ、あれ、何も考えて無いんじゃ…」
「(た、確かにバレそうな時の作戦は考えてるんだけど…実際に問い詰められると緊張して頭回らないなあ…)」
既に大ピンチ。頭の中はサイレンカンカンなりまくっており、笑顔の奥はもう表情筋カチカチである。
「このお茶、美味しいですね」
「ふぉ!?は、は、はい、そうですか?それは良かったです!」
「私のような、ただの1ファンにこんなおもてなしまでして頂いて、感謝しかありません」
「いえいえ、超熱心なファンだとお聞きしましたからね。特別ですよ、特別」
なんとか平静を装い、相手に動揺を悟られまいとする。しかし、相手もそこまで間抜けじゃない。動揺を見抜き、頭の中にメモをとる。しかし、決してそれは口外しない。
「ありがとうございます。本当に嬉しいです。…早速ですが、質問しても宜しいでしょうか?」
「どうぞ、な、なんなりと聞いてください」
「はい。…セラフィーナ様、私は気になることがあるんです。以前も申しましたが、貴方は男性なのでは無いかと」
【WARNING!WARNING!】
「面白い事を仰いますね。どうして、私が男性であると思ったのですか?」
「セラフィーナ様、貴方がこの街にやってきたのが三年前ですよね?」
「はい…そうですね」
「ちょうどその頃、この街から出ていった一人の少年がいるんです。貴方と同い歳の、金髪青髪の少年。ジョット・バルハートと言います」
「(っ……!?)」
見抜かれた。彼女の言葉はまだ確信を得ていないとはいえ、核心を突いている。彼女の言う通り、ジョットが引っ越したのを装い、トンボ帰りで女装して帰ってきたのがセラフィーナである。
「彼の顔立ちは美形で…貴方にとても似ているんです。私は、貴方がジョット・バルハートなんじゃないかと思ってます。…どうでしょうか?」
「面白いお話ですが…根拠はありますか?私とジョットさんの共通点があったりして?」
「はい。まず、貴方とジョットさんは全く同じ、金髪青目です。よくいる普通のタイプの組み合わせですが、彩度もよく似通っているんです」
なるほど確かに…と言った具合に、自分の伸びた髪の毛を手に取る。地毛を伸ばしているのだから当たり前だが。
「それだけなら根拠に欠けますが…貴女が所属している聖教会付属の孤児院。彼はそこの孤児院出身なんです」
「(げげ、そこまで触れてくるかぁ…)」
「三年前にいなくなるのとほぼ同時に、セラフィーナ様がやってきた。…すると、こう考えるのが妥当だと思います」
「ジョット・バルハートが、女装してセラフィーナ様になったのではないか?と」
正直な所、セラフィーナは感心していた。彼女はどんぴしゃり、自分の境遇を完璧に言い当てた。余程優れた探偵なのだろう。けれど、彼女に悟られる訳にはいかない。
「ふふ、とても筋が通っていますね。けれど、それは間違いですよ?」
「…そうなのですか?理由を聞いてもよろしいですか…?」
「ええ。ジョットは私の…双子の弟なんです」
「「(……ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?!?!?!?!?)」」
驚いているのは、従者二人に探偵一人。鳩が豆鉄砲くらったような顔してるフィンに対して、従者の二人はもはやめん玉飛び出るんじゃないかってくらいポカーンとしている。
「私とジョットは、親が死別し…別々の場所に引き取られたきょうだいなんです」
双子であれば。双子であれば、髪色が瞳の色が似ている事も問題なく通せる。自然に口から溢れてくる嘘は、もはや真実の様である。
「……そうでしたか…すみません、辛いことを思い出させてしまって…」
「いえ。大丈夫ですよ。物心ついた時にはもう親はいませんでしたから」
そこは嘘ではない。嘘ではないが…平然と偽の弟の存在を語る姿は、今まで見てきたセラフィーナとは違う「黒いもの」が垣間見えた。
「ジョットはこの街で孤児として暮らしていましたが…私の引き取り手であるラガザハート家に男手が必要になり、急遽、力のない私と入れ替わりで彼が引っ越す事になったのです」
「……なるほど…でしたら、確かに筋が通っています。それを証明できますか?」
「できますよ。よろしければ、今度の安息日に隣国のアンダンティを訪ねてみてください。ラガザハート家に行けば、ジョットもいると思いますので」
安息日と言えば、セラフィーナが結界を生成する日でもある。職務を行っているセラフィーナはこの国から離れる事が出来ないため、彼の存在はそのままセラフィーナ=ジョットでは無い、という事の証明にもなる。
「…畏まりました。私から聞きたいことは以上です。セラフィーナ様から、私になにか言っておきたい事はありますか?」
「そうですね…隣国と言っても、魔物が多いですから、行かれるなら道中お気を付け下さい」
「…ありがとうございます。ボディーガードでもつけて行きますよ」
「はい、お気を付けて。また来てくださいね、フィンさん」
「ありがとうございます。セラフィーナ様。今度はサインでも貰いに来ますね」
ごくり、と用意された紅茶を飲み干して、フィンは礼儀正しく席を立つ。嘘をついているとしたら、あまりにも脆弱。ラガザハート家が実在するのか。そもそもジョットという人物がいるのか。なんにしても、確かめれば済む話。フィンがすべき事は決まっていた。
「(…早速ですが…セラフィーナ様の言う通り、アンダンティに向かってみましょう)」
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