ヒネクレモノ

亜衣藍

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 ハッキリ言って、クイズとバラエティと歌番組を無理やり合わせたような、無茶苦茶な構成だ。
 だが、歌手が必死に持ち歌を歌おうとする様子が滑稽で、数字が取れている人気番組ではある。
 それは分かるが、だが、どうして実力派の自分がそんなのに出演しなければならないのだ!

「笹山さん、オレ、絶対出ないから」

 ユウはそうキッパリ言うと、この話はこれでお終いというように台本を閉じた。

「ユウ!」

「だいたい、この共演相手もオレの半分しか生きてないような女の子じゃないですか。司会役のアイドルも似たようなモンだし。もっと、ちゃんとした大人の仕事を頼みますよ」

 ユウは台本を突き返そうとする。
 しかし、笹山マネージャーは受け取らない。

「ちょっと、笹山さん?」
「……」

 マネージャーは溜め息をつくと、イスから立ち上がってユウを睥睨した。
 いつにない険しい様子に、ユウは不審な眼差しを向ける。

「どうした、笹山さん?」

 ユウの問いに、マネージャーは苦り切った声を漏らした。

「それじゃあ、もう君には、今後一切仕事は無いよ」

「は?」

「あれもイヤ、これもイヤ、それで今までここまで来られた事自体、奇跡だと思うけどね。でも、もうウチの事務所では君に紹介できる仕事はないんだよ。これまでは、社長に僕が何とか言って繋いでもらっていたけど、君はこのままでは、事務所は契約更新しない方針なんだ」

 いつもはやんわりと笑っている温和な笹山マネージャーの厳しい口調に、ユウはゆっくりと青ざめていく。

 事務所は契約更新しない。
 つまり、このままではクビという事だ。

「……そんなっ! オレはミリオンだって出した実力派の……」
「それって、いったい何時の話だ! もうずっと昔だろ!」

 痛いことを突いてくれる。
 確かに、ユウが誇るかつての輝かしい栄光は、もう十年以上前の話になる。

「……でも、仕方ないじゃないか! 今はCDが売れない時代なんだ。オレだけじゃない、ミュージシャンは皆苦心している。そうそうミリオンなんて、もう誰も……」

「君が、さっきからバカにしているMCのジャリタレアイドルは、先月そのミリオンを達成したぞ」

「だけど、それはっ!」

 ムッとして、思わずイスを蹴って立ち上がりそうになったユウの肩に手を置き、笹山マネージャーは言い繕う。
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