ヒネクレモノ

亜衣藍

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――――それはとても残酷な現実であるが。

 子役の多くは淘汰され、もうほとんど業界には残っていない。

 なかには、枕営業も辞さずに身体を張って業界に残ろうとした女も男もいたが、本人たちの捨て身の努力も実らず、結局はこの業界を去っている。
 成長と共に仕事は減り、どんなに足掻いても爪痕を残すことが出来ずに消えていく同業者たちの背中を見ては、零は恐怖を感じた。

 煌びやかで華やかな芸能界の裏にある、過酷なほどの無慈悲さに、零は震えた。

 だが、枕という方法まで選んで、この無慈悲な世界へ残ろうと足掻いた彼ら彼女らを、零は軽蔑しようとは思わなかった。

 この世界で生き残りを賭け、戦って、敗れて去ったのだ。
 その気持ちが痛い程分かるだけに、それを無様だとは思えない。

 自分は、たまたま幸運だっただけだ。

 だが、そう割り切っている筈の『枕』が、どうして畠山ユウに限って許せないのか。

 真偽を抜きにしても、ユウをネタに嘲笑される事が、耐えられない程怒りが湧いて来る。
 自分でも正直言って理不尽だとは思うが……未だに、その正確な答えが出せないでいた。
 芸能界なんて、清濁併せ吞むのが常識なのに。

――――御堂社長に恫喝されてもこの情熱が収まることは無く、己の感情の答えが解らないまま、零は夢遊病者のようにユウの姿を追っていた。

 気味が悪いと嫌われ、避けられているのも十分承知していたが、それでもユウを求める気持ちは一向に静まらない。

 落ち目の歌手だの、アラサーだの、もう誰も彼に言わないでほしい。
 ユウの心がとうとう折れてしまい、本当に業界から去ったらどうしようと考えるだけで、零は不安で夜も眠れない。

 ユウの事を想うだけで、胸が痛くて苦しくて仕方がない。

「オレはただ、歌を続けるユウさんを傍で見ていたいだけなんだ」

 苦悩の表情を浮かべる零を見遣り、明と美央は深い溜め息をついた。

「……お前、それ、どう考えても惚れてるんだよ。もうそれ以外ないじゃん」

「憧れが本気に変わるというのは時々聞くがな。やはり零も、そのパターンか? ゴーパラ収録のとき、畠山ユウが歌っている姿に釘付けだったのを知っているぞ」

 明のその指摘に、零は真っ赤になった。
 これが惚れているというのから、確かにそうなのかもしれない。
 恍惚の表情で歌うユウを一目見たときから、零はずっと心を捕らわれ続けている。

(……そうなのか? ファンという立場を超える程ユウさんが好きだから、そのユウさんが御堂聖と仲が良い現状が気に食わないのか?)

 それが答えなら、自分でもこの訳の分からない感情の説明が付く。

 ユウが好きだから、こっちを見てもらいたい。
 別の男になんて目を向けないでほしい。
 ずっと一緒にいてほしい。

(ユウさんのマンションにまで押しかけて、事務所移籍の本当の経緯を確かめようとしたのは……御堂聖社長にヤキモチを焼いたからか?)
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