76 / 101
13
13-4
しおりを挟む
「あの、うるさいハエのような金髪のガキの件はどうします? 裏から手を回すのはいつでも出来ますが」
「もうどうでもいいよ。っていうか、二度と会いたくないと思っていたし」
ジュピタープロも辞めるのなら、もう聖の名を出して釘を刺すのは意味もない。
それどころか、Triangleとは局で顔を合わせる事も今後無くなるだろう。
(聖さんの傍はやっぱり居心地がよくて……つくづく甘え過ぎたな。だから、最初から頼っちゃダメだって、自分でもあんなに思っていたのに)
この数か月間、夢のように幸せだった。
カムバックの夢想に浸り、少しずつ入るようになった歌の仕事をしながら、ただ現実味のない夢を見ていた。
だがそれは、聖によって用意された夢の揺りかごで。
全ては偽りの世界だった。
(新曲? なにが、夏らしい軽やかな曲だ? そもそも、それを本当にオレが作ったところで、誰が聴いてくれるっていうんだよ……)
誰もいなくなった室内で、ユウは静かに嗚咽を漏らした。
◇
その後、スタッフ達から事の顛末を聞いた聖は激怒した。
「お前たち、ユウにそんな事を喋ったのか!!」
腹の底から恫喝するような声に、皆、青くなって震えあがる。
「し、しかし、社長! これは、畠山も納得したことです! 彼は辞退すると」
「黙れっ!」
ガラスの灰皿が飛び、床に叩きつけられ粉々になった。
先程まで反旗を翻そうとしていたスタッフたちは、聖のあまりの剣幕にただただ恐れおののく。
「オレは、歌謡祭にユウを出すと言ったよな? 違うか!」
「は、はい……ですが……」
「決定は取り消すつもりはない。文句があるなら、今すぐジュピターを辞めろ!」
「そんな……社長っ!」
長年ジュピタープロに付き添ったスタッフ達よりも、移籍したばかりの愛人を優先するのか?
承知しかねる事態に、だが、聖の怒りを恐れスタッフ達は押し黙った。
その面々に、重ねるように聖は言う。
「いいな? ジュピタープロは、畠山ユウで変わらない。インディーズバンドのプロデビューは、もうしばらく先だ。わかったな? 二度目はないぞ」
射殺すような眼光鋭い眼差しに、反論は完全に封じられた。
聖は忌々しく舌打ちすると、苦し気に眉根を寄せる。
(こいつら、軽々しくユウを傷つけるようなマネしやがって! あいつがどんなにショックを受けた事か!)
「もうどうでもいいよ。っていうか、二度と会いたくないと思っていたし」
ジュピタープロも辞めるのなら、もう聖の名を出して釘を刺すのは意味もない。
それどころか、Triangleとは局で顔を合わせる事も今後無くなるだろう。
(聖さんの傍はやっぱり居心地がよくて……つくづく甘え過ぎたな。だから、最初から頼っちゃダメだって、自分でもあんなに思っていたのに)
この数か月間、夢のように幸せだった。
カムバックの夢想に浸り、少しずつ入るようになった歌の仕事をしながら、ただ現実味のない夢を見ていた。
だがそれは、聖によって用意された夢の揺りかごで。
全ては偽りの世界だった。
(新曲? なにが、夏らしい軽やかな曲だ? そもそも、それを本当にオレが作ったところで、誰が聴いてくれるっていうんだよ……)
誰もいなくなった室内で、ユウは静かに嗚咽を漏らした。
◇
その後、スタッフ達から事の顛末を聞いた聖は激怒した。
「お前たち、ユウにそんな事を喋ったのか!!」
腹の底から恫喝するような声に、皆、青くなって震えあがる。
「し、しかし、社長! これは、畠山も納得したことです! 彼は辞退すると」
「黙れっ!」
ガラスの灰皿が飛び、床に叩きつけられ粉々になった。
先程まで反旗を翻そうとしていたスタッフたちは、聖のあまりの剣幕にただただ恐れおののく。
「オレは、歌謡祭にユウを出すと言ったよな? 違うか!」
「は、はい……ですが……」
「決定は取り消すつもりはない。文句があるなら、今すぐジュピターを辞めろ!」
「そんな……社長っ!」
長年ジュピタープロに付き添ったスタッフ達よりも、移籍したばかりの愛人を優先するのか?
承知しかねる事態に、だが、聖の怒りを恐れスタッフ達は押し黙った。
その面々に、重ねるように聖は言う。
「いいな? ジュピタープロは、畠山ユウで変わらない。インディーズバンドのプロデビューは、もうしばらく先だ。わかったな? 二度目はないぞ」
射殺すような眼光鋭い眼差しに、反論は完全に封じられた。
聖は忌々しく舌打ちすると、苦し気に眉根を寄せる。
(こいつら、軽々しくユウを傷つけるようなマネしやがって! あいつがどんなにショックを受けた事か!)
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
21
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる