ヒネクレモノ

亜衣藍

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 密かに金も送ったが畠山からは全て返されてしまい、聖は無力感に打ちのめされた。

 だが、祖父母に引き取られたユウが、中学を卒業したら進学せずに歌手を目指して上京するつもりらしいと耳にした時、聖は決心した。

 これまで何もしてやれなかった分、今度こそたっぷりと愛情を与えようと。
 世界一、幸せにしてやろうと。

 身辺を整理して少しづつヤクザ稼業から身を引き、芸能事務所の社長に収まったのも元々はこのためだ。
 裕子は、生徒に対し分け隔てなく接し、子供好きで思いやりのある優しい女であったのに、聖と出逢ってしまった為に、その人生は大きく捻じ曲がってしまった。
 真反対の女に変貌してしまった裕子は『アゲハ』になり、何の罪もないハズの我が子はゴミと汚物にまみれて危うく死にかけるところだった。

 その罪を、今度こそ清算出来ると思った。

 しかし意に反し、ユウは聖の用意した事務所ではなく、路上でスカウトされた七虹プロと契約してしまった。

 やはり、聖を恨んでいるのか?
 それとも、幾ら老舗とはいえ地回り上がりの芸能事務所では嫌だったのか?

 年甲斐もなく意気消沈していたら、ユウは朗らかに笑って答えた。

「そんな理由じゃ無いよ。男なら、自分の力でどこまでやれるか勝負したいじゃないか。最初からあなたに頼ったら、インチキになってしまう」

 それからすぐに、ユウはミリオン歌手となり華々しく芸能界で輝いた。
 やがて十五年の時が経ち、ユウは三十歳になった。聖は四十三歳になっていた。

 芸能界には、毎日昇ってくる太陽のように、華やかなアイドルたちが次々と台頭する。
 反対にユウは、ゆっくりと沈んでいく太陽のように、徐々に輝きを失っていった。
 そのユウを、ただ一途に聖は見守っていた。

(ジュピタープロも大きくなった事だし、ようやく今度こそ、オレでも役に立てるチャンスが来たと思ったんだが……)

 その手を振り払い、愛しい我が子は、自分の力で再度飛ぼうとしている。
 親としたら、懐に抱え込んでずっと護ってやりたいと思うが……本当は背中を押してやった方が正解なのだろう。


――――さぁ、飛べ! と……。


「オレもいい加減に、子離れする潮時なのか……まったく、親ってのは、切ねぇもんだなぁ……」

 聖はそう言うと、静かに寂しそうに微笑んでいた。

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