ナラズモノ

亜衣藍

文字の大きさ
上 下
28 / 102
7

7-2

しおりを挟む
「ああ、あの人も相変わらずです。頭も切れるんですが、周りの反発も多くて……やり方を巡って、昔ながらの極道の親父さんとは、度々衝突しているようですね。御堂さんも囲われ者から解放されたハズなんですが、未だに固執して放そうとしないらしいです」

「そう、か……」

 舎弟からの報告を受け、男は複雑な表情を見せる。

 御堂聖と初めて会った時から、十年以上が経つ。

 だが、未だにあの男が何を考えているのか分からない。

 あれだけ天黄正弘の信任が厚いのに、それを無下にして、大学に通ってカタギを振舞おうとしたり、芸能事務所の社長に就こうとしたり。

 東堂三郎との一件では、色事をあれだけ嫌がっていたというのに、すっかり豹変して青菱の囲われ者になったり。

「本家では、兄貴の出所祝いの用意をしてあります。返す返すも、お勤めご苦労さんでした」

「おう」



 そう言うと、近藤こんどういかりはフゥと息を吐いた。

   ◇

 今宵の聖は、様子がおかしかった。

 いつもならば、絶対に声などもらすものかと歯を食いしばって、加虐な責め苦に意地でも耐えるのに、その意地をはなから放棄したように、ただ切ない声を上げて鳴いている。

 首筋、わきの下、脇腹と、弱いところを立て続けに責めると、頬を染めて涙をこぼす。

 薄紅の胸の尖りを強く吸ってやると、白い喉をのけぞらして喘ぐ。

 最初から抵抗はなく、ただ与えられる快楽に縋るように、あえかな声をもらす。

「もっと……もっと、強く――! 」

――――オレを壊してくれ……。

 快楽の中で、悲鳴のような声を上げ、ただ咽び泣く。

 儚い桜の花びらのように散る涙と、白く滑らかな肉体。

 抱いても抱いても、まだ足りない。

 ひと時も満足する事ができない。

 いくら肉を穿ち、最奥を突いても、決して充足感は訪れない。

 この手にあるのに、まるで、霞のようにすり抜ける夢幻のようだ。

「あ、あっ! 」

 幾度目かの絶頂を迎え、その背中が弓のようにしなる。

 強烈な締め付けと、この世のものとは思えぬくらいの快楽に、青菱史郎も咆哮をあげる。

「くぉっ――! 」

「あぁっ!! 」

 芳しい汗の香りと、かすかに塩の味がする涙。

 史郎は顔といわず体といわず、聖の全身を口にする。

 厚い舌を這わせ、唇を合わせて強く吸い上げる。

「ん、んっ」

 溢れる唾液も、全てを飲み干す勢いで吸い、舌を絡める。

 苦し気に表情を歪ませる聖の、眦に浮かぶ涙も全て舐め上げる。

 やがて弛緩した身体から己を引き抜く事もせず、そのまま横倒しに抱え込み、クシャクシャになったシーツの上で重なり合う。

 聖はヒクヒクと震え、虚ろな表情のまま、史郎の腕の中でまた涙をこぼした。

「――今日は、どうした? 」

「……」

「何度も抱いたが、まるで全然違う人間を犯している気分だ。どうしてだ? 」

「――オレだって――たまには、そんな時もあるんだ」

 そう小さな声で答えると、聖はかすかに身じろいだ。

「あっ……」

 未だ、奥深く打ち込まれたままの楔に、聖の身体がヒクリと反応する。

 綺麗な芯が、ゆるやかに震える。

 ほんのりと染まっていた身体が、また鮮やかな紅色に変わる様子に、史郎の楔もまた硬度を取り戻す。

 ああ、この身体は猛毒だ。

 この毒に侵され、中毒患者になってしまった気分だ。

「くそっ! お前の身体は、キリがない」

「あぁ――強いっ……! 」

しおりを挟む

処理中です...