ナラズモノ

亜衣藍

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「殉職の為二階級特進……オレと同じ警視として大々的に葬儀を執り行う予定だったが、それは叶わなかったな――――」

 綾瀬塔矢は、亡くなった親友、石井達郎警部補の制服姿を写した遺影を眺め、沈痛な面持ちで呟いた。

 写真の中の彼は、刑事としての誇りに満ち溢れて、輝いて見える。

 だが彼は、もはや、殉職した悲劇の英雄ではない。被疑者死亡のまま書類送検される、憎むべき犯罪の容疑者――そして、花蓮の仇だった。いや、もしかしたら、綾瀬の方こそが、達郎にとっての憎むべき仇敵だったのかもしれない。

 解剖の結果、花蓮の体内には命が宿っていた。それは綾瀬の子ではなく、達郎の子だったのだから。

「――綾瀬警視」

 背後から遠慮がちに声を掛けられ、静かに振り向くと、心配そうな顔をした部下が綾瀬を見つめていた。

「その……携帯電話の通信記録と物証も上がったと、鑑識から報告がありました」

「そうか……」

「ブツは合法ドラッグです。巷で最近急速に広まっているモノです」

「元締めは? 」

「はい、睨んだ通り【黒龍】です。半グレ連中ですよ。やはり、ただの強盗窃盗団ではなかったようです」

「そう、か――」

「しかし、ヤクザの青菱組も係わっているのではいかという疑惑も、綾瀬警視のおっしゃる通り見つかりました」

「だろうな。その合法ドラッグは、青菱会系の縄張りで主に流通している。半グレが調子に乗って売り捌くには、奴らの顔色を窺わないと不可能だ」

 デスクに広げた広域地図には、〇や×など色々な印が付けられている。

 それを指で追い、綾瀬は呟く。

「――ここの所頻発している放火も、関係がありそうだ」

「はい? 」

「調べろ。黒龍メンバーは分かっているな? 」

「ああ、はい。主力メンバーは……以前、家裁送致になった三名は割れています」

 二十歳前後の、善悪の判断も未熟な少年たちが殆どのようだ。

 地図を睨みながら、綾瀬は苦々しく言う。

「ガキの集団か――…さては、本職を舐め過ぎたか? 多分、そこが放火に遭っているな。家族か親戚か分からないが」

「はっはい! 小林を連れて直ぐに捜査に向かいます! 」

 綾瀬の指示に、部下はすぐさま反応する。

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