ナラズモノ

亜衣藍

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 銃の暴発という事で一旦はその場を収めたが、話をそこで止めるにも限界がある。

 消音機を付けていたので発砲音は周囲に響き渡りはしなかったが、多数の目撃者もいる。


――――全弾、民間人に当たらぬよう逸らした場所に放たれたとはいえ、無罪放免とはいかない。


 ここは日本だ。アメリカではない。

 警察官が銃を発砲するにも、厳しい制約が設けられている国なのだから。

 綾瀬に発砲された男達は余程ショッキングだったのか、失禁したり泡を吹いて気絶したりしていた。

 気紛れで殺されるかもしれない恐怖を、骨の髄まで味わったようだった。

 これを切っ掛けに、もしかしたらピーターパンの成り損ないのようなバカな男達も現実を受け入れて、己の浅はかさを悔い改め、半グレ集団からは足を洗うかもしれない。


(本当にそうなったら、こっちの苦労も大分減るんだがなぁ)


 ロビーで物思いに耽っていたら、背後から声を掛けられた。

「工藤警部、状況は? 」

「――若旦那……」

 まさか、ここに来られるとは思わなかった。

 そんな唖然とした声に、綾瀬は苦笑を返す。それは、どこか吹っ切れたような笑みだった。

「あ、あんた――大丈夫なのか? 」

「まぁね。とりあえず、今日までは警視ってことでフルに権限を行使して、何とか乗り切るさ。10時には記者会見がセッティングされているしな」

 朝日が昇ってくるのを、目を細めて眺めながら綾瀬は言った。

「――今日の午後、無理にでも時間を取って達郎の姉に会う事にしたよ」

「? 」

「そこで、全ての決着が付く予感がするんだ」

「そうか……」

 工藤警部はそう言うと、残念そうに肩をすくめた。

「オレは、意外とあんたが好きだったよ。一課のキャリアのエリートなんざ、いけ好かねぇ野郎ばかりだと思っていたが、あんたは最初から違かった」

 過去形で話す工藤警部に、綾瀬は苦笑を浮かべながら小さく返す。



「――どうやらオレには、この商売、いまいち向いてなかったみたいだ。今度は、もっと合っている商売を……ゆっくり考えるよ」


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