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「――――分かりました。聖さん」
素直に言うと、またしても聖は嬉しそうに笑った。
極上の天女のような笑みに、周囲で控えていた医師と看護師と……付き添いの名目で居座り続けている正弘は面食らう。
(参ったな。こんな聖の様子を他の野郎どもが見たら、嫉妬で狂っちまうぜ。坊主の存在は隠した方が無難だな)
しかもユウは、聖の息子なだけあってかなりの美形だ。
それこそ、聖諸共手に入れようと、ナラズモノ達はユウを拐そうとするかもしれない。
(う~ん……聖には悪いが、出来るだけ他人として、当分の間は坊主と距離を取った方がいいかもしれんなぁ)
そんな事を考えていると、聖が少し辛そうに「うっ……」と呻いた。
「何だ? どうしたぃ? 」
「いや、なんでも――」
だが、やはり顔色が悪い。
薬物による悪影響は、肝臓、腎臓、肺、脳などの内臓に及ぶ。昨日生還を果たしたが、さぁそれで全快とはさすがにならない。
聖はこのまま、しばらく入院になる。
「――さぁ、検診と治療の準備を始めますから、ご家族の方はロビーでお待ちください」
医師に促され、正弘とユウはその場を後にした。
◇
「あの、正弘さんは……聖さんとは、どういう関係なんですか? 」
ロビーで缶コーヒーを買い、それを手渡そうとしたところ、当の相手にそう訊かれた。
出逢ったのは、聖が15、正弘が50の時だ。聖が27になった今は、正弘は62になる。
還暦も過ぎた爺になった今、この子にはどういう風に見えるのだろう。
「――どういう風に見えるかぇ? 」
「……お父さん、かな」
ユウの答えに、正弘はハハっと笑った。
「そりゃあいい。オレみてぇな極道に、あんな別嬪の息子がいたら本当に誉なことだぜ――――だが、残念ながら違う。オレは、あいつの初めての男ってだけだ」
「……」
「おっと誤解すんなよ。だからってオレとあいつの間にゃあ色恋なんざねーんだ。そうだなぁ……あいつは中々人に懐かない小虎だが、なぜかオレが気に入っちまってそれ以来居ついちまってンのよ。そろそろ新しい縄張を作りに、古巣を出て行く頃なんだがなぁ」
言ってみて、気が付いた。
そうか、だから聖はあんなに必死になって、カタギになろうとしていたのか。
正弘の手も借りずに、一人で――独り立ちする為に。
「……オレもバカだが、あいつも相当なバカだなぁ」
少し切ない笑いをもらすと、正弘はユウの頭をポンポンと撫でた。
「いずれにせよ、ジュピタープロは仕切り直しだ。社長まで倒れちまった今となっちゃ極道の資本も受け入れなきゃあ御破算だ。あいつにとっちゃあ有難迷惑かもしれんが、あちこちの親分衆が業務提携を申し出ている。もう、生き残るには受け入れるしか道はねぇ。こっから、また軌道修正してカタギに戻すには――まだまだ、何年も掛かるだろうなぁ」
「あの……」
「やっぱり、お前さんも極道は嫌かい? 」
「――オレは正直言って、そんなのどうでもいいです。ただ、歌いたいだけだ。だけど、聖さんの手を借りてまでデビューしたくない。そんな近道は卑怯でしょう」
「おめぇは、親父よりは賢そうだ。だがな、これだけは言っておくぞ」
キッと真顔になり、正弘は言う。
「男一匹。意地を張るのも、根性出して頑張るのもいいが、程々にしておけよ。どうにもこうにも行かなくて進退窮まったら、いつでもてめぇの親父を頼るんだぜ。親父の方は、いつだって息子がそう言ってくれるのを待ってるんだ。変な遠慮なんざすんなよ……」
そうじゃねぇと、親父があんまり可哀想だ。
正弘の言葉に、ユウは頷く。
「はい、そうします。最初東京に来たときは――カネが尽きたら野垂れ死にしようかと思ってましたが……そうなったら、多分、聖さんは……とてもとても悲しむんだろうなと、強く感じましたから」
あれ程までに、愛情を注いでくれる人を裏切ってはならない。
素直に言うと、またしても聖は嬉しそうに笑った。
極上の天女のような笑みに、周囲で控えていた医師と看護師と……付き添いの名目で居座り続けている正弘は面食らう。
(参ったな。こんな聖の様子を他の野郎どもが見たら、嫉妬で狂っちまうぜ。坊主の存在は隠した方が無難だな)
しかもユウは、聖の息子なだけあってかなりの美形だ。
それこそ、聖諸共手に入れようと、ナラズモノ達はユウを拐そうとするかもしれない。
(う~ん……聖には悪いが、出来るだけ他人として、当分の間は坊主と距離を取った方がいいかもしれんなぁ)
そんな事を考えていると、聖が少し辛そうに「うっ……」と呻いた。
「何だ? どうしたぃ? 」
「いや、なんでも――」
だが、やはり顔色が悪い。
薬物による悪影響は、肝臓、腎臓、肺、脳などの内臓に及ぶ。昨日生還を果たしたが、さぁそれで全快とはさすがにならない。
聖はこのまま、しばらく入院になる。
「――さぁ、検診と治療の準備を始めますから、ご家族の方はロビーでお待ちください」
医師に促され、正弘とユウはその場を後にした。
◇
「あの、正弘さんは……聖さんとは、どういう関係なんですか? 」
ロビーで缶コーヒーを買い、それを手渡そうとしたところ、当の相手にそう訊かれた。
出逢ったのは、聖が15、正弘が50の時だ。聖が27になった今は、正弘は62になる。
還暦も過ぎた爺になった今、この子にはどういう風に見えるのだろう。
「――どういう風に見えるかぇ? 」
「……お父さん、かな」
ユウの答えに、正弘はハハっと笑った。
「そりゃあいい。オレみてぇな極道に、あんな別嬪の息子がいたら本当に誉なことだぜ――――だが、残念ながら違う。オレは、あいつの初めての男ってだけだ」
「……」
「おっと誤解すんなよ。だからってオレとあいつの間にゃあ色恋なんざねーんだ。そうだなぁ……あいつは中々人に懐かない小虎だが、なぜかオレが気に入っちまってそれ以来居ついちまってンのよ。そろそろ新しい縄張を作りに、古巣を出て行く頃なんだがなぁ」
言ってみて、気が付いた。
そうか、だから聖はあんなに必死になって、カタギになろうとしていたのか。
正弘の手も借りずに、一人で――独り立ちする為に。
「……オレもバカだが、あいつも相当なバカだなぁ」
少し切ない笑いをもらすと、正弘はユウの頭をポンポンと撫でた。
「いずれにせよ、ジュピタープロは仕切り直しだ。社長まで倒れちまった今となっちゃ極道の資本も受け入れなきゃあ御破算だ。あいつにとっちゃあ有難迷惑かもしれんが、あちこちの親分衆が業務提携を申し出ている。もう、生き残るには受け入れるしか道はねぇ。こっから、また軌道修正してカタギに戻すには――まだまだ、何年も掛かるだろうなぁ」
「あの……」
「やっぱり、お前さんも極道は嫌かい? 」
「――オレは正直言って、そんなのどうでもいいです。ただ、歌いたいだけだ。だけど、聖さんの手を借りてまでデビューしたくない。そんな近道は卑怯でしょう」
「おめぇは、親父よりは賢そうだ。だがな、これだけは言っておくぞ」
キッと真顔になり、正弘は言う。
「男一匹。意地を張るのも、根性出して頑張るのもいいが、程々にしておけよ。どうにもこうにも行かなくて進退窮まったら、いつでもてめぇの親父を頼るんだぜ。親父の方は、いつだって息子がそう言ってくれるのを待ってるんだ。変な遠慮なんざすんなよ……」
そうじゃねぇと、親父があんまり可哀想だ。
正弘の言葉に、ユウは頷く。
「はい、そうします。最初東京に来たときは――カネが尽きたら野垂れ死にしようかと思ってましたが……そうなったら、多分、聖さんは……とてもとても悲しむんだろうなと、強く感じましたから」
あれ程までに、愛情を注いでくれる人を裏切ってはならない。
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