インチキで破廉恥で、途方もなく純情。

亜衣藍

文字の大きさ
15 / 240
9

9-3

しおりを挟む

「正嘉さん、どうしました? 」

 母親の声に、正嘉は不機嫌そうな顔で振り返る。

 正嘉の義理の母であるこの女はまぁまぁ美しいが、ただそれだけだ。

 プライドが高いだけで頭がいいワケでもないし、何か他に秀でた所などあるワケでもない。

 本当につまらない普通のオメガの女だ。

 実家が金持ちでなければ、父親も、絶対にこんな女とは番にならなかったと思う。

 それに、この女は周囲に対して随分と偉そうにしているが、正嘉の父親の子供をまだ一度も身籠っていない。

 正真正銘の、出来損ないのクズだ。

 それならまだ、正嘉の母親の方が上ではないか。

 男体の身で正嘉を産んで、この家の血を繋げたのだから。

「なんだよ、ババァ」

「ばっ――そ、そんな言い方はないんじゃないですか? 私はあなたの母ですよ! 」

「母、ねぇ」

 フンと鼻で笑い、正嘉は身を起こした。

「で、今度はなんだよ? あっちこっちの変な女と見合いばっかりさせてよ。オレ、まだ14だぜ? 分かってんのかよ? 」

 正嘉の言い草に、義母はカッとしたようだ。

 だが、この正嘉は間違いなく青柳家の跡取りだ。

 怒りに任せてヒステリーを起こして騒いでは、自分の方が不利になる。

 下手をしたら離縁され、実家に帰されてしまう。

 出戻りのオメガなど、ただ惨めなだけだ。

――――そう思い直したか、ゴホンと咳払いをすると、義母は妙な猫撫で声に口調を変えて、話し掛けてきた。

「そ、そうですわね。しかし、正嘉さんは立派な家のオメガの女性と、この度正式に婚約しましたでしょう? それについての話しがあると、お父さまがお呼びですよ」

「婚約、ねぇ――」

 そう言えば、数年前にもそんな話があったな。

 正嘉はふとそう思い、話を振った。

「あのさ、オバサン。何年か前にも、オレんちに誰か来たよな? 」

「何です、それは? 」

「う~ん……オメガの婚約者だとか番だとか、そんな事を言っていたな――」

 記憶を手繰り寄せ、正嘉は言う。

「そうそう、確か、すげー地味な顔をしている男でさ。オメガの男は美人が多いって聞いていたから、オレ、ちょっと肩透かし喰らったんだよ、その時」

 でも、どこか――懐かしい気がした。

 地味だが……素朴な容姿に、ふわりとした優し気な眼差し。心地いい声。

 そうだ、記憶の中に残っている母親と、その男は少し似ていたのだ。

 そして――――一体、自分は彼に何と言ったっけ?

 そう回想していたら、フフっという声が聞こえた。

 ムッとして見遣ると、義母がお見通しだというように嗤っていた。

「ああ――――オメガの少年が、5年前に来た時の話かしら? 正嘉さんの婚約者だと言って、結城家がいつまでも粘って……あの時は本当にねぇ、ほほほ」

 ひとしきり笑うと、義母は正嘉に底意地の悪い事を言った。

「さては正嘉さん。この度婚約した御令嬢より、あの時のオメガの少年の方が良かったと思ってるんじゃありません? 」

「っ! 」

「そういえば、あなたの実母も……オメガの――」

「黙れっ! 」

 正嘉は激怒して、バンっと壁を殴った。

 その剣幕に、義母はビクリと固まる。

「な、なっ……」

「このオレが、オメガの男なんて相手にするワケがないだろう! あんまりふざけた事を言うと、この家から追い出すぞ! このクソババァ!! 」

 烈火のように怒る正嘉の声に気付いたのか、世話係の宮内みやうちが部屋へと入室してきた。

「どうなさいました、正嘉さま? 」

「このババァが、オレを侮辱したんだ! 宮内、どう思う!? 」

「侮辱? 」

「オレが、男のオメガに気があるって! キモイ変なこと言ったんだ!! 」

 子供らしい意見に、宮内と呼び捨てられた世話係は宥めるように声を掛ける。

「それはそれは……ですが、お母さまに対してそんな呼び方をしてはダメですよ、正嘉さま」

「宮内も、こいつの味方をするのか! 」

「いいえっ! そういう意味では……」

「じゃあ、お前はオレの味方だな!? 」

「正嘉さま――」

 今度は、宮内と正嘉が揉め始めた。

 しかしその時、義母は二人ではなく、窓から外の様子を見ていた。

――――アレは……。

 ニヤリと笑い、義母は正嘉に向かい直る。

「――それでは正嘉さん。私の前で、今言った事を繰り返せますかしら? 」

「なに? 」

「ふふ……」

 嫌な笑い方をすると、義母は暗い窓の外を指差した。

「あの人物に、見覚えがあるんじゃありませんか? 」

 何を言っているんだ――と思いながらその方向を見遣ると、門の前でインターフォンに向かい何か必死に喋っている人物の姿が目に入った。


(あいつは……? )


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる

虹湖🌈
BL
死にたかった僕を、生かしたのは――あなたの声だった。 滅びかけた未来。 最後のオメガとして、僕=アキは研究施設に閉じ込められていた。 「資源」「道具」――そんな呼び方しかされず、生きる意味なんてないと思っていた。 けれど。 血にまみれたアルファ騎士・レオンが、僕の名前を呼んだ瞬間――世界が変わった。 冷酷すぎる彼に守られて、逃げて、傷ついて。 それでも、彼と一緒なら「生きたい」と思える。 終末世界で芽生える、究極のバディ愛×オメガバース。 命を懸けた恋が、絶望の世界に希望を灯す。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

ほたるのゆめ

ruki
BL
恋をすると世界が輝く。でもその輝きは身体を重ねるといつも消えてしまった。そんな蛍が好きになったのはオメガ嫌いのアルファ優人だった。発情したオメガとその香りを嫌悪する彼に嫌われないように、ひたすらオメガである事を匂わさないようにしてきた蛍は、告げることの出来ない思いに悩んでいた。 『さかなのみるゆめ』の蛍と(木佐)優人のお話です。時間軸的には『さかな・・・』のお話の直後ですが、本編主人公達はほとんど出てこないので、このお話だけでも楽しめるかと思います。けれど『さかな・・・』の方も読んで頂けると幸いです。

今からレンタルアルファシステムを利用します

夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。 ◆完結済みです。ありがとうございました。 ◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

僕がそばにいる理由

腐男子ミルク
BL
佐藤裕貴はΩとして生まれた21歳の男性。αの夫と結婚し、表向きは穏やかな夫婦生活を送っているが、その実態は不完全なものだった。夫は裕貴を愛していると口にしながらも、家事や家庭の負担はすべて裕貴に押し付け、自分は何もしない。それでいて、裕貴が他の誰かと関わることには異常なほど敏感で束縛が激しい。性的な関係もないまま、裕貴は愛情とは何か、本当に満たされるとはどういうことかを見失いつつあった。 そんな中、裕貴の職場に新人看護師・宮野歩夢が配属される。歩夢は裕貴がΩであることを本能的に察しながらも、その事実を意に介さず、ただ一人の人間として接してくれるαだった。歩夢の純粋な優しさと、裕貴をありのまま受け入れる態度に触れた裕貴は、心の奥底にしまい込んでいた孤独と向き合わざるを得なくなる。歩夢と過ごす時間を重ねるうちに、彼の存在が裕貴にとって特別なものとなっていくのを感じていた。 しかし、裕貴は既婚者であり、夫との関係や社会的な立場に縛られている。愛情、義務、そしてΩとしての本能――複雑に絡み合う感情の中で、裕貴は自分にとって「真実の幸せ」とは何なのか、そしてその幸せを追い求める覚悟があるのかを問い始める。 束縛の中で見失っていた自分を取り戻し、裕貴が選び取る未来とは――。 愛と本能、自由と束縛が交錯するオメガバースの物語。

処理中です...