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七海が入院している病院を訪れ、いつも通りにステーションで面会の申請をしてから、オメガの仲間と病棟へ入った。
七海達樹は、奏達オメガを死の恐怖から救った英雄だ。
オメガの誰もが、彼を尊敬して、心から感謝をしている。
七海は未だに目を覚まさないが、途切れることなく誰かが面会に訪れるので、ここは病棟にもかかわらず寂しいという雰囲気とは無縁だ。
見舞いに訪れる同士、意外と知り合いとよく出会うので、互いに話し込んだりして常に賑やかである。
今日、奏は同僚の辺見と、大学から付き合いのある大間太一との三人で訪れたが――……。
「あ……誰か来てますね? ヤン助教かな? 」
眠ったままの七海を見下ろしている、長身の男性の背中が視界に入り、奏は声を掛けようと口を開きかけた。
「こんにちは、ヤ……」
だが、振り返ったその顔は、予想した人物とは大きく異なっていた。
奏の眦が、ピクリと吊り上がる。
「――――理事長……」
その男は、A大の理事、九条凛だった。
そして、七海が襲われた大学側の当事者であり、かつて、七海に求婚していた筈の男でもあった。
九条は、奏達に視線を向けると、少しだけ口許へ笑みを浮かべた。
「やぁ……君達は、ここによく来ているようだね。これなら、七海も寂しくないだろうな……」
「……どうしてあなたがここにいるんですか? 」
奏の硬い声に、九条は苦虫を潰したような顔になる。
「私が見舞いに来るのは、おかしいか? 」
「ええ、異常ですね」
奏の硬い声に、一緒に来た仲間達も同様の反応を取った。
「七海先輩に止めでも刺しに来たのか? 」
「あんた、何のつもりだっ! 」
七海を襲った犯人は、警察も大学側も分からないの一点張りだが、奏達は目星をつけている。
この、九条凛の息子である、九条采が凶行に及んだ犯人であろうと。
それならば、全て合点がいく。
露骨過ぎる大学側の態度も、警察の対応も。
――――九条采が、七海をこんな目に遭わせた首謀者に違いない!
(息子可愛さに、大学ぐるみで犯行を隠ぺいしているクズ野郎だ。こんなヤツが、七海先輩に面会に来るなんて――裏があるに決まっている! )
もはや、素直に人を信じて幸せに微笑んでいた頃の奏ではない。
奏は怨念を込めた眼で、九条を睨み上げた。
「何しに来た? ここの院長はオメガで、僕達の味方だ。大学のように、お前達の凶行を隠す事なんて出来ないぞ」
「――七海には、悪いことをしたと思っている」
九条は、奏の詰問に、静かな口調で答えた。
「まさか、大学区内であんな事件が起こるとは思わなかった――もっと早く、私が手を打っていれば……」
心から悔やむようなセリフであるが、しかし奏はそう簡単に騙されない。
――――アルファなど、二度と信じるものか!
「…………それならなぜ、あなたは捜査に協力しないんですか? カメラの映像くらいあった筈だ。でも、あなたはそれを隠ぺいした。それはつまり、あなたの身内が犯行に関わっていたからなのではないですか? 」
奏の探るような言葉に、九条は苦い口調で言った。
「――――やはり、君達は私の息子の采を疑っているようだね」
「当たり前だ! 」
これに、奏の後ろで九条を睨んでいた辺見達が声を上げた。
「あんたのバカ息子は、事ある毎にA大学に来ては、堂々とオメガの排斥を吹聴していたじゃないか! 七海先輩がこんな目に遭ったのは、絶対にあんたの息子が係わっているに決まっている! 」
「そうだ! アルファやベータのゴロツキを集めて、一人でいた七海先輩を襲ったんだろう! この人でなし共めっ!! 」
奏を始めとする彼らは、全員オメガだ。
今まで、七海と似たような目に遭ってきただけに、目の前の九条に憎悪の感情が募る。
「――お前たちは、オレ達オメガの男が相手だったら、何をしても許されると思っているんだろう! 」
仲間たちの憎悪に背中を押され、奏は怨念を込めた眼で九条を睨み付ける。
「……そうさ、お前たちは――僕らのようなオメガは、この国の社会医療保険を圧迫する害獣だとでも見做しているんだろう? 発情抑制剤に保険が適用される決定の時も、堂々と反対するヤツらの声は大きかったからな」
「……」
「僕達は、免疫研究でそれを緩和する方法を模索している。これは、七海先輩が元々研究していたものだ。この人は――」
静かに眠っている七海を見下ろし、奏は声を振り絞る。
「――僕達の為に、自分を犠牲にしてきたんだ! 」
「『犠牲』? 」
「最初の薬を開発した時――――七海先輩は、取り返しのつかない程のダメージを、その身体に負ってしまっていた……あなたも、当然知っているでしょう? 」
奏はそう水を向けたが、九条は訝し気な表情を浮かべた。
「ダメージ? 何の事だ? 」
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