インチキで破廉恥で、途方もなく純情。

亜衣藍

文字の大きさ
77 / 240
22

22-4

しおりを挟む
 もしも、それを訊いて――――そんな事は考えていないと言われたら?

 何をバカなと一笑いっしょうされて、ただの恋人で充分ではないかと言われたら、どうすればいいのだろう。

『そうですよね』

 奏も笑って、そう言えばいいのだろうか?

 それとも、正直に……恋人となるのならば、僕は正式に番になりたいと言えばいいのだろうか? 

 確かに、番にならないままに子供だけ設けるペアも多いが……。

 分からない。

 何が正解なのだろうか?

 それに、栄太に居るであろう他所の愛人は? 子供はいるのか? 

 踏み込んで、それを訊いていいのか、悪いのか?

(ああ――栄太さんと向き合う気もなかった、少し前の僕だったら、こんな事考えもしなかったし悩みもしなかったのに)

 いざ、真剣に付き合う事にしようか――――そう決心を固めようとした今になって、この根幹で躓くとは。

(今日は――――栄太さんから……番になろうと、申し込まれると思っていたのに――)

 今のところ、栄太にその動きはない。

 栄太から指輪をもらってはいるが、それだけで番の契約になるワケがない。

――――首の後ろを噛んでもらい、そこで晴れて番となるのだから。

 躊躇ためらいながら、奏は口を開く。

「栄太さん……あの……」

「ん? どうした? 」

「――――つ、つが――」



――――トゥルル・トゥルル



 そこで、栄太の電話が鳴った。

「ああ、すまない。ちょっと――」

「あ、どうぞ! お構いなく」

 ちょっとホッとして、奏は、電話を優先するように微笑む。

 栄太は『申し訳ない』というように軽く頭を下げると、電話を手に席を外した。

 奏はそれを見遣りながら、深く息を吐く。

(良かった……思わず言ってしまいそうになった――)

 こちらからこういった話題を口にするのは、とてもはしたない事だ。

 ひどく、みっともない事だ。

 決して、こちらから催促するような事を言ってはならない。

 あるじの寵愛が冷めないように、いつも愛らしく微笑み、控え目を心掛け常に一歩下がって仕えなければ。

 そう繰り返し、強く教育された――――と思い、そこでハッとする。

(ああ、そうだ……アルファの正嘉さまに嫁ぐのだから、相応しくあれと散々教育されたんだ。僕は……未だにあの時の言い付けを守っているのか……)

 何と滑稽な事だろう。

 結城家で受けた、呪いのような教育は奏の中に根付き、完全に彼の世界観を支配している。

(もっと、自由に――思ったことを色々喋ってもいいんだろうか? )

――――嫌われないか? 愛想をつかれないか? 

 意地汚いオメガだと侮蔑され、去られるのではないか?

 やはりその可能性を考えると、どうしても怖くなってしまう。

 奏は……栄太の事を、徐々に好きになって来ているから。

 その矢先に、嫌われて背を向けられるのは耐えられない。

 先週、栄太はとても優しく接してくれた。

 そして優しく、愛撫してくれた……。

 初めての時の恐怖と苦痛を思い出して委縮する体と心を、根気強くかしてくれた。

 奏は――――とても恥ずかしかったが、それ以上に幸せな気分を味わった。

 今、余計なことを言って、あの時の思い出に泥を塗りたくない。

 奏は…………愛される、幸せなオメガのままでいたいのだ。

(やっぱり、ダメだよ……番いになる気はあるのかなんて、こっちから訊いたら……重い奴だと思われたり、焦っているって受け取られて、嫌われてしまうかもしれないじゃないか)

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる

虹湖🌈
BL
死にたかった僕を、生かしたのは――あなたの声だった。 滅びかけた未来。 最後のオメガとして、僕=アキは研究施設に閉じ込められていた。 「資源」「道具」――そんな呼び方しかされず、生きる意味なんてないと思っていた。 けれど。 血にまみれたアルファ騎士・レオンが、僕の名前を呼んだ瞬間――世界が変わった。 冷酷すぎる彼に守られて、逃げて、傷ついて。 それでも、彼と一緒なら「生きたい」と思える。 終末世界で芽生える、究極のバディ愛×オメガバース。 命を懸けた恋が、絶望の世界に希望を灯す。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

ほたるのゆめ

ruki
BL
恋をすると世界が輝く。でもその輝きは身体を重ねるといつも消えてしまった。そんな蛍が好きになったのはオメガ嫌いのアルファ優人だった。発情したオメガとその香りを嫌悪する彼に嫌われないように、ひたすらオメガである事を匂わさないようにしてきた蛍は、告げることの出来ない思いに悩んでいた。 『さかなのみるゆめ』の蛍と(木佐)優人のお話です。時間軸的には『さかな・・・』のお話の直後ですが、本編主人公達はほとんど出てこないので、このお話だけでも楽しめるかと思います。けれど『さかな・・・』の方も読んで頂けると幸いです。

今からレンタルアルファシステムを利用します

夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。 ◆完結済みです。ありがとうございました。 ◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

僕がそばにいる理由

腐男子ミルク
BL
佐藤裕貴はΩとして生まれた21歳の男性。αの夫と結婚し、表向きは穏やかな夫婦生活を送っているが、その実態は不完全なものだった。夫は裕貴を愛していると口にしながらも、家事や家庭の負担はすべて裕貴に押し付け、自分は何もしない。それでいて、裕貴が他の誰かと関わることには異常なほど敏感で束縛が激しい。性的な関係もないまま、裕貴は愛情とは何か、本当に満たされるとはどういうことかを見失いつつあった。 そんな中、裕貴の職場に新人看護師・宮野歩夢が配属される。歩夢は裕貴がΩであることを本能的に察しながらも、その事実を意に介さず、ただ一人の人間として接してくれるαだった。歩夢の純粋な優しさと、裕貴をありのまま受け入れる態度に触れた裕貴は、心の奥底にしまい込んでいた孤独と向き合わざるを得なくなる。歩夢と過ごす時間を重ねるうちに、彼の存在が裕貴にとって特別なものとなっていくのを感じていた。 しかし、裕貴は既婚者であり、夫との関係や社会的な立場に縛られている。愛情、義務、そしてΩとしての本能――複雑に絡み合う感情の中で、裕貴は自分にとって「真実の幸せ」とは何なのか、そしてその幸せを追い求める覚悟があるのかを問い始める。 束縛の中で見失っていた自分を取り戻し、裕貴が選び取る未来とは――。 愛と本能、自由と束縛が交錯するオメガバースの物語。

処理中です...