インチキで破廉恥で、途方もなく純情。

亜衣藍

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「いや、今回はちょっと違うんだ。別件で――」

「別件? 」

「うーん……お前にはまだ言わない方が良いだろうな……」

 そのセリフにギクッとした。

 例えるなら、女のカンのようなものだろうか?

(とても、嫌な予感がする――――これ以上は、僕は聞かない方がいい)

 咄嗟にそう判断し、奏は話題を強引に切り替える。

「え、ええと! それじゃあ、仕切り直しという事で……また来週末に会いますか? 」

「――ああ、すまないな」

「良いんです、大丈夫ですよ。今日はちょっと、お互いに予定が合わなかっただけです。それじゃあ、ご馳走様でした。僕も、今日はここで引き揚げますね」

 出来るだけ明るくそう言い、奏はイスを引いて立ち上がった。

 栄太は何か言いたい様子だったが、敢えてそれに気付かないふりをして、奏は笑顔で別れを告げる。

「それでは失礼します。近くにバス停があったので、帰りはバスで帰ります」

「すまない、実はオレも急いで帰らないといけなくなってしまった。送ってやりたいが――――タクシーを用意するから、お前はそれで帰れ」

「いえ、バスで……」

「足代も出せない、情けない男にしてくれるな」

 栄太はそう言うと、奏の返事を待たずに手を上げてボーイを呼び、タクシーの手配を頼んだ。

 奏はそれを、弱い微笑みを浮かべながら静観するしかない。

 栄太のこういう強引さは魅力の一つだろうが――――少し迷惑な気もする。

 そう思ってしまう感情を、奏は何とか堪える事にした。

(そうだ。放って置かれるよりも、よっぽどいいじゃないか。不満に思ったらダメだろう、奏! )

 内心で己を叱責し、出来るだけ笑顔を浮かべるようにと努力をする。

「あ、ありがとう――ございます。お陰で、乗り換えしないでアパートへ帰れます」

 そう礼を言い、ペコリと頭を下げる。

 すると栄太は『なに、当然の事だ』と言いながら、せわし気に立ち上がった。

「すまん、オレはこのまま失礼する。じゃあ、奏はタクシーで……」

「はい」

 ホッとして返事をすると、次に、思わぬことを言われた。

「それから、マンションは今月中に手配しておくから、重要な物だけを纏めておけ」

「えっ!?  」

 本気だったのか……と、奏は戸惑う。

 慌てて立ち上がり断ろうとするが、栄太は本当に急用があるらしく、片手を軽く上げて『すまん』とジェスチャーをすると慌ただしく出て行った。

 それを茫然と見送り、奏は溜め息をついた。

 番の話どころではない。

 今日は、普通の会話も満足に出来なかった。

(きっと……今日は本当にタイミングが悪かっただけですよね? まさか、もう――――僕に飽きたとかっていう事はないですよね? )

 仲間の一人が言っていたのを思い出す。

 こちらがOKするまでは色々と気を遣ってくれたり贈り物をしてきたのに、いざ本当に付き合う段階になった途端に、今度は重いだとか言われて捨てられてしまった。

 本気にした自分がバカだったと――――。

(まさか、でもっ)

 奏はブンブンと首を振り、それを頭から追い出そうとする。

(栄太さんは、僕の為にマンションを用意するって言っているんだ。飽きたなんて一言も言ってないじゃないか。こんな悪い方ばかりを考えて、それに栄太さんを当てはめるのは間違っている)

 そうだ、自分は、まだ愛されている筈だ。

 奏は何度も自分にそう言い聞かせると、深く息を吐いた。

(理事長の方は、そろそろ調べがつく頃だろう。来週辺りには――何かしら決着が付くだろうし)

 今も栄太に愛人は居るのか、子供はいるのか?

 場合によっては秘密裏に話し合いの場を設け、どうにかしてこの胸に巣食う不安を取り除きたい。

 そして、今度こそ迷いも躊躇いもなく、栄太と愛し合いたい。

 そうだ、それに――――今回は急用ができてしまい結局その話は出て来なかったが、次こそは『番』の話題が出るのではなかろうか?

 奏はそれを、余裕を持って待っていたい。

 少し緊張した面持ちで、その話をし始める栄太を、穏やかな微笑みを浮かべながら見守りたい。

『――――番に、なってはくれないだろうか? 』

 そうプロポーズする栄太に、頬を染めながら――――

『はい』

 と、返事をかえしたい。

 奏は来週こそは、バラ色の未来が待っていると信じる事にした。



…………信じようと、努力をする事にした。



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