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「今日はもう……本当に疲れたよ――」

 ポツリと呟き、奏はのろのろとソファーから身を起こした。

 帰宅したばかりだったから、まだ部屋のカーテンも閉めていない。

 疲れたが、最低限やる事だけは済ましておかないと。

 取り敢えずは栄太へ、今日のデートの御礼メールを入れてから、明日の実験の準備をして……最低限、パソコンのメールだけでもチェックしなければ。

 研究室の仲間には、実験の進捗状況を、逐一メールで報告するよう頼んである。

 今日はプライベートだから、携帯電話には、余程でない限りは連絡は入れないでくれと頼んでいた。

 だから、全ての要件はパソコンの方へ来ているハズだ。

 奏はパチリと、パソコンの電源を入れる。

 メール受信を見ると、案の定、研究所から幾多のメールが来ていた。

 嘆息しながら、次に開けっ放しのカーテンを閉めようと窓へと近寄る。


 その時!


――――ガシャン!

「わっ!? 」

 窓ガラスに何かが投げ付けられ、蜘蛛の糸のように窓へヒビが入る。

 分厚い窓ガラスは割れなかったが、奏は驚いて、床へ尻もちをついた。

「な、な…………」

 腰が抜けてしまい、奏はガクガクと震えながら、ソファーまで這って行き、そこへ置いたままの携帯電話に手を伸ばそうとする。

 すると、先に固定電話の方が鳴った。

「っ! 」

 心臓が止まるくらいにビックリして、恐るおそる固定電話に目をやる。

 ディスプレイは、非通知だ。

 怖くて無視したいが――――奏は勇気を出して、受話器を取った。

「――はい? 」

『私は警告した』

 電話の向こうからは、女の声・・・・がした。

 聞いたことのない声だ。

「――あ、あなたはいったい誰なんですか! 」

『嫌らしい淫売のクセに、私と同じ言葉を喋るな』

 綺麗だが、凍り付いたように冷たい声だ。

 それに、声からは、何かとても冷ややかな怒りを感じる。

 だが、当然奏には身に覚えはない。

 考えられる事といえば…………そうだ!

「あなたは――――馬淵栄太の関係者なんですか? 」

 震える声で訊くと、電話の向こうからは沈黙が返って来た。

 奏は耐え切れず、答えを促す。

「そ、そうなんでしょう!? 理事は、彼女達は僕の事は眼中にないようだと言っていたけれど……本当は、凄く僕に対して怒っていたんですね!? 」

 栄太の愛人の女性にとっては、やはり恋人である奏は疎ましかったのか!

――――それに、自分より下位である筈のオメガの男に恋人を盗られたのだから……悔しさもあるだろう。

 どうしてあいつ・・・・なんだと、憎んでいるに違いない。

 そう結論を出し、奏は納得した。

(それなら、理解も出来る。栄太さんとの間には子供だっているんだ。母親としたら、僕の存在は目障り以外の何者でもない筈だもの)

 奏はそう思い、落ち着くように深呼吸をすると、意を決して電話へ向かった。

「あの! 僕は――栄太さんと――」

『まぶちえいた? ……ああ、あのベータの男か』

「? 」

『ベータの男なんてどうでもいい。お前にはお似合いじゃないか』

「え? 」

 いったい、何を言っているんだろう?

 奏は混乱を深めた。

「その…………あなたは、栄太さんと愛人の契約を結んでいた方……なんですよね? 」

 そう訊ねると、電話の向こうからは失笑が返って来た。

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