インチキで破廉恥で、途方もなく純情。

亜衣藍

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 しかし奏は、蒼白の顔のまま首を振った。

「いいから! 今すぐあなたを下さい!! 」

 所持していた全ての鎮痛剤を自身へ投与して、奏は待っていたのだ。

――――そう、彼がその身に投与したのは発情抑制剤ではない。

 番以外・・・・と性交をする際に必ず生じるであろう、あらゆる拒絶反応。

 その激痛と苦痛をやり過すために、中毒症状に陥るギリギリの鎮静剤を――――その身へと注射した。

 栄太の胤を、必ず貰おうと。

「早く……! 」

「わ、わかった」

 栄太はそう応じると、大きく奏の足を開いた。

 発情期に入ったオメガは、全身から芳しいフェロモンを放つ。

 それは女も男も関係ない。

 しかしその中でも特に、奏の匂いは別格だ。

 いつもは慎ましやかに閉じている狭隘きょうあいな穴が、ヒクヒクと痙攣しながら誘惑の甘い蜜を滴らせている。

 この芳しい香りを一度でも嗅いだなら、もう他のオメガなど眼中に入らない。

 愛しい愛しい、栄太だけの番――――。


――――だが。


「うヴっ! 」

 栄太の雄芯が後孔へ触れた瞬間、奏が大きくえずいた。

 アルファの正当な正嘉以外と、性交をしようとしているのだ。

 当然、身を切り裂くような苦痛が、華奢なその全身を襲う。

 目は霞み、激しい耳鳴りも起こる。頭は割れそうに痛み、吐き気も堪える事は出来ない。

 奏は苦悶の表情で、蒼白の顔のまま床へと激しく吐瀉した。

 栄太は驚き、慌てて身を引こうとするが。

――――しかし、

「――いいから! 早く!! 」

 奏は鬼気迫る様子でそう言うと、栄太の腰へと足を絡ませた。

「僕の事が好きなら、このまま来てください……! 」

 余程具合が悪いだろうに、奏は目尻に涙を溜めながらそう言った。

 理由も原因も分からないが、とにかく奏が、栄太を命懸けで欲しがっているのは伝わった。

 これ程求められているのに、ここで引くのは逆に卑怯だ。

「……分かった。辛かったら、直ぐに言えよ」

 栄太はそう告げると、奏の願い通りに、逞しい雄芯をその後孔へと挿入する。

「ああっ! 」

 奏の、快感ではない苦悶の声が上がる。

 内臓を圧迫されるような、ただただ苦しい責め苦に奏は涙を零す。

 番以外と、愛し合う行為が――――これ程に辛いとは。

(僕は…………正嘉さまと番いになりたくてなったワケじゃないのに…………)

 涙がひたすらに零れる。

 昔――――奏が十八の時に、青柳の屋敷へと母に伴われて赴いた。

 あの当時は、本当に心の底から、自分は正嘉の花嫁になるのだと信じていた。

 愛し、愛され。互いに慈しみ合いながら、素晴らしい家庭を作る。

 子供は最低でも二人は欲しい。

 可愛い子供に、優しい夫。

 奏は、ずっとそれが現実になるのだと信じて、乙女のように夢を見ていた。

――――だが、現実はあまりにも残酷だった。

 頼もしい番になる筈の正嘉は幼く、奏の事など眼中にもなかった。

 あの当時、番になる事への憧れを本気で夢見て、幸せな未来を信じていたのは、奏ただ一人だけであった。

 それが、どれだけ虚しく悲しかった事か。

――――やがて味わった屈辱と絶望…………。

 奏は世を恨み、自分の不甲斐なさに失望した。

(僕がもっと、美しかったら)

 こんな価値もない平凡な男体でなく、せめて女体であったなら。

 誰もを魅力するような、綺麗なオメガであったなら。


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