インチキで破廉恥で、途方もなく純情。

亜衣藍

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「お前は、本当にいい子だよ。素直で真っ直ぐで純真だ。そんな子が、幸せになれずに――――自分勝手なアルファやベータに翻弄されるなんて、オレはそんな理不尽は許せない……! 」

 七海は美しい顔へ朱を走らせると、そう憤怒の声を漏らした。

 ああ、この人は損得抜きに、本当に心から奏の事を想ってくれている。

 その事実に、奏の涙腺は緩む。

「すみ――すみません…………。僕はもう、どうしたらいいのか――」

 奏を慈しみ、愛して護ってくれる筈の頼もしい番はいない。

 正嘉も栄太も頼れないし、こんな事とても二人に相談出来ない。

 誰も頼ることが出来ずに、暗い気分で途方に暮れていたが、唯一七海だけは親身になって相談に応じてくれるはず――――そう思い、ここまで身体を引き摺って来た。

 そしてやはり七海は、思っていた以上に、奏へ愛情を傾けてくれている。

 その事が何よりも、今の奏は嬉しかった。

「ありがとうございます、七海先輩。本当は――――先輩の方がずっと大変なんだし……僕のこんなトラブルを持ち込むなんて、非常識な……」

「そういう遠慮は、しなくていい! むしろ相談されない方がショックだよ。奏は、オレの可愛い後輩で弟みたいなものなんだから」

「せ、先輩……」

 涙が溢れそうで、目が霞んでしまう。

 奏には、両親も兄弟いるし『番』の栄太や――――正嘉もいる。

 でも、その誰にも頼ることは出来ないという孤独な現実。

 しかし、この七海だけは…………奏の事を一番に考えてくれる。

「ごめんないっ――ご、ごめんなさい! 僕……こんな大変な時に甘えてしまって……」

「気にするな。お前が幸せになってくれなきゃ、オレだって安心してあの世に行けないさ」

 七海は優しく言うと、テキパキとデータを分析して薬を調合し始めた。

 しかし、そうして動いている七海は――――車椅子ではあるが―――一見すると、全くの健康体であるかのようだ。

 つい先日会った時よりも、ずっと元気そうに見える。

 病院で長きに渡り眠っていた時の方が、萎れた薔薇のように儚く崩れ落ちそうだった。


 どうして、こんなに健康を取り戻したかのように見えるのだろうか? 


「その、先輩は――体調の方は…………」

「ああ、すこぶる元気だよ」

 ニコリと笑って言うが…………。

「あと5年の命を捨てて1年に集約する計画を立てたから、本来なら使用を控えるような薬も躊躇わずに投与しているんだ。九条が大病院も経営してくれていて助かったよ。お陰で、様々な薬を手に入れ易い。ベビーに影響ない範囲で、どこまで人体を薬漬けに出来るか実験をしている気分だよ」

 明るい口調で言うが、やはりショッキングな答えだ。

 だが、中途半端な同情や慰めは意味がない。

 だから奏も、涙を拭いながら出来るだけ明るい声で応じた。

「そ――そうですか! さすがは七海先輩ですね、とても……頼もしいです。僕も七海先輩を見習って、強く生きるように頑張ります」

「ああ! ショックだろうが、だからって泣いていても状況なんて悪い方にしか動かないからな。変わらない運命なら、その中で最善を目指して抗おうじゃないか」

「はいっ」

 青白い顔で、それでも少しだけ元気を取り戻して微笑む奏に優しく視線を注ぎながら、七海は『気になる点が幾つかあるんだが――』と口を開いた。

「アルファに項を噛まれて『番の契約』を交わしてしまうと、幾ら鎮静剤や鎮痛剤を投与したとしても、もう他のオスを受け入れる事は不可能な筈なんだ。場合によっては、ショック死する事もあると報告されている。だから、今の奏の状態はかなりのミステリーなんだが……」

「え? そうなんですか? 」

「うん。これは――どうも、オレの知る一般常識からは、かけ離れているな……」

 首を傾げながら、七海は言う。

 奏は、体調は確かに悪そうだが、それでも、馬淵栄太と性交は出来たと言う。

 これは、今までの報告には無い異常事態だ。

 通常であれば、奏の子宮に宿っているのはアルファの番の命であろう。しかし、こう想定外の事態が起こるのであれば――今までの、その常識が覆るかもしれない。

「奏、早まるなよ」

「? 」

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